生き戻り令嬢の奇跡(1)
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活力! 活力いただきました。(平伏)
子どもの頃、父様から聞いたことがある。
わたしたち魔族は、かつて人間から迫害されていたと。
魔族は人間と比べて魔力が高く、寿命が長い。
魔素を取り込んで魔力として体内を循環させるから、人間のように食事だけで肉体を維持する必要がない。
そのせいなのか、魔族の皮膚は青白く、瞳は光が強い。
魔力で肉体を強化できるし、放つ魔法の威力は高い。
だけど魔力を封じられたら、戦えなくなる者がほとんどだ。
魔法研究者、趣味人。そういった類の者ばかりゆえに。
人間はよく魔族を襲っては奴隷にしたり、他にも色々ひどいことをしてきたらしい。
魔族は寿命が長いためか、子どもが生まれにくい。
比べて人間はどんどん増える。
数的に敵わない相手なのだ。
魔族は身を守るために一丸となり、人間が寄り付かない場所に住処を求めた。
大陸の北の果ては生物が育つのに不向きな環境で、人間の数も少なかった。
山岳地帯には強力な魔物が多く生息しているが、テリトリーを侵したり敵意を向けたりしなければ、襲ってくることはなかった。
人間は魔物を見かけるとすぐ攻撃をしかけるから、戦いになってしまう。
そして作物が育ちにくい土地で多くの魔物と戦ってまで攻略する益がないと悟ると、魔族の領域に寄り付かなくなった。
魔族はそこでようやく安心して暮らせる場所を手に入れたのだった。
それが数百年ほど前のこと。
わたしも兄様も生まれてなかった頃だ。
魔族の領地は基本的に静かだ。
自分の興味の赴くままに研究をしたり、魔法の鍛錬をしたり、好きなように過ごす。
わたしは小さな頃からよく兄様にくっついて回っていた。
兄様はわたしより100歳年上で体はもう成長していたけれど、魔族としては若いほうだ。
城の図書室には、大量の書物がある。
研究好きな魔族が作る書物だから、ジャンルは様々だ。
中には人間の言語を習得するための教材もあり、兄様と一緒に勉強した。
また、人間たちが使う武術について解説されたものもあった。
「ねえねえ兄様。どうして剣のお稽古をするの? 大人たちは研究や趣味でお部屋の中にいてばかりなのに」
わたしは、兄様が剣の修行をしている姿を眺めているのが好きだった。
兄様は剣を振る手を止めて、わたしを振り返った。
「それは私が魔王の血筋に連なるものだからだ。もしもまた魔族を脅かす存在が現れた時、それを打ち払えるように。私にはその責務がある」
「それって、人間?」
「人間とは限らない。魔竜のような強力な魔物もいる。彼らは刺激しなければ襲ってこないが、攻撃的な魔物がいないとも限らない」
それでもほとんどの大人たちは体を鍛えることをしない。
周辺に魔素がありそれを体内に取り込み魔力として循環できるなら、食事も戦闘もどうとでもなるからだ。
なにより、安住の地を得て数百年、魔族はすっかり安心しきっていたのだ。
*
父様が魔王の座を兄様に譲り渡し、隠居用の屋敷に引っ越してしまうと、わたしは暇を持て余す生活を送ることになった。
そんなある時、冒険者を名乗る人間たちと出会った。
冒険者という存在は聞いたことがあった。
この辺りでないと生育しない薬草を探しに、とか。動物や魔物の調査に、とか。
彼らは魔竜のフンが結晶化したものを、「魔貴石」と呼んで尊んでいた。
魔力を帯びているしきれいな色をしているから、貴重な宝石と考えているようだ。
わたしは笑いをこらえながらその人間たちの話を聞いた。
彼らはこの辺りの動植物の調査に来ていて、魔族領の町に宿を借り、そこから森や山へ向かうらしい。
過去のいきさつはあっても、今は人間だからといって魔族側が忌避することはない。
わたしが魔王の妹だと告げると、彼らは驚いていた。
人間の町を見下ろせる高台まで行ってきたと兄様に報告すると、人間に遭遇したら危険だから次からは護衛をつけるようにと言われた。
「いいか、リアンナ。人間は私たち魔族のことを、魔物か動物くらいにしか考えていない。たまに友好的な人間も訪れるようだが、それはまれだ。人間を見かけても、けして近づくな」
そんな風に言われると、人間たちと次も会う約束をしたとは言い出しづらかった。
約束の日、護衛と侍女を連れて高台に行ってみたが、あの人間たちは姿を見せなかった。
数日後、一人で町を散策していると、くだんの人間たちに声をかけられた。
彼らはわたしが兵士を引き連れてきたから、自分たちが何かとがめられることをしたのかと思って帰ったのだと言った。
「兄が心配したんだ。――わたしが1人で遠くに出かけるのを」
人間を警戒しているとは言えなかった。
「そうか。お兄さんに大事にされているんだね」
「うん。魔族は同胞を大事にするんだ。特に家族はね」
「じゃあ、人間の町に数日遊びに行くとなったら、お兄さんは反対するかな?」
その言葉を聞いて、わたしの中にあったわくわくした気持ちが消えていくのを感じた。
わたしが見るからにしょげてしまったせいか、人間たちはちょっとした知恵を出してくれた。
護衛を魔法か薬で眠らせて、わたしと侍女だけで遊びに行くのだ。
わたしの自筆の手紙を置いておけば、護衛たちが怒られることはないだろう、と。
静かで退屈な魔族の領地。
騒々しくて毎日がお祭りのような人間の町。
人間の町をほんの少し見てみたい。それだけだった。
魔族だと分からないように姿を偽る魔道具だと渡されたアクセサリーを身に着けると、途端に力が出せなくなった。
念話も出来なくなっていた。
それから囚われ、知っていることを話すように迫られた。
わたしがしゃべらなくても、侍女が話してしまう。わたしに危害を加えると脅されれば、話さざるを得なかったのだ。
そうして、人間――アステリア王国の人間たちは、魔物との戦いを避けながら安全に魔族の領地へ入る知識を手に入れた。
宝石が出る鉱山の場所を執拗に訊かれたが、そんなものはないので答えようがなかった。
牢の中で自害することも考えた。
だけど兄様が助けに来てくれるかもしれないと、弱りかける心を叱咤した。
人間との戦いで、それどころではないのだろうけど。
それとも、魔族に災厄をもたらしたわたしのことなど、見捨ててしまったのだろうか。
兄様が姿を消したらしいという話を聞いた時には、もしかしたらわたしを助け出すためにひそかに行動しているのでは、なんて期待を抱いた。
だけど戦争が終わっても、兄様が姿を現すことはなかった。
兄様の身に何かあったのか。
それとも、わたしのことなどどうでもよかったのか。
もう、死んでしまおう。
そう考えていた時、牢に近づいてくる足音が聞こえてきた。
「魔王は剣の達人などと言われていたようだが、期待外れもいいところだったな。部下たちに戦わせて、一人で逃げ出したんだろう」
あの性格の悪い王太子が、鉄格子の向こうでいびつな笑いを見せる。
「お前はもう用済みだから、城の前の広場で処刑することにした。民も楽しみにしているようだぞ」
わたしは何も言い返さなかった。
何を言い返したところで、自分の都合のいいように解釈してせせら笑うだけだろうから。
枷のせいで魔法は使えないが、わたしには一度だけ特別な力が使える。
魔力の代わりにわたしの生命力を犠牲にして、特定の対象に祝福もしくは呪いをかけることができる。
わたしはアステリア王国の人間たちに呪いをかけた。
そして、わたしは死んだ――。
今回シリアスな終わり方ですが、次回勇者たちが出てくると途端に台無しになりますので、ご心配なく☆
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