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罠をしかけているのはどちらか

 それまで北方の山岳地帯に隠れ住んでいた魔族の王から、文が届いた。

 その文をもたらしたのは鮮やかな赤い羽に優美な長い尾羽を持つ鳥で、その瞳には知性が感じられる。

 文官が捕まえようとしたが機敏にかわし、返事を待つつもりか人の手の届かぬ高い場所から見下ろしている。


 アステリア王国の国王ラールワイーズは魔王からの手紙に目を通した後、複雑な感情とともに視線を臣下に向ける。


「魔族の国の王が、我が国と国交を結びたいと申し出てきた。人間の世界では希少とされる、珍しい石を献上したいとも書いてある」

 ただそれだけならば、喜ぶべきことだ。


「だが、ゴーミクズーダからの連絡が途絶えた後のこの文書ではな。魔鳥が戻ってこないのも、奴らに捕らえられたと考えるべきだろう。括りつけた書状も、当然読まれておるだろう。魔力認証を施していても、ゴーミクズーダに開封させればよいだけだからな」


 国王が王太子にあてた手紙には、以下のようなことが書かれていた。


『愛する息子ゴーミクズーダよ。

連絡がなく心配しておるぞ。魔族の娘は計画通りにさらえたのか? 次の段階に移るためにはその成否を知らねばならぬ。魔族との戦を始めるのは別に今すぐでなくても構わぬのだ。失敗したのならそれでもよい。ともかく急ぎ返信せよ。

父より』


 その手紙を読めば、とうてい平和的な付き合いができる国とは考えないだろう。

 なのに向こうから国交を結ぼうと申し出てくるのは――。


「手紙を読んだがゆえに、先手を打って近づいてきたのやもしれませぬな」

 宰相が心配げな顔で告げる。

 王太子と同行している取り巻きの内の一人(眼鏡)が、宰相の息子なのだ。


「つまり、国交を結びたいなどと殊勝げなことを言って城に上がり込み、乱暴狼藉を働くかもしれないのですな?」

 騎士団長がぎりりと奥歯をかみしめる。

 王太子と同行している取り巻きの一人(脳筋)が(以下略)。


 国王はそこで一計を案じた。


 謁見の間の周囲に魔力を扱えなくする装置を置き、最大レベルで稼働させておく。

 友好の証として魔力を封じる腕輪を魔王に渡し、身に着けさせる。

 そして王国自慢の騎士団が魔王とその供の者たちを痛めつけ、王太子たちをどうしたのか吐かせる。

 聞き出した情報がどうあれ、魔族側に非があることをでっちあげ、戦争を仕掛ける。


「息子たちの安全が第一だが、魔族の連中も自分たちの王を拘束されていれば抵抗もできまい」

「そうですな。奴らは同胞をことのほか大事にする生き物のようですからな」

 国王とその側近たちは醜悪な笑い声を上げる。


「そうと決まれば、準備だ」

 国王は魔王への返事をしたため、使いの赤い鳥に持たせた。

 飛び立つ際に赤い羽が数枚ひらりと落ちたが、国王たちは鳥の姿を目で追っていたために、いつの間にかそれらが消えていても誰も不思議に思わなかった。


 *


 ファイヤーバードは書状を持ち帰ると魔王に渡し、国王たちの悪だくみもきっちり伝えた。


「ありがとう、ファイヤーバード。聖獣たる貴君に魔鳥の真似をさせ、申し訳ない」


『いいえ、お気になさらずに。私たちもアステリア王国のやり方には憤りを覚えています。あなたのお役に立てることを幸いに思っています』

 ファイヤーバードの言葉に、他の聖獣も人間たちも同意する。


「今後のことも考えれば、魔力阻害アイテムへの対策は必須だね。この世界では防犯目的で普通に使用されているみたいだから」

 光希が指摘した通り、この世界では魔法による広範囲攻撃が脅威となる。それゆえ公共の施設では魔法の使用が制限されることが多い。


 人間にしてみれば魔法が使えなくなるだけだが、装置を最大レベルで稼働されれば魔族にとっては体に不調を覚えるレベルになりえる。


「装置の実物があれば、解決方法も見つけ出せるかもしれぬがのう」

 妖精女王のつぶやきを、勇者たちは聞き逃さない。


「ちょっと人間の町まで行って、買ってきます! 凛太郎さんにはボディーガードで一緒に来てほしいな~。見るからに強そうな強い人だし」

 光希は聖獣に乗せてもらい、大きな町までひとっ飛びするつもりのようだ。もちろん飛んでいる間は隠ぺいの魔法はかけた状態で。


 魔力を阻害するアイテムへの対策は、光希と妖精女王に任せることにした。


 残ったメンバーで話し合いを続ける。

 

「魔族が安心して過ごせる環境を整えたい。そのためには魔族に不当な暴力をふるうことをやめさせねばならない」

 魔王の思いはそこにある。

 リアンナもこっくりとうなずく。


 人間の中にはいまだに魔族に対する差別意識が強いものがいる。

 アステリア王国の王族などがその最たるものだ。


 まずはアステリア王国を踏み台として、魔族は人間と友好的な関係を築きたいと真摯に願っていることを周辺の国にも知らしめる。

 大事なのは魔族に対して警戒心を抱かせないこと、甘く見られないこと。


 *


 魔族とアステリア王国との国交樹立式典。

 それが開催される前日、周辺諸国に言葉を話す鳥が現れた。


『魔族の国の王様が人間の国と仲良くしたいって言ってるッポ! でも人間のことをよく知らないから、失礼な態度をとってしまうかもしれないって魔王様が心配してるッポ! だからアステリア王国の人たちとの会見の様子をいろいろな人に見てもらって、ご意見ご感想を聞かせてほしいんだポー!』

 と、魔道具を置き、翼の先でボタンにタッチして起動させる。


 空中に半透明のスクリーンが現れると、人々がどよめく。

 スクリーンには文字が大きく映し出される。


『魔族の国とアステリア王国の国交樹立式典まであとXX時間!

 それまではスクウンジャーの活躍を見てお過ごしください☆』


 画面の上部分にカウントダウンの数字が表示されたまま、突如始まる「勇敢戦隊スクウンジャー」のお芝居。

 智也と祥子がせっせと台本を書き、オリジナルのミニドラマを撮影した。

 変身した姿だけで演技したので、素顔は見せていない。


 全編「ロケ地;魔族領」の、観光案内も兼ねている。

 美しい魔族のリアンナが恐ろしい魔獣(注;着ぐるみ)に襲われたとき、さっそうと現れ魔獣を撃退する戦隊ヒーロー。

 彼らは妖精の女王(本人出演)の祝福を受け、戦う力を得たのだ(という設定)!

 聖獣も成体バージョンで登場し、迫力満点の合体シーンを魅せる。いかつい魔族城を背景に立つ姿は、とてもかっこいい。

 笑いあり、バトルありの、かる~い気分で見られるドラマだ。

 もちろんドラマのおしまいにダンスもつけた。


 それを5本ばかり撮り、順次放送する。

 興味のある人間は大型スクリーンの前で、ずっとドラマを眺めて過ごしていた。


 そして各国の代表と新聞社には、卓上サイズのスクリーンと魔王フィアードからの親書が。


 親書にはこう書いてあった。


『この度、魔族は人間の国との交流を持つことを決意した。


 人間にとっての数百年とは遠い過去かもしれぬが、数千年の寿命を持つ魔族にとっては数日前と同じことである。人間による迫害の記憶が生々しい同胞も多い。

 ただ、閉じこもったままの生活に不便を感じている同胞がいるのもまた事実だ。


 そこで我が国と隣接しているアステリア王国と交流を持ち、今後の対応を決めたいと思う。

 ついては、周辺諸国のお歴々にアステリア王国との国交樹立式典の様子をつぶさに見てもらい、忌憚のない意見をいただければ幸甚に思う。

 人間との対等な付き合い方を知らぬゆえ、礼を失する行いをしている可能性もあるために。


 今後貴殿らとも友好的な交流が持てることを祈りつつ。


 魔王フィアード』



 *


 そうして、周辺諸国の貴族も平民も大人も子どもも見守る中、そうとは知らないアステリア王国の国王たちは、魔王たちが現れるのを待ち構えていた。


 魔族の一行は、空飛ぶ馬車で現れた。

 つやのある黒い車体に銀の装飾が施された、気品がある客車。


 浮遊の術式を刻んだ客車を、翼の生えた馬型の魔獣2頭にけん引させている。

 魔獣への指示は、隠ぺいの魔法で仲間以外からは見えなくなっている聖獣が並んで飛びながら行っている。

 

 初めて目にする美しい魔獣、客車の豪華さに、アステリア王国の人々は感嘆の声を上げる。

 そして降り立った魔王の美丈夫ぶりに目を見張った。


 魔王の供として文官らしい服を着て付き従っているのは、祥子と智也だ。

 魔族っぽく見えるように青白い肌色にメーキャップして、瞳の色をごまかすためにカラーコンタクトをつけている。


 魔王たちが人々の目をくぎ付けにしている間に、隠ぺい魔法で姿を消した別動隊は王城への潜入を果たした。

 怪しい場所は先日潜入させた擬態シノビが探り当ててある。

 魔力阻害アイテムの配置場所。

 魔族への戦争計画書の隠し場所。


 妖精女王は城に残り、魔力阻害アイテムの研究に励んでいる。

 魔力阻害アイテムには、魔素をかき乱すタイプと魔素を極端に減少させるタイプに分かれるらしい。


 今回の式典に合わせて、安定した魔素を体の周囲に巡らせる魔道具を作ってもらい、お守り代わりに身に着けている。

 魔素を断たれると念話が使えなくなるようなので、とても心強いのだ。

読んでくださって、ありがとうございます。

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