祈りの儀式、ライブ中継編
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念のためですが。
魔王たちと対話した翌日。
勇者たちは老魔法使いに、ある提案をする。
「先日の祈りの儀式、すごかったですね。ああやって蓄えた力が次の勇者の強さにつながるなら、もっと効率よく大量の祈りの力を集めてみませんか?」
「私たちの故郷では、巨大なスクリーンを使ってスポーツやコンサートなどのイベントを、同時に複数の場所で大勢の人が楽しんでいました」
老魔法使いオズワルドは、勇者たちの意図を察する。
「祈りの儀式の様子を、城の広場だけでなく神殿や各地の主要な広場でも見えるようにすれば、より多くの祈りの力が集まる、というわけですな」
「はい。私たちの代で魔王を倒せなかった時、次の勇者たちが苦労しなくていいように、せめてもの応援です」
と、殊勝げに頭を下げる勇者たち。
名付けて「パブリックビューイングで祈りの力がつまった水晶玉を大量ゲットしつつ、アンジェラとオズワルドのセコい罪も暴いて
やろう作戦」だ。
スクリーンの超巨大化技術、複数の遠隔地へのライブ動画一斉配信技術、録画技術。
これらの知識を得て、老魔法使いもホクホクだ。
「まあでも、生中継というのは予期せぬハプニングも起こりますから、何かあっても『まあしょうがないかー』ぐらいに思っておいてくださいね?」
「そうそう。中継が途切れたり、動物が迷い込んできたり、思いもしないことが色々と」
「野生のシカとか、トンボの大群とかねー」
無邪気な笑顔に、老魔法使いはすっかり気を許して「ははは、承知しましたとも」と笑って答える。
*
その日の午後、勇者たちは妖精城を訪れた。
勇者の離宮には幻影魔法を施し、かつ擬態シノビに見張ってもらっている。
本人が対応しないといけない場合には、転移魔法でスッと戻るつもりだ。
今回の作戦について説明すると、魔王も妖精女王もあきれつつ笑い出した。
「お前たち、悪い奴らだな」
「ああ、まったくじゃな。しかし小気味良いぞ」
「現在はファズマ王国の主要な場所に巨大スクリーンの設置をしてもらっているところです。儀式を行うのは5日後になります」
「そうか。私のほうでは帰還するべき位置と時間を特定できた。妹が城を出た時間と、私が召喚された時間だ」
「その時間を調べてくださったということは、妹さんたちの保護を私たちにゆだねてくださるということですね?」
魔王はうなずく。
「お前たちには私に匹敵するほどの強さがあり、むやみに他人を傷つける人間ではないと理解している。しかし、妹たちをさらい護衛を皆殺しにした人間たちは、かなり狡猾で残忍だ。人質をとったりだまし討ちをしたりなど、当たり前に行うだろう。そのためにお前たちは窮地に陥るかもしれない」
その覚悟があるか。
魔王の問いかけに6人は緊張する。
「ちょっと作戦タイムください」
ピッと手を挙げて智也がタイムをかける。
「魔法陣で移動する前に、ミッキーの魔法でボクたちを透明化するでしょ? で、魔王様の妹ちゃんたちが来る前に、高台周辺を調査しようよ。人の気配とか探れば、それっぽい連中はすぐに見つかると思うよ」
「それはいい考えだな。俺たちで捕まえて、色々白状させよう」
「だけどもしその人間が魔族の人たちと面識があって、『何もしてないのに変な言いがかりをつけられて襲われた』なんて話したら、初対面の私たちの言うことと彼らの言うこと、どっちを信じてくれるかな」
舞が1つの反証を挙げる。
「そうよねー。敵はかなりの卑怯者っぽいから、その場をうまいこと切り抜けそうよね。で、また別の手を使って襲ってくるんだわ」
祥子が眉間にしわを寄せる。
「アステリア王国の人って、『魔貴石』と呼んでいる魔物のフンが欲しいからあんなことしたのよね。だったら、それを襲撃計画の首謀者たちに教えたらどうかしら」
朝香のアイディアに光希が即反応する。
「いいね! 最初に宝石状のものをたくさん渡して気分を上げておいて、『実は正体はこれでしたーw』みたいな感じで教えたらどうかな」
誰もがその状況を想像してしまう。
「それ、やっちゃおう」
「うむ。面白そうじゃ」
仲間たちだけでなく、妖精女王からも賛同をいただいてしまった。
魔王もちょっと笑いをかみ殺しているような感じだった。
*
祈りの儀式、当日。
王都の神殿前に、勇者たち6人とその隣に若い女性神官が並んで立っている。
「みんなー、今日は来てくれてありがとー!」
女性神官が明るいノリで、集まった国民たちに話しかける。
子どもたちは大きな声で「はーい!」と答え、手を振っている。
大人たちはちょっと戸惑っている。
「今回の祈りの儀式は、なんとなんと王国が一体となって行うんだよ! この神殿の前にある大きなスクリーンが国のいたるところに置いてあって、皆が同じ映像を見ているんだよ! それから、魔法使いのお兄さんが持っている筒みたいな魔道具はカメラといって、この会場の様子をスクリーンに映しているんだよ!」
今スクリーンに映っているのは、勇者たちと女性神官だ。
「どうもー、ボクたちが今回の勇者のスクウンジャーだよ」
「私たちが強い力を授かったのは、皆さんが真摯に祈ってくださったおかげです。次の勇者様のために私たちもお手伝いしたいと思います」
勇者たちの挨拶の後、女性神官が後を引き取る。
「スクウンジャーがダンスを披露してくれますよ~。皆も覚えて踊ってみようね」
女性神官は台本通り、見事に司会のお姉さんを演じてくれた。
音楽が流れる。
オーケストラの勇壮なイントロから一変、力強い男性ボーカルが「勇敢戦隊スクウンジャー」の主題歌を歌う。
ヒーローショーで使っていた音源をそのまま再現したものだ。
6人はステージの上でリズムに乗る。
レッスンも含めて3か月近く一緒に踊ってきた。
動きはバッチリ、息はピッタリだ。
歌詞の「変身だー!」の部分で本当に変身すれば、観客から驚きの声が上がる。
スクウンジャーのダンスショーは、熱狂に包まれたまま終わった。
ダンスの後は、いよいよ祈りの儀式となる。
スクリーンには王城の祈りの塔が映し出される。
フードとベールで顔を隠したアンジェラが、水晶を両手で捧げ持っている。
バルコニーの下には大勢の民衆。
「勇者様たちの舞うお姿、とても尊かったですね。次はわたくしたちが心をひとつにして、お祈りをいたしましょう」
中継の様子は録画保存されている。光希のダンスシーンを何度も見ることができると思うと、アンジェラはワクワクが止まらない。
アンジェラが祈るように頭を下げる。
すると、鐘の音が鳴り始める。
ゆっくりとした一定のテンポで鳴らすことで、祈りの儀式未経験の民衆も集中状態に入りやすいのでは、という演出なのだ。
それが功を奏しているのか、神殿前で掲げられた水晶玉にも祈りの力がどんどん蓄積されていく。
神官たちが驚きつつ喜んでいる。
国内各地の会場で、似たような光景が生まれているだろう。
鐘の音が鳴りやむと、祈りのポーズをとっていた人たちが自然な姿勢に戻る。
アンジェラの持つ水晶玉が、これ以上ないくらいに光を放っている。
「素敵です。皆さんの勇者様への思い、しっかりとお預かりいたします」
歓声が響く中アンジェラはしばらく手を振っていたが、やがて一礼をして塔の中へ戻る。
塔を映していたカメラは、広場にいる民衆に切り替わる。
「どうでしたか、今回の儀式は」
カメラマン役の魔法使いにそう尋ねられると、
「今日はいつも以上に一体感が得られて、とても素晴らしかったです!」
と、興奮気味の声が返ってくる。
スクリーンには、儀式を終えた各地の様子を次々に映していく。
光り輝く水晶玉を両手に、神官たちが感謝の言葉を並べ立てるシーンもあった。
アンジェラとオズワルドは、そのすきに隠しておいた水晶玉を回収する。
「あら?」
ふと視線を上げると、バルコニーの手すりに白い鳥が留まっている。
目が大きすぎるが、ぎりぎり可愛いくらいだ。
「ふふ。あなたも儀式に参加してくれたのかしら?」
白い鳥は人間の言葉を理解しているのか「クー」と鳴く。
「ささ、姫様。民衆の目が各地の様子に向いている間に、これを地下に運びますぞ」
老魔法使いはウッキウキだ。
水晶玉をバスケットいっぱいに詰めて、2人は階下へ向かう。
その後を白い鳥がついてくるが、気にも留めない。
祈りの塔に設置されたスクリーンは、ずっと各地の様子を映している。
だが、それ以外の場所では違う映像が映し出されていた。
アンジェラ姫と老魔法使いが水晶玉を大事そうにどこかへ運ぶ。
祈りの塔の内部は誰も知らないので、初めて見るその光景に、民衆は興味津々だ。
地下室にたどり着くと、アンジェラはフードとベールをとる。
現れたのは、14歳の外見の少女。
地下室の床に描かれた魔法陣。
部屋の隅に大事そうに置かれる水晶玉。
「うふふ。これでいつでも若返りの秘術が使えるわね」
「そうですな、姫様」
キャッキャウフフしている2人を、妖精族から借りてきた「目」が映し続けていた。
録画もバッチリだ。
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