超高難易度ガチャ?
召喚する対象が物の場合、召喚て言葉を使っていいのか違和感を覚えつつも、結局そのまま行きました。
言葉知らずで恥ずかしい~。
魔王に案内され、城の左側の棟を歩く。
妖精女王と3幹部も一緒だ。
中庭には草木の緑と、色とりどりの花。
そして立ち並ぶ石塔。一つ一つに名前が記されている。
「これは、勇者たちのお墓……?」
魔王はうなずく。
「元の世界に戻るべく、ともに研究を重ねた。だが、故郷に帰ることもかなわず、寿命や病で死んでいった」
その言葉に3幹部がびくりと体を硬くする。
「人間たちが異世界召喚せざるを得ない状況に、我らが追いやったために……」
彼らの表情は後悔にまみれている。
魂が醜くゆがんでいた邪妖族の時なら、「勇者の召喚を行っているのはファズマ王国の連中だ」と、何の痛痒も感じなかっただろうに。
妖精女王は彼らのそんな姿を見やり、厳かな声で告げる。
「亡くなった者は戻っては来ぬ。彼らの供養は欠かせぬが、まずは今後の対策を練ることじゃ。魔王殿と勇者殿、彼らを故郷へ無事帰す方法を見つけること。異世界召喚を二度と行わせないように、何をすればよいのか考えるのじゃ」
「はい」
3幹部は素直に答え、深く頭を下げる。
「妖精たちの協力が得られるなら、研究もはかどるだろう」
魔王も女王と同じ見解のようだ。
中庭の奥に温室のようなガラス張りの建物がある。
「あれが研究室だ。魔素を取り込みやすくするために、不純物を取り除いたガラスをはめ込んでいる」
と、魔王が説明する。
研究室の床の中央には、大きく魔法陣が描かれている。
「これは帰還の魔法陣だ。しかし、肝心の帰るべき場所と時を限定することができないでいる」
女王はじめ妖精たちが熱心にその魔法陣を観察する。
「引き寄せる力の召喚に対して、目的の場所へ送り出す力の帰還か。これは、よい出来じゃ。必要な魔素量を抑える術式を追加してもよさそうじゃな」
「こちらの文言を省略すれば、他の術式を追加する余地が生まれそうですぞ」
一通り意見を交換して、次に魔王は部屋の奥に向かう。
壁際の棚には大量の書物が並べられている。
その足元には小さめの魔法陣。
「帰るべき場所と時を見つけるために、その世界の新聞もしくはそれに準ずるものを『召喚』してきた」
元いた世界に関連のあるキーワードをいくつか入れて、その土地の新聞を「召喚」する。
召喚する際に、その世界の位置情報と時間軸を取得する術式も組み込んでいる。
新聞ならば、言語、地名、人名、出来事、文化……、様々な情報を得ることが出来る。
それだけの情報があれば、無数に存在する世界の中で自分がいた世界と同一か判断できるはずだ。
毎日、一度だけ召喚を行う。
壁際の棚に並んだ書物は、召喚に用いたキーワードとその結果得た新聞を綴じたものだ。
毎日召喚を行ってきたのは、魔素を適度に消費することで妖精たちに「勇者召喚」を行わせない、という目的もあった。
「独力で帰還の魔法陣を作り、その世界の時間と位置の情報を取得しつつ新聞を取り寄せるとは、天才すぎる」
光希がしみじみと称賛し、日本から来た勇者たちも同意する。
しかし魔王は首を振る。
「私は一刻も早く元の世界に戻りたいだけだ。時間まで指定できれば、召喚された直後に戻ることも可能となる」
「ちなみに魔王様の外見は200年前と変わらないのですか?」
祥子が挙手して質問する。
「ああ。500年ほどこの姿だ」
人間6人からため息がもれる。
妖精たちの命の尺度は魔王と似たようなものらしく、驚く様子はない。
「ボクたちは召喚された直後の時間に戻った時に、違和感がない程度の外見でいたいね~」
「そうよねー。『老けて見えるけど18歳よ☆』なんて言うことにはなりたくないものね」
「正解の新聞をうまく引き当てないとね」
舞のつぶやきを智也が拾う。
「この召喚って実は新聞ガチャ? リアルラックがすごく高い人に回してもらうとか?」
「運任せではなく、正解をひく確率を上げられればいいんだがな」
凛太郎の発言を受け、5人の視線は光希に向けられる。
「分かってるよ。困った時のシリル先生、だね」
いつものように魔法書に魔力をこめる。
光を放ち、ひとりでに開いた魔法書に現れた解決方法は――。
『新聞の召喚システムに改造を加えることを推奨します。キーワードを入力すると、ヒットしたものがリスト表示される仕様にします。その中から選択したものを召喚してはいかがでしょうか』
「なんと」
「まさかの選べるガチャ?」
勇者たちの会話に出てくる「ガチャ」という未知の単語に、魔王も妖精たちも首を傾げている。
「ガチャというのは、元々はコインを投入して景品をランダムで1つ入手する遊びです。事前にリストから選べるようになれば、欲しいものを得られる確率はかなり上がると思います」
こんな説明で合ってる? と、自信なさそうに仲間たちに視線を送る朝香。
「ガチャでSSRをひける確率の厳しさはちょっと伝わってないけど、そこは割愛でいいと思うよ」
軽い調子で余計な知識を与えようとする智也に、祥子は手刀でツッコミを入れる。
「大丈夫。分かる分かる」
「心配無用だ。従来の召喚方法では、キーワードを入れたら後は運任せにするしかなかったが、改良すれば召喚したいものを選べるようになるのだろう?」
「おー、さすが魔王様。素晴らしい適応力」
仲間たちがパチパチと拍手する。
魔法書が具体的に提示した改造方法を、魔王と妖精たちがのぞき込む。
「おお。このようなやり方があったとは。目からうろこじゃ。改造はわらわが責任もって行おう」
妖精女王はそう宣言すると、すぐに作業に取り掛かる。
身長30センチほどの小さな体から、密度の高い魔力が放出される。
魔法書が示した術式をすぐに理解し、早く正確に魔法陣を改造していく。
「おお、さすがは女王様」
妖精たちが喝采を送る。
「じゃあ僕はモニター兼操作盤を作っておこうかな」
光希は板状のガラスを1枚もらい、術式を細かく刻んでいく。
(あの大きさあの形、タブレットだね)
(タブレット作る気よね)
仲間たちが見守る中出来上がったのは、やはりタブレット端末っぽい魔道具だった。
召喚さえ行わなければ土地の魔素は持っていかれないので、まずはキーワード検索を試みる。
「ちなみに、”あいまい検索”機能つきだよ」
にこりと光希が微笑む。
「画面の下にあるアルファベットを指で軽く触れると、文字が入ります。音声での入力も出来ますが、どうしますか?」
魔王は文字入力を選んだ。
「では、新聞に載ってそうな言葉を入れましょう。その世界独自の固有名詞も入れておきましょう」
「新聞を取り寄せるならば、新聞に載っていそうな言葉を選ぶ、か。なるほど。魔族の国では連絡事項は念話で完結するから、新聞の類は作っていなかった。だから人間の国の新聞を取り寄せようとしていたのだが……」
魔王は少し考え、「魔族」、「戦い」と入力する。
次に人間が治めていた国と王の名前を入力する。王国名は「アステリア」、国王は「ラールワイーザー」と。
「わたしたちの領地の近くにあった人間の町で聞いた言葉だ。まさか自分の国や王の名前を間違えることはないだろう」
ピコン。と音がして検索結果画面が出てくる。
検索したキーワードの下に、
【もしかして、ラールワイーズ?】
と表示される。
「ラールワイーズ」関連では、いくつかのヒット件数が見られた。
「ま、まさか。わたしが入れてきたキーワードそのものが違っていたというのか……?」
魔族の領地と隣接する町、すなわち人間の国からすれば辺境。中央から遠く離れた地域の人間の話し言葉だったから、なまっていたのだろう。
魔王が端末を持ったまま立ち尽くす。元々青白かった顔色は、蒼白だ。
(そういえば昔の検索って、漢字ひらがなカタカナも別の文字扱いだったらしいよね。文字がひとつ違っただけでヒットしないこともあったらしいし)
智也はネット検索に思いをはせる。
orzな格好になってしまった魔王に、誰もが遠慮して言葉をかけられずにいた。
魔王様、どんまい。