とどろけ! ホーリーキャノン!
今回の話もグダグダしていますが、平常運転です。
バ・クーたち3幹部は、魔王によって女王の間に呼びだされた。
そこにいる面々を見て、体を硬直させる。
ただでさえ怖くて苦手な魔王がいるのに、それに加えて勇者たちまでいるではないか。
「ま、魔王め。よもや勇者どもを手なずけて我らへの刺客にするとは」
「自分の攻撃ではダメージを与えられないからといって、他人の力を借りるとは……なんと卑怯な!」
3人は抱き合って震えながらも、魔王への苦情は忘れない。
「わーお。これは見事な『おまいう』だね」
光希は手を叩いて喜んでいる。
「あ! 私ひらめいちゃったわ!」
祥子までテンションが高い。
祥子は自分のアイテムボックスからハリセンを取り出す。
魔王の前で片膝をつき、それを両手で捧げ持つ。
「魔王様。これは私たちの故郷ではポピュラーな『ハリセン』というアイテムです。ちょっとおふざけが過ぎた相手に『ツッコミ』を入れる際に用います」
ハリセンは武器ではないし、ツッコミは攻撃ではない。ならば、魔王の一撃は妖精たちに当たるだろう。
ちょっと感心して祥子を見ていると、
「では、具体例をお見せしましょう」
と、朝香に向かってすっとうなずく。
「え、私がやるの?」
こくこく。と祥子が笑顔で頭を上下させる。
仲間たちを見回す。
にこにこしている智也。
諦めたような苦笑を浮かべる凛太郎。
気の毒そうに眉をよせる舞。
さあどうぞ! とばかりに待ち構える光希。
そして悪ノリスマイルでサムズアップしている祥子。
朝香は心を決めた。
「ちょっと大きな音が出ますよ」
と、魔王たちに断るのは忘れない。
自分のアイテムボックスからハリセンを取り出し、振りかぶる。
「いい加減にしなさーい!」
スパーーーン!
「さすが私の相方、いいツッコミだったぜ。ぐふぅ……。でもなんで私?」
可愛く小首をかしげる祥子に、「一番ふざけていたのが祥子だったから」と答える。
魔王も妖精たちもびっくりしている。
妖精たちに至っては、あまりの大きな音におびえてしまっている。
「このハリセンには、与えるダメージがゼロになる術式が刻んであります。大きな音がでるのは、そのように設定されているからです。こちらの光希がこだわって作りました」
朝香が魔王に説明して、光希が笑顔でピースサインを作る。
「つまりこのハリセンで行うのは『ツッコミ』であり、攻撃ではないのです」
朝香の説明を聞いた魔王が「なるほど」と言いつつ祥子が捧げ持つハリセンを手に取る。
「これで貴様ら妖精どもがふざけた行いをした時に『いい加減にしろ』とハリセンを振るうことができる」
魔王は邪悪な笑みを浮かべ、自らの手の平にハリセンを叩きつける。
(おお、素晴らしい適応力! 是非僕の相方に欲しい!)
賢者までもが魔王に熱視線を送っている。
と言ったドタバタ劇のせいか妖精たちは臆してしまい、すっかり大人しくなってしまった。
「それで、ここからが本題なんですけど――」
と、妖精女王の石化をホーリーキャノンで解除しようという計画を説明した。
*
妖精城の表に、大勢の妖精たちが集まっている。
彼らの視線は正面に据えられている。
石化した女王と、やや離れた位置に立つスクウンジャー。
魔王は妖精たちの集団の隣に少し離れて立っている。
「では、行きますよ」
レッドが魔王たちに声をかけ、仲間たちとうなずき合う。
「やー、なんか緊張するね」
ブルーが気の抜けた声を出す。
「俺たちの力を信じよう」
「ええ。行きましょう。技を使う時の文言はスペシャルバージョンでね?」
6人の右手が左手のブレスレットに触れる。
「聖なる光よ、気高き女王を石化から解放せよ! ホーリーキャノン!」
6つの光が合わさり、極太の光線が放たれる。
その光が妖精女王を包み込み、髪や皮膚が本来の色をわずかに取り戻す。
だが、まだ足りない。
魔力を注ぎ続けても、終わりが見えない。
「くっ」
魔法職ではなくメンバーの中では体力が低めのブラックが、苦しそうに顔をゆがめる。
(あと一押しなのに……)
メンバーに焦りがにじみ始めた頃、
「あ! こんな時こそ『みんなのおうえん』だよ」
ブルーのひらめきが、メンバーの心に光をもたらす。
「皆さんの思いをぶつけてください。女王様との思い出や、女王様を助けたいという願いを強く胸に抱いてください」
「あと、『がんばれー、スクウンジャー!』もお願いしまーす!」
妖精たちが戸惑う中、魔王がよく通る声で「頑張れ、スクウンジャー!」と叫ぶ。
それにつられたように、妖精たちも声を上げる。
一方、女王とともに過ごした期間が長かった妖精たちは……。
(そういえば格の低い妖精どもをからかっていたら、女王様にえらい勢いで叱られたな。あの時の女王様の恐ろしさといったら……)
(体がひ弱な妖精たちを「鍛えてやる」と言って山脈に連れて行ったら遭難しかけて、女王様に助けられたな。どえらい怒られもしたけど)
(女王様が戻って来られたら、またしこたま怒られるのかいのう)
しくしく泣き始める一部の妖精たち。
だいたい何を考えているのか察した魔王は一つため息をつくと、泣いている妖精たちの頭にハリセンをお見舞いしていった。
「女王は貴様らを守るために自らを犠牲にしたのだろう? それだけ貴様らがかけがえのない存在ということだ。貴様らにとっての女王とは、何なのだ。戻ってきてほしくはないのか?」
はっ。
と、空気がはじけた。
気づいたのだ。
今まで好奇心の赴くままに好き勝手にしていたが、ふいに心の中にあった汚らしい殻がぽろり、と取れた気がした。
「生まれ出たばかりでひ弱だったボクたちに、祝福を与えてくれたのは女王様だった」
「女王様がワシらをきつく叱ったのは、ワシらの身を案じてくれたから」
「女王様、どうか戻ってきてください」
「もう勝手なことしませんから」
「女王様~~」
妖精たちの体が光を放つ。
醜い姿から愛らしい姿へ、次々と変わっていく。
「すごい魔力量」
「それにあの子たち、元の姿に戻ったみたい」
ホーリーキャノンの光に、妖精たちの祈りと応援の力が加わる。
光が収まった後には、すっかり石化から解けた妖精女王の姿。
「おや。なぜ我が子たちがこんなにたくさん集っているのじゃ? わらわは確か、人間の城に……」
「女王様だ!」
「お帰りなさい」
妖精たちから上がる歓声。
妖精女王を中心として、妖精たちが一斉に押し寄せ話しかける。
あれから200年経ったこと。石となった女王を助け出したのは、異世界から召喚した魔王だということ。石化を解除したのはファズマ王国が召喚した勇者たちであること。
妖精たちが口々に報告し、女王は一人一人にうなずいて答えてやっている。
が。
「異世界召喚などという外法を使ったというのかーッ!」
女王のお叱りの声がとどろいた。
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