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不幸フラグをへし折ってきます!

 祈りの儀式で入手した水晶玉を、アンジェラ姫と老魔法使いが着服して怪しげな秘術に利用している件が、明るみに出てしまった。

 リアルタイムで全国放送された上に録画までされているので、言い逃れのしようがない。


「私たちの祈りの力を他のことに使うなんて、信じられない!」

「国にはすっかりだまされた!」

「アンジェラ様って44歳よね? あれ本当に本人だったの?」

「可愛かったよなあ。でも44歳か……」

「若返りの秘術ってどんなものかしら!? 私も永遠の若さを保てるかしら?」


 などなど。

 国民の意見は様々だ。


 怒りや不信の声があるとはいえ、暴動や革命が起きることはない。

 ファズマ王国の民は、よく言えば平和主義、率直に言えば事なかれ主義だ。


 次回以降の祈りの儀式参加者は、多少減るかもしれないが。


 *


 ファズマ王国でそのようなことが起こっている中、勇者たちは妖精城に来ていた。

 城の前の開けた場所に、妖精たちも集まっている。


 地面には直径2メートルほどの魔法陣が描かれている。

 その中央には、はがき大のカード――犯行声明――が1枚置いてある。

 円周部分には、任意の場所に物質を転送する術式が刻まれている。


 王城の宝物庫に厳重に保管されている、祈りの力がつまった大量の水晶玉。


「たくさんあっても、ろくなことにしか使われないからね~」


 まとめてごっそりいただいてしまう計画だ。

 誰かが冤罪で大変なことになってはいけないので、犯行声明も送りつけるというサービス付きだ。


 宝物庫の座標は確定している。

 妖精たちに魔王、そして勇者たちが魔力を注げば、周辺の魔素を消費することなく目的のものを転移させられる。


「よし。ではゆくぞ、皆の者」

 妖精女王の合図で魔法陣を囲む全員がそれに魔力を注ぐ。


 魔法陣から光が立ち上る。

 中央に置いてあったカードが消え、ついで大量の水晶玉が現れる。


「おお、見事成功じゃ」


 喜ぶ妖精たちの姿を見ていて、ファズマ王国の魔法使いたちが隣の部屋のイスを転移させて喜んでいた姿を思い出す。

(……レベルが違うなあ)

 妖精がすごいのか、人間がすごくないのか。


「魔法陣の試験運転もできたし、往復に使えるエネルギーも手に入れた。これで安心してお前たちを送り出すことができる」

「ほほほ、魔王殿は心配性じゃの」

 魔族と妖精族のトップが和やかに会話している。


(レアな光景だ……)

(なんか、異世界来たって感じするわ~)

 勇者たちもほのぼのしていた。


 場所を魔王の研究室に移し、魔王、妖精女王と3幹部、勇者たちは「帰還の魔法陣」の前に立つ。

 先ほど手に入れた水晶玉をその周囲に並べていく。


「それでは、行ってまいります」

 6人は魔法陣の中央に移動し、魔王たちに向き直る。


「ああ、よろしく頼む」

「うむ、わらわがついて行くから何があっても心配無用じゃ」


「ん?」

 何か違う趣旨の言葉を聞いた気がする。


 妖精女王は3幹部に向けて、優しく言い聞かせている。

「バ・クー、メイ・ジイ、ホー・ズル。お前たちは魔王殿の言うことをきいて、この森と妖精たちを守るのじゃぞ」

「はい、女王様!」

 とてもいい返事をする3幹部。


 妖精女王の同行が決定しているっぽい流れに首を傾げつつ、それもありかと納得する一同。


 アイテムボックスには大量の水晶玉。帰りのエネルギーも心配ない。


「じゃあ、姿を消す魔法をかけるよ~」

 これから旅立つ7人に、仲間以外からは姿が見えなくなる魔法を光希がかける。

 転移した先に人の目がないとは言い切れない。安全に目的を達するための措置だ。


「では、出発じゃ」

 音声は普通に聞こえるので、妖精女王の声を合図に魔王が魔法陣を起動させる。


 体が浮き上がるような感覚の後、7人は見知らぬ高台に立っていた。


 眼下には小さな家が点々とたつ町が見えている。あとは畑と山と未舗装の道。

 背後には森と高い山々。


 おそらくここが魔王の妹リアンナ嬢が来る予定の高台だろう。

 索敵範囲が一番広い舞が、まず辺りを探ってみる。


「森の中に、6人分の気配がある。でも、すごく弱いみたい。脅威度で言えば薄いグレーか水色くらい?」

 戸惑い気味に舞が報告する。


「え、弱っ。もしかして一般人? 敵はまだ来ていないとか?」

「擬態シノビを向かわせるね。会話の内容を拾えるかもしれないし」


「念のため『手加減武器』を準備したほうがよさそうね」

 朝香はアイテムボックスから木剣を取り出し、腰に装着する。


 勇者たちがそれぞれの武器を手にする中、妖精女王は興味深そうにそれらを観察する。

「うむうむ。分かったぞ」

 言うやいなや森から木の枝を転移魔法で取り寄せ、魔法でスパパパと削っていく。


 杖のようなものを作り上げると、術式を刻み込む。

「できたのじゃ!」

 と、高々とそれを掲げる。


 妖精女王の体の大きさから言えば、よほど巧みに接近しないと攻撃を当てることは難しそうだ。

 勇者たちがそのような心配をしているのを悟ってか、彼女は「心配はいらぬぞ」と指を振る。


「魔力を消費することで、20メートルまでは自在に長さを変えられるよう術式を刻んでおる」

 それを実演するため、人がいない方向へ杖を振る。


 ビャーッ!


 と、杖が伸びる。

 もはや杖というより、如意棒だった。


 同様にハリセンも自作した頃、擬態シノビが森の中の人間を視界にとらえた。


 *


 6人の人間はいずれも男で、冒険者風の装いをしている。

 20代前半くらいの男が3人、30代前後くらいの男が3人。

 小休止をとっているようで、木陰で思い思いのかっこうでくつろいでいる。


「忌々しいな、この山道。魔物もしょっちゅう襲ってくるし。魔族どもはなぜこのような辺鄙な場所に住んでいるのだ」

 リーダー格の男は息が上がっており、何度も汗をぬぐっている。

 顔はやたらと良いのだが、性格は悪そうだ。


「王太子殿下、やつらには魔力があります。それで体を強化したり、空を飛んだりするようです」

 眼鏡の男が説明する。彼もまた疲労のためにふうふう言っている。


「ふっ。魔力などに頼るとは、ぜい弱な証。おのれの肉体を鍛え剣の腕を磨いてこそ強くなれるのだ」

 いかにも脳筋くさいせりふを吐く男は、メンバーの中で一番背が高く筋肉量も多めだ。


「奴らが人が近寄らぬ山奥で暮らしているのは、魔貴石を独占するためやもしれません」

「きっとそれだ。あれだけ高い魔力をもった宝石だ、魔力を偏重する連中なら独占したくもなるだろうよ」


 主に会話するのは王太子とその取り巻きらしき若い男たち(眼鏡と脳筋)で、残りの3人は無駄口を挟まずつき従っている。


「だが、奴らに魔貴石を独占させておくのも、じき終わる」

 王太子が口元を吊り上げる。


「あの魔族の女が、手はず通り護衛どもを眠らせていればいいのですが」

「それくらいはしているだろうさ。魔族の城での生活に退屈しきって、人間の生活を『ちょっとだけ』体験してみたいらしいからな」

 王太子の言葉に取り巻きたちは歪んだ笑いを浮かべる。


「自分が魔王に対する人質だと気づくのは、魔力を封じる枷をつけられてからだろうさ」

「本当に馬鹿な女です。自分が眠らせた護衛たちが、俺たちに殺されるとも知らずに」


 脳筋男の言葉に、王太子はニヤリと笑う。

 王太子は恍惚とした表情で今後の計画を語った。


 ふもとにある人間の町に派手な攻撃魔法をいくつも浴びせて魔族からの攻撃と思わせ、それをもって戦争のきっかけとする。

 魔力操作を妨害する装置を使い、魔族が本領発揮できない状況を作り出す。

 魔王が出てきた時には、人質の存在をちらつかせて抵抗できなくする。


 捕らえた魔族は数々の実験に使い、死体は解剖する。

 魔族が魔力操作に長けていることや長命である原因を解明できれば、人間も同じ恵みに預かれるはず。


 魔貴石も独占して、アステリア王国は周辺諸国よりも抜きんでた存在になる。


 この計画は王太子が発案し、国王が修正を加えて認可した。

「父上は私の案を、たいそうほめてくださったぞ!」

 そう言って王太子は笑ったのだった。


 *


「やっぱり人間側が悪だったね」

「想像以上のクズ野郎どもね」

「魔王殿に代わり、わらわが成敗してやるのじゃ」


 王太子たちの会話を聞いて、嫌な気分になる一同。

 魔王が取りよせた新聞によれば、おそらく彼らが語ったような未来になるのだろう。


「だけど、今回は私たちがいる」

「そうそう。不幸フラグなんて、ベキッとへし折らなくちゃ」

「僕はベキッ、よりもボキッがいいなあ」


 しばらくバキッ、だのポキッ、だの、フラグが折れる音談義が交わされたのだった。

読んでくださって、ありがとうございます。

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