罠にかかったのはどちらか
謁見の間でアステリア王国国王ラールワイーズと、魔族の王フィアードが対面する。
「このたびは突然の申し出にもかかわらず、話し合いの場を設けていただいたこと、感謝申し上げる」
背が高く鍛えられた肉体を持つ魔王に、国王たちは焦りと不安を覚えていた。
(魔力さえ封じれば、途端に弱くなるのではなかったのか?)
(は、はい。魔族とは基本的にそうなっております。魔王は剣の達人という噂は聞いておりましたが、誇張表現だろうと考えておりました)
当たり障りのない社交会話の後、魔王がにこやかに話題を転換する。
「実はここ最近のことであるが、6人組の人間の冒険者と話す機会を得たのだ。彼らは非常に気さくな人柄で、私の妹とも仲良くしてくれたのだ」
国王たちは、胸元に冷たい刃を突き付けられた気分だった。
6人組。魔王の妹と仲良く。
あまりにも心当たりのありすぎるキーワードだ。
その冒険者が身分を隠した王太子たちであると知られるわけにはいかない。
それゆえ国王は笑みを張り付かせたままで「ほう、そうであったか」などと返すしかない。
「彼らがあの辺鄙な山奥まで上がってきたのは、ひとえに『魔貴石』なるものを求めてきたからだそうだ。それを持って帰ると彼らの父君たちが喜ぶから、という話でな。親思いの彼らに感心した私は、その石が比較的よく採れる場所を教えて差し上げた」
魔王がにこりと微笑むが、後ろ暗いところのある国王たちには邪悪な笑みにしか見えなかった。
「そ、その冒険者たちはいったいどこへ……!」
我慢しきれずに騎士団長が叫ぶように尋ねる。
「魔竜が暮らす山のふもとへ。強い風が吹いた後には、大小さまざまな石が落ちているのだ。ふもとならば魔竜を刺激することもなく安全だが、巣に近づくと危険だとも教えておいた」
そこで魔王が背後を振り返ると、お供のうちの1人が金色に輝く宝箱を差し出す。
RPG風の宝箱をわざわざ作ったのは、勇者たちの遊び心だ。
魔王がその蓋を開くと、大きさも輝きも見事な「魔貴石」が宝箱いっぱいに詰め込まれていた。
「おお――」
王国側の人間たちから、感嘆の声が上がる。
「こちらの石を友好の証として差し上げよう」
王国側の文官がその宝箱を受け取り、国王に差し出す。
国王はそれを手に取り、光に透かしてみる。
拳よりも少し小さいくらいの、澄んだ青い色の石。濃密な魔力を感じる。
(こ、これほど素晴らしい石があるとは! だから息子たちは大量に採取しようとして、その山から戻ってこないのか?)
(もしかしたら捕まってなどいなくて、せっせと魔貴石を集めているのかもしれない。魔鳥が帰ってこないのは、うっかり魔竜の縄張りに近づいて、やられてしまったのだろう)
国王たちは勝手にいいように解釈する。
「では、ありがたく頂戴しよう。しかしこれほどの石を、貴殿らは譲り渡して平気なのか?」
「一向にかまわない。魔力は各々の身の内に宿しているし、石を飾りとして用いる習慣がないのでな」
そう言って魔王は、自分たちの服装が証拠とばかりに軽く手を広げる。
確かに彼らは宝石の類を身に着けていないようだ。肌の露出が少ない服装のため、見えているのは顔ぐらいだが。
次に国交を結ぶにあたっての約束事を定める段階に入る。
「私たち魔族が望むのは、平穏な生活だ。魔族というだけで街を歩くこともままならないようでは、国交を結ぶ意味がない」
「ウム。相互に不可侵の協定を結ぶこととしよう」
国王はもっともらしい顔つきでうなずきつつ、そんなもの守るつもりはないがな、と胸の内であざ笑う。
「では、違反した際の罰則も具体的に明文化しよう。例えば貴殿たちの国では、誘拐や人身売買を行った人物をどのように裁いているだろうか」
国王は答えるのに少しの間ためらった。
「――いずれも縛り首だ」
「では、それに倣うとしよう。我が魔族の国内でそのような行為に及ぶ人間がいれば、厳正な裁判を行ったうえで刑を執行しよう」
それに同意してしまえば。
もしもゴーミクズーダたちが当初の予定通り魔王の妹をさらってしまえば――。
すでに魔力阻害のアイテムは起動させてある。
だが魔王に魔力封じの腕輪を装備させていない。
国王は「どうせ反故にする決め事だ」と、自分を抑えつけて同意するふりをする。
協定に盛り込まれた文言は以下の通り。
『魔族はアステリア王国の土地に滞在している間は、その土地の法に従うべし。
違反すれば、その土地の法で裁かれる。
また、魔族の国内であっても人間に対し暴力や差別的な発言をしてはならない。
アステリア王国の人間は、魔族を人間と同等の存在として扱うべし。
魔族の国で罪を犯した場合、魔族によって裁かれる。その法はアステリア王国のものを基準とする。
魔族の国内にて、魔族に対し魔力を阻害する魔道具を使ってはならない。
また、魔法で攻撃する危険がある場合を除き、魔力を封じる魔道具を魔族に装備させてはならない。
それらの行為は、魔族の生命活動を阻害するものであり、長時間その環境に置かれた魔族は衰弱するためである。
違反した場合、その魔道具は破壊され、使用した人間は悪意の強さと被害の大きさによって罰される。
魔王は友好の証として、アステリア王国の国王に毎月魔貴石を贈呈する』
同じ書類を2通作成し、各々署名する。
「ウム。これで我らが協定は成ったな。ではこれは私からの贈り物だ」
国王が合図すると、控えていた文官が銀の腕輪を載せたトレイを持って進み出る。
「ほう。これは見事な意匠であるな」
繊細な彫刻の技術を魔王がほめたたえる。
「気に入ったのなら、今身に着けてみてはくれぬか?」
舌なめずりするような顔で国王が勧める。
魔王は警戒するそぶりも見せず、礼を言いながらその腕輪を装着する。
それを見届けた国王は、高笑いする。
「ハハハ! これで貴様もただの木偶の棒だ。やってしまえ、騎士団よ」
国王の号令で騎士団員が動き出す。
身構える魔王は、ふと何かに気づいたふりをする。
「な、魔力が……!」
うろたえる演技は非常に真に迫っている。
「ま、魔王様?」
祥子たちも何もわからないていで魔王の心配をする。
そこへ押し寄せた騎士団が攻撃を加える。
丸腰の相手に、剣や槍で。
「ぐっ。協定はどうしたのだ、ラールワイーズ王よ」
攻撃を避けながら魔王が必死に呼びかける。
「貴様ら魔族ごときと対等な関係など結ぶはずがなかろう。貴様らは人間の奴隷として、搾取され続ければよいのだ」
国王や宰相が哄笑を上げる。
「きゃああああ!」
祥子がきれいな伸身2回ひねり&床ローリングで、吹っ飛ばされ演技を見せる。
(さすがサチコさん。ヒーローショーで培ったやられモーションも冴えてるう!)
智也は感心しつつも、同じように派手な悲鳴を上げつつ吹っ飛ばされる。唇の端からケチャップを少々たらすことも忘れない。
国王たちの目には、魔王たちがなすすべもなく叩きのめされているように映っている。
だから気分が高揚しすぎて、つい饒舌になる。
「貴様らは、我がアステリア王国の城内で暴れた罪で投獄されるのだ。その非道な行いをただすため、我らは正義の鉄槌を魔族に対して下す! 証言するものなど誰もいないのだ。貴様ら魔族は全員捕らえ、酷使し、殺してやる。見目のいい奴はペットとして飼ってやってもいいがな。ハハハハハ!」
勝ち誇る国王の声を遮るように、凛とした声が響き渡る。
「そこまでよ! ラールワイーズ王!」
「なんだ? どこにいる?」
国王も騎士団員も、声の出所を探して視線をさまよわせる。
「とう!」
掛け声とともに、華麗に着地する3つの影。
赤、黄、銀の戦士たち。
レッドは「ヒール!」と魔王たちに回復魔法をかける(ダメージは受けていないが)。
それに合わせて祥子がクリーンの魔法を使い、ケチャップ汚れを消す。
「魔力を阻害する装置は壊させてもらった」
イエローは背が高く体格も立派なので、立ちはだかるだけで迫力がある。
魔王の腕輪も素手で破壊する。
騎士団員たちはひるんでしまい、動きを止める。
「それから、ここの様子は諸外国の皆々様にバッチリ見てもらってるから」
シルバーがタブレット端末型魔道具を取り出し、国王の高笑いシーンから再生する。
擬態シノビたちが姿を透明化し、彼らが視界に収めたものが全世界に放送されているのだ。
「これと同じ映像を、リアルタイムで周辺諸国の偉い人やジャーナリスト、町の人たちが見てるんだよ。なんか申し開きしてみる?」
国王はぐぬぬ、とうなるが、
「こんなのは魔族が使うおかしなまやかしだ! ええい、面倒だ。こいつら全員殺してしまえ!」
ついに言ってはいけない言葉を口にした。
レッドは大きく息を吸い込むと、
「いい加減にしなさい!」
と「雷を落と」す。
強めの静電気に触れたように、謁見の間にいるアステリア王国の人間たちは体がしびれて動けなくなる。
レッドの広範囲スタン技だ。
手加減攻撃を繰り返し行ってきたことで、ようやく実戦で使えるようになった。
シルバーが手元のタブレット端末型魔道具を操作して、任意の地点の端末と通話できるようにする。
画面の中央にはラールワイーズ王が、左右に3つずつ並ぶウインドウには諸外国の王や新聞社の記者たちが映っている。
「ラールワイーズ王よ。貴殿の行いはすべてこの魔道具を通して見てきたぞ」
「交流を持とうと友好的に接してきた魔族をだまし討ちにしようとするなど、人間の恥だ!」
「そうだそうだ! 人間が魔族を迫害していた歴史をまた繰り返そうとするなんて。恥を知れ、人でなし!」
非難の声が集中するが、ラールワイーズ王は体がまひして言い訳を述べることもできない。
「皆、お待たせ」
そこへブラックが戻ってくる。
彼女が小脇に抱えているのは、立派な装飾の施された文箱だ。
国王の執務室に隠し場所があり、扉の開け方も中にどのようなものが入っているのかも、国王に張り付いていた擬態シノビが見ていた。
ブラックは文箱を開ける。
ラールワイーズ王は、体が動くならば「やめろーーー!」と叫んでいただろう。
文箱に入っていたのは、対魔族戦争計画書だった。
誰が何を提案し、どのように変更を加えたか、順を追って綴じてある。
イエローがページを開き、文書が読めるようにする。それをタブレット端末型魔道具のカメラ機能で写しながら、シルバーが音読する。
その内容のあまりの自己中心的思想、残虐さに、諸外国の王たちは憤りを隠せない。
(そろそろいいかな。クリスタルオウル、魔鳥をこっちに来させて)
シルバーが、待機させていた自分の聖獣にテレパシーで指示を出す。
(了解しましたわ、シルバー。さあ、お行きなさい。あなたの主人のもとへ)
魔鳥用の小窓から黒い鳥がパタパタと舞い込んできた。
(な、なぜこのようなタイミングで――!)
ラールワイーズ王は、かなうものならその魔鳥を全身で振り払いたかった。
しかし魔鳥は務めを果たすべく、国王の肩に行儀よく留まる。
すると魔術的ロックが解除され、筒に入っていた手紙がひらりと床に落ちる。
「何か落ちましたよ。――これは!」
レッドが手紙を拾い上げ、ついうっかり文面が目に入ったようにふるまう。
「皆さん、見てください。この手紙には魔族の女性をさらうことや、戦争を始めるつもりがあることが書かれています!」
シルバーが構えるタブレット端末型魔道具に向かい、手紙を広げる。
スクリーン越しに見ていた何人かから、反応がある。
「これはラールワイーズ王の文字だ!」
「このようなことを考える王が治める国とは、安心して交流を持つことはできぬ!」
かくして、アステリア王国は諸外国の皆々様方からフルボッコにされたのだった。
読んでくださって、ありがとうございます。
下のほうにある評価(☆☆☆☆☆を★★★★★へ)、リアクション、ブックマークなどしていただけましたら、はげみになります。
よろしくお願いします。




