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魔王の帰還

昨夜1話飛ばして投稿していました。

この前にもう一つお話があります。

 その日は期待と緊張で、皆が落ち着かない気持ちで過ごしていた。


 魔王が召喚されたであろう時刻の後、向こうの世界にいた魔王が戻ってくる。


 勇者たちはこの世界のなりゆきをある程度見届けたら、妖精女王とともに向こうの世界に戻り、ちょっとした用を済ませたら自分たちの世界に戻るつもりでいる。

 魔王やリアンナ、妖精女王とお別れとなる。


 そのつもりでいたのに、この世界にいた魔王は突如姿を消してしまった。

 それにやや遅れて、再び魔王が姿を現した。


 勇者たちも妹も妖精女王も、言葉が出てこない。

 一度姿が消えた意味を、勇者たちは直感で悟った。

「まさか……。でも、どうして?」


 魔王は彼らの表情を見て苦笑する。

「予測とは違う結果になり、驚いているのか?」


「あ、いえ。お帰りなさい……ませ」

 ぎこちない笑みで朝香は答える。


 異世界に召喚されたのだ。しかもそれは魔王本人が望んで行ったことに相違ない。


「過去の私に頼んで、やり直しをしてもらうことにしたのだ」

 さっぱりとした顔で魔王は笑う。


 魔王は、過去の自分と連絡を取り合って定めた計画の概要を語った。

 あの世界に再び召喚され、勇者たちを元の世界に戻す以外は先の歴史と同じ行動をとる。200年の間。


「おそらく諸君らが気に病むだろうと過去の私が言っていた。私自身が願って始めたことなのだから、気にすることはないのだ。『アイツ、無茶しやがって』くらいでとどめておいてほしい、と言っていたぞ?」


 そのセリフに日本から来た人間たちは脱力する。

「魔王様、適応力高すぎ」

「私たちの会話に耳を傾けてらしたけど、ネタとかギャグとかまで取得されていたなんて」

 ただただ感心するばかりだった。


「では、しんみりとするのはこのくらいにして、これからの話をしようではないか」

 年長者らしく妖精女王が話題を切り替える。


「そうだな。諸君らは何か希望はあるか?」


「いえ。この世界のことは、この世界の人たちの意思を尊重したいので」

 遠慮する朝香、凛太郎、舞。


「どうせならアステリア王国の人間をざまあしたいよね♪」

「智也君、ナーイス! 戦争の歴史は回避できても、あいつらが魔族に対して邪な企みをしていることに変わりはないからね」

 積極的に乗っかりに行く智也と祥子。

 光希と妖精女王はにこにこしながら見ている。


「なるほど。ではまずは王太子たちに挨拶といこうか」


「はーい。お供しまーす」

 祥子が元気よく挙手する。


「そういえば、森の上をぐるぐる飛び回ってる魔鳥がいたから、捕まえておいたの。――ちょっと待ってて」

 と、リアンナが談話室に駆けていく。


 しばらくして戻ってきたリアンナは、真っ黒で鳩ほどの大きさの鳥が入った鳥かごを下げてきた。

 魔鳥の足に取り付けられた筒状の金具には、手紙が入っているようだ。


「魔法的な仕掛けが施されているみたい。特定の人物しか開けられないみたいよ」

「ああ、ちょうどいい。必要な時にしかるべき人物に開封してもらおう」

 魔王はリアンナに対してにこりと笑いかけ、魔鳥の世話を引き続き頼んだ。


 転移する前に、寒さや空気の薄さから防護する魔法、魔竜に見つからないための魔法を光希がかける。


「では、牢の前まで転移しますね」

 皆で輪になって手をつなぐ。

 妖精女王は朝香の肩の上に腰かける。


 一瞬で周囲の景色が変わる。

 城の謁見の間から、雪と岩ばかりの山の中へ。


「な、なんだぁ!?」

 騒々しい声が聞こえる。

 やや離れた場所に牢があり、王太子たちが驚きに目を見開いている。

 鞄やら服のポケットやらには、自分たちで拾い集めた「魔貴石」が詰め込まれている。


「お初にお目にかかる。私が魔族の長である」

 魔王は魔力を「圧」として王太子たちに向ける。

「ひっ」

 と、情けない声を上げて、王太子たちは抱き合いながら牢の隅に後退る。


「何か用があったのでしょう? 魔王様がお戻りになったから、こうしてやってきたのだけど?」

 朝香は王太子が書いた手紙を取り出して見せる。


 あの手紙は一応回収して、次の食事の時に返事も出しておいたのだ。


「おお、そうか、ご苦労。では早速だが、私たちをあの岩がある辺りまで連れていけ」


「わーお。すっごい偉そう。さっきまで魔王様にビビってたくせに」

 祥子、智也、光希が「プークスクス」と笑ってあおる。


「ぶ、無礼な! 私たちは高貴な身分の者なのだぞ!」

「不敬罪で罰するぞ!」

 王太子とその取り巻きたちがガタガタと騒ぐ。


「静かにしないか」

 魔王が再び圧を放つと、王太子たちは口を閉ざす。


「あの岩がある辺りと先ほど申したようだが、何のためにそこへ行きたいのだ?」

「魔竜がそこに魔貴石を溜めこんでいるようなのだ。それを確認するためだ」

 魔王に気圧されながらも、王太子は何とか返事をする。


「そうか。トモヤ、頼めるか?」

「お安い御用! じゃあ早速やっちゃうよ~」


 智也が両手を空に向かって掲げると、牢がふわりと浮かびあがる。


「いってらっしゃ~い!」

 牢は高速エレベーターのように上がっていく。

「ほぎゃあああぁぁぁぁ」

 王太子たちの悲鳴のようなものが、瞬く間に遠ざかっていった。


 目的の場所を間近で見下ろせる場所に留まっていると、折あしくというか折よくというか、魔竜が1頭降りてきた。

 気配も音声も察知されない隠ぺいの魔法のおかげで、王太子たちが魔竜に気づかれることはない。


 そこで彼らは知ってしまった。


 ここは魔竜のトイレなのだ。

 魔貴石とは、魔竜のフンが結晶化したものなのだ。

 自分たちは、魔竜のフンを独占するために戦争を起こそうとしているのだ。

 諸外国にそれを知られれば、アステリア王国は何代にもわたって笑いものにされるだろう。


 王太子たちは自分たちが集めた「魔貴石」を見下ろす。

 キラキラして、色とりどりで、高い魔力を保有する、素晴らしい石。


 ポケットに入れていた石をつまみ出し、格子のすき間から牢の外へ落とす。

 王太子のその行動に倣い、他の者も「魔貴石」を捨てた。


 降りてきた時の王太子たちは、悄然としていた。

 偉そうな口をきく元気もなさそうだ。


「まだ何か用はあるか?」

 魔王の問いかけに、力なく「ここから出してほしい」という返事だけがあった。


「今すぐは無理だな。10日ほどはここに留まってもらう」

 王太子は了解したのか、黙ってうなずいた。


 魔王たちは城に戻ってきた。

 次はアステリア王国への対処だ。

読んでくださって、ありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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