その頃のアステリア国王と王太子たち
1話投稿し忘れていました!
昨夜投稿した話の前に、この話が来るはずでした。
パソコン買い換えていろいろやってたせいで、どのファイルが未送信分か分からなくなってました。
申し訳ありません。
「おかしい。ゴーミクズーダからの連絡がまだ来ない」
アステリア王国の城内。玉座に腰かける男は眉間にしわを寄せてうなる。
ラールワイーズ。この国の王にして、ゴーミクズーダの実の父親でもある。
魔王の妹を連れ出し、枷を取り付けて無力化させたら、手紙を寄こす手はずになっていた。
よく訓練した早く飛べる魔鳥を使うので、当日のうちに着いてもおかしくないのだ。
しかし夜になっても連絡は来ず、朝を迎えた。
「魔鳥がどこかでなまけているのかもしれません。しょせんは鳥ですからな」
「腕利きの護衛をつけておりますし、私の息子もおります。魔族などに後れを取ることはないでしょう」
宰相と騎士団長が気休めを言う。
「念のためにこちらからも文を出そう。魔族なら我らが知らぬような魔法を用いて、息子たちをたぶらかすやもしれぬからな」
国王は息子あての手紙をしたためると、魔鳥に持たせた。
魔鳥は教え込まれた人物の魔力をもとに、居場所を探し当てることができる。
たとえ魔族の城に囚われていたとしても。
だが国王ラールワイーズは知る由もなかった。
光希がかけた隠ぺいの魔法は、姿だけでなく魔力も察知できなくすることを。
*
一方、その息子たちは――。
「ああ、朝の食事もうまかったな」
「ええ、本当に。一体どこの国の料理なのでしょうか」
「魔族の町ではろくなものがなかったからな。魔族に協力している、あの人間たちのものだろう」
恍惚とした表情で、食事の記憶を反すうしている。
実にのんきな態度だ。
魔王の妹リアンナをさらい、辺境の町一つを魔法攻撃で壊滅させ、それをやったのが魔族だと主張して戦争を始める。
その作戦の最初の段階で失敗してしまっているのだが、王太子たちに悲壮感はない。
「魔貴石」が大量に手に入る場所を見つけたから、言い訳は立つと思い込んでいるのだ。
そして彼らは安心しきっている。
牢に入れられるまではコテンパンに打ち据えられたが、それ以降暴力を振るわれていない。
与えられた毛布は清潔で質もよかった。
牢の中は寒くも暑くもない、ほどよい気温で過ごしやすい。
食事がおいしい。
しかも、これまでに見たこともないような珍しいものだ。
トイレは溝の上で用を足し、水をかけて流さなければならない。風呂とベッドがない。
そういった不満もあるが、自分たちの身に直接危害を加えられることがないため、どこか楽観視している。
そのうち牢からも出られるのだろう、何しろ自分たちはアステリア王国の王太子とその供のものなのだから、と。
牢の周辺は山と雪ばかりが見える。
時折、大きな魔竜の影が通っていく。このあたりに縄張りがあるようだ。
それゆえ弱い魔物は近よらない。
山のそばでは強い風が吹いているらしく、雪の白銀の光の中に色とりどりの光が混じる。朝日を受け、きらきらと光りながら舞い落ちる様は、なんとも美しい。
彼らは息をのみ、神々しい眺めに見入る。
「早く城に戻り、父上にこの場所を報告したいものだ」
彼らは未だに信じていた。自分たちには輝かしい未来が待っていると。
王太子たちの日々は、ベッド、風呂、トイレへの不満と、食事への満足と期待、「魔貴石」が風に舞い牢のそばへ転がってくるのを拾い集めることで過ぎていった。
小さな不満もあるが、満ち足りた虜囚生活を送っていたある日のこと。
魔竜たちがけんかを始めた。
山の途中に大きな岩があり、彼らはよくそこへ集まっていた。
しかしお互いに何か気に食わないことでもあったのか、翼を大きく広げ、ギャアギャアと鳴き声を上げて威嚇を行っていたが、ついには激しいぶつかり合いとなった。
その衝撃で大岩がいくつか転がり落ちてきた。
同時に大量の魔貴石が宙に舞う。
「あそこに大量の魔貴石が溜め込まれていたのか!」
「そういえば、竜には光るものを好む性質がありますね!」
興奮気味に見上げていた彼らは、もう一つの落ちてくる物体に顔を青くする。
大きな岩が山の斜面を転がってくる。
自分たちのほうへ。
「うわ、うわあああああ!」
ひしと抱き合い、悲鳴を上げる王太子たち。
もう駄目だ。
彼らが死を思ったその時、大岩が牢にあたって砕けた。
強い衝撃も、岩の破片すらやって来なかった。
「ふぇ?」
間の抜けた声がもれる。
「あ。そういえば、この牢を作った連中がここを絶対安全なしぇるたー? とかいうのにした、とか言っていましたね」
「そうか。我らに何事かがあれば、王国との取引が難しくなるからな」
危険が去ると、あたりを見回す余裕も生まれる。
魔竜たちのけんかは終わっていた。何事もなかったかのように空高く飛んでいる。
視線を下げると、大量の「魔貴石」。
残念ながら手の届く範囲まで転がってきたのは、少しだけだった。
「あの大岩があったあたりに、魔竜が魔貴石を溜め込む場所があるのだな」
「大発見ですね、ゴーミクズーダ様!」
歓喜にわいた後、今度はにやりと悪い顔になる。
「どうせならばこの目で確認しておくべきだな」
王太子の言葉に、取り巻きたちは言わんとしていることを察する。
「あの不思議な術を使う人間たちに、我らをあそこまで運ばせるのですね」
「そうだ。この重そうな石でできた牢をここまで飛ばせるような連中だ。あの大岩があった場所の高さまで飛ぶなど、造作もないだろう」
「しかし、奴らを呼び出すのは、どうなさいます? 食事でさえおかしな術で出してくる連中ですよ」
王太子は得意げに口角を上げる。
「あのテーブルの上に、手紙を置いておくのだ。食事と一緒に持っていくだろう」
「さすがゴーミクズーダ様! 素晴らしいお考えです」
*
「――などと得手勝手なことを申しており……w」
「あの人たち、自分たちの立場をわかっているのかな」
擬態シノビが送ってきた映像を、舞が仲間たちにシェアしたのだ。
それぞれの個室でくつろぎながら、通信機を通して感想を述べあっている。
妖精女王はリアンナとともに過ごしているようだ。
「俺たちが今度姿を見せるのは、魔王が戻ってくる頃だと言ってあるのにな」
勇者たちはあきれている。
「あいつらに魔貴石のネタバレくらわすのは楽しみでしょうがないけど、その現場には魔王様にもぜひ立ち会ってもらいたいものね」
ふふふ、と祥子が笑う。
「手紙を魔王に見せて、判断を仰ぐのがいいかしら……」
「意地悪して手紙だけ回収しないのもアリだけどw」
「ちょ、光希くん……!」
「それが本当にできちゃうのがスクウンシルバークオリティだもんね~」
異世界からやってきた自分たちが、この世界のことに口出しするべきではない。
王太子たちにどのような対応をするかは、魔王が決めるべきだと考えている。
だけどその「魔王」には、今はまだ異世界で過ごす「魔王」も含まれる。
「そういえば、魔王様ってもう一人の魔王様と文通してるんだって?」
祥子の言葉を受けて、
「拝啓~、200年後の私へ~」
と歌いだす男児が2名ばかりいたが、物理的に突っ込むことが無理なので無視することにした。
「なんでも、記憶の統合に不具合があってはいけないので、お互いの身に起こったことを報告しあっているそうよ」
早朝の訓練を共にしている朝香が、魔王から教えてもらったことを告げる。
「さすが魔王様。真面目」
舞が感心したようにつぶやく。
「再会の時が楽しみだね~」
智也の気楽な声にうなずきつつ、自分たちの冒険もそろそろ終わるのだと若干の寂しさを覚える勇者たちであった。
*
魔王フィアードには、ずっと悔やんでいることがある。
召喚された勇者たちを、元の世界へ帰してやれなかったことだ。
魔族と比べて、人間の寿命は恐ろしく短い。
帰るべき場所を探している間に、彼らは寿命や病気のために死んでいった。
彼らが異世界に召喚された原因は、自分にある。
魔王フィアードを倒すために、彼らは呼ばれたのだから。
自分がこの世界からいなくなれば、この問題は解決する。
そういう思いを、歴代の勇者たちに話したことはあった。
しかし彼らは首を横に振った。
「ファズマ王国の連中は、イセカイジンから得られる恩恵に期待している面がある。もし魔王がいなくなっても、召喚の儀式そのものは続けると思う」
「むしろ、強い『勇者』を呼ぶ必要がなくなるから、頻繁に召喚術を使うはず」
「あいつらは俺たちが逆らえないような枷をつけて召喚するから、なんのリスクも負ってない。召喚した人間が役に立たなければ次がある、程度にしか考えていない」
彼らの意見ももっともだ、と思った。
ならば大元を断つべきだろうか、と考えるが、それにも問題がある。
例えばこの世界の過去に転移して、妖精が人間たちにさらわれないようにする。
妖精に悪意を持って接しようとする人間を、永遠に撃退し続けることは不可能だ。
人間には悪い奴らもいるのだから不用意に近づくな、と言ったところで彼らは聞く耳を持たないだろう。
何しろ妖精族は好奇心の塊だ。
珍しいもの楽しいものに釣られて、人間にとらえられてしまうだろう。
かと言って、彼らに祝福を与えて強化すれば、妖精と人間の間で戦が起きるかもしれない。
だから「もう一度やり直す」ことを決めた。
召喚される前の、元の世界にいる自分自身と意見を交わし、今回の計画を進めた。
魔王フィアードは再び召喚される。
そしてこの世界で得た知識を駆使して、召喚された勇者たちを元の世界に戻すのだ。
読んでくださって、ありがとうございます。
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