魔族の国にお別れを
牢の中の王太子たちは、故郷で何が起こったのかを知らない。
「魔貴石」の正体を知った時にはひどく空虚な思いを抱いていたが、時の経過とともにいつもの(根拠のない)自信に満ちた嫌な男たちに戻っていた。
そんな彼らの前に、再び魔王たちが現れた。
「そこから出してやる。故郷へ戻るがいい」
「な、に……? 私たちをここから出すというのか」
自分たちが企てていたことに対して、何らかの罰でも加えるのかと身構えていた。
ラッキーだ、という思いを抱くと同時に、肩透かしをくらったような気分でもあった。
「戻す前に、今身に着けている服装だけでもリフレッシュしておいてあげるよ~」
光希は、王太子たちの現在の装備品一式に対して新品の状態に戻る魔法を使った。
「そんでもって『クリーン!』。はい、体も清潔にしてあげたわよ~」
祥子が王太子たちの体の汚れを落としてやる。
もちろん、それは親切でやったことではない。
「ではゴミカス一行よ、さらばじゃ」
妖精女王が転移の魔法を発動させる。
王太子たちが何か言う間もなく、アステリア王城の前に戻されていた。
ぼーっと城を見上げているうちに、衛兵のほうが先に気づいて王太子たちの帰還を国王に知らせに行った。
衛兵からの連絡で、ゴーミクズーダたちが無事に戻ってきたと知り、国王たちは心の底から安どした。
魔族に囚われ、苦しめられているのではないか。もう戻ってくることはないのではないか。
そんな心配をしていたので。
魔王との会合の結果は、散々だった。
諸外国の王族やジャーナリスト、一般の市民にさえ、国王たちの悪だくみを知られてしまった。
そしてアステリア王国の評判は地に堕ち、交流を拒否する国や商人が続出した。
いずれアステリア王国の民たちにも、こうなってしまった経緯を知られることになるだろう。
家臣や民からどのような反応があるか、想像するだけで胃が重くなる。
そんな中で訪れた、明るいニュース。
国王、宰相、騎士団長は、一人の親として息子たちと対面しに行った。
「……は?」
だがそこにいたのは、肉付きも血色もいい、むしろ太ってつやつやぷるぷるしている息子たちだった。着ている服も新品同様で、出かけた時と変わらない。
苦労の跡など見えやしない。
魔族との戦争を起こすために、魔王の妹をさらいに行ったのではなかったのか。
魔貴石を拾える場所を聞いて、そこへ調査へ向かったのではなかったのか。
国王たちの胸にわき起こる、息子たちへの不信感。
その時騎士団長は、団員たちの雑談から耳に入れた、ある情報を思い出した。
なんでも、高級娼館では客のプライベートの時間を邪魔させないように、魔鳥よけの魔道具を使っているらしい。
お楽しみの最中に用事などで呼び出されては興ざめだからだ。
「もしや、息子たちは魔族の国になど行っておらず、高級娼館で遊んでいたのでは……」
ついつぶやいていしまった言葉に、国王も宰相もハッと反応する。
「お前たち、魔族の国に行っていたのではなかったのか?」
国王の声には、厳しく問い詰める調子が含まれている。
「も、もちろん行っておりました。ですが、突然6人組の冒険者が現れて……」
「何!? 6人組の冒険者だと?」
魔王が出会った冒険者とは、息子たちのことではなかったのか。
ゴーミクズーダたちは何度も首を縦に振る。
「そうです。そいつらが突然現れて暴力をふるって、石の牢に私たちを閉じ込めたのです。つい先ほどまでずっとその中で過ごして、突然城の前に移動させられたのです」
この世界の魔法水準では、複数の人間を遠距離転移させることなど不可能だとされている。
国王たちは、叱られたくないばかりに息子たちが嘘をついていると判断した。
「もうよい。お前たちはしばらく謹慎しておれ」
息子たちを指さし、国王が宣言する。
その時、国王の手首を飾る光るものに王太子たちは気づいた。
「あ、それは――!」
ゴーミクズーダの視線でそれに気づいたのか、国王たちは自身の手首に光るものを見せつけた。
「あのろくでもない会合の、唯一の成果だ。魔王が献上品として置いていった魔貴石だ」
「魔貴石」をつなぎ合わせて作ったブレスレットを、不機嫌そうに撫でる。
王太子たちは顔を青くする。
(ああ、アレを身に着けている上に、素手で触るなんて……。父上のことだ、きっと人目のないところでは口づけているのだろう)
(陛下にはとてもアレの正体を教えることはできない……)
黙り込んでしまった王太子たちを、反省していると考えた国王は、それ以上責めるような態度は見せず、謁見の間を後にした。
その後王太子たちは離宮に連れていかれ、外出を禁じられた。
人を招くことも禁じられ、質素な生活を強いられた。
今でこそおとなしく従っているが、数日もすれば待遇の改善を求めて騒ぎ出すだろう。
*
アステリア王国との国交は成らなかったが、その様子を見ていた諸外国からは魔族と交流を持ちたいとの声がかかった。
空を飛んで移動できるなら、アステリア王国の上空を素通りして、国境の検問所前まで来ればいいと言ってもらえた。
魔力阻害装置への対策として、魔族の民には妖精女王が開発したお守りを配布した。
あくまで生命の維持と、念話を可能にする程度の効力しか持たせていない。
本来、魔力阻害装置は魔法による大規模破壊活動を防止するためのものだ。通常通りに魔法が使えるお守りを身に着けていては、人間たちに不信感を抱かせてしまう。
「諸君らには本当に世話になった。リアンナを助けてくれたことに心から感謝する」
この世界でなすべきことを終え、勇者たちと妖精女王は妖精城に帰ることになった。
多少の名残惜しさはあれど、気分は晴れやかだった。
「私たちが出会った『魔王』が、あなたのようなかたでよかったです」
朝香が差し出した右手を、魔王が握る。
「君たちは何というかかなり破天荒だが、それゆえに大きな壁を突破できたのだと感じている」
順番に握手と別れの言葉をかけ合い、魔法陣を起動する。
「さようなら、お元気で!」
見送ってくれた魔王もリアンナも、笑顔だった。
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