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魔王の語る過去

 こちらに敵意はない。

 それを示すために幻影魔法を解除した。


 光希が魔法書に日本語のメッセージを表示させる。

 同時通訳のスキルのおかげで、魔王たちにも読めるはずだ。


『詳しい話を聞かせてほしい。私たちに戦う意思はない』

 そのメッセージを胸の前で持ち、先頭を行く。


 おそらく森のあちこちにいる「目」を通して、こちらの姿を見ているだろう。


 何の妨害もなく6人は城の前にたどり着いた。


 木漏れ日の下できらめくお城。

 光を反射しているのは、壁に埋め込まれた色とりどりの宝石。


 堀や塀などはなく、中央の大きな扉は開かれている。


「おお~。めっちゃファンシーなお城。でも半分壊れているわね」

 祥子の声が、前半は高く後半は低くなる。


「なんだろうね。壊れて間もない感じだけど」

 朝香たちも首を傾げている。


 ふいに凛太郎と舞が身を固くする。

「脅威度”赤”の反応が近づいてくる」


 凛太郎たちが見つめている方角を同じように見ていると、扉の手前に背の高い男が現れた。


 長く黒い髪、スーツもマントも黒を基調にしており、大きな影のようだ。

 肌の色は青白いほどで、瞳は赤い。


「よく来た。勇敢戦隊スクウンジャーよ」

 低いがよく響く声。


(おおお、魔王様キター! しかもめっちゃ美形! 一緒にコスプレしてほしい~)

 祥子のテンションが謎に上がっている。


「はじめまして。本日はお話を聞かせてもらいたくて来ました」

 朝香が45度の礼をすると、仲間たちも同じようにする。


「ならば城に来るといい。――ああ、あの崩れた部分は気にする必要はない。愚か者が欲をかいたところ、罰が当たっただけだ」

 魔王がシニカルな笑みを浮かべる。


 本来なら敵の居城へ入るにあたり、警戒するべきだろう。

 だが卑怯なだまし討ちをする必要がないほど、魔王は強そうだ。


 正面入り口をくぐると、2階への階段まで続くカーペットが敷いてある。

 魔王はそこに立ったまま6人を出迎える。

「出迎えもできず済まない。私はこのカーペットを越えた先へは行けないという約定をかわしているのでな」


 魔王の強さ、迫力に気おされたバ・クーたちが、「い、いいな? お前は絶対にこっちの線を越えてくるなよ!?」とプルプル震えながら命令したのは、もう200年は前のこと。魔王は「約定」などと言ったが、強制力などない命令に過ぎない。

 魔王はそれを律儀に守ってやっている。


 6人は魔王について行く。

 城の中は窓を大きくとられ、明るく心地よい。


「天井も高いし、廊下の幅も広いね。妖精が住むお城なら、サイズはもっと小さくてもよさそうだけど」

 光希が感想とも質問ともとれる言葉を発する。


「空を飛ぶ妖精が多いからな。高く優雅に飛ぶことに誇りを感じるそうだ。それと、彼らは互いの翅が触れるのを嫌がる。だから通路は幅を広くとっているそうだ」

 魔王がわずかに振り返り、そう説明してくれた。


「なるほど、疑問が解消されました。ありがとうございます」

 にっこりと光希が微笑む。


 案内されたのは会議室のような部屋だった。

 中央に大きな長方形の机があり、大小さまざまなイスが並べてある。

 もしかしたら、どのような体型の来客にも対応できるように作られたものかもしれない。


 6人は適当なイスを選んで座った。日本人感覚で下座のほうに。


「先に私からおおよそのことを話しておこう。私は200年以上前に妖精たちにより召喚された。私には元の世界にすぐにでも戻りたい事情があった。それを妖精たちに告げると、妖精女王を救出すれば元の世界に戻すと約束したのだ」


 それは召喚主の常とう句だ、と朝香たちは心の内で魔王に同情した。


「妖精女王は石化状態にあったおかげで、ファズマ王国の人間どもに危害を加えられることはなかった。鉄の檻には入れられていたが」

 その場にいた魔法使いたちに説明を求めると、約定のために自ら石になったと震えながら話した。


 妖精女王を連れ帰り、石化された経緯を説明した。

 妖精たちは敬愛する女王の変わり果てた姿を見て、嘆き、怒り、力のない自らを呪った。


「私はなすべきことを終えたので、元の世界に戻すよう求めた。すると奴らは私をあざ笑った。召喚術は、無数に存在する世界の中から条件に合致した対象を選び出し転移させる魔法。どの世界のどの時間にいたかも分からない存在を元の世界に戻すことなど不可能だ、と」


 それどころか妖精たちは魔王を挑発した。

 お前のいかなる攻撃も妖精族には当たらないのだ。召喚の魔法陣にそう記述したからな、と。


「思えば奴らは、”人間”という存在そのものに敵意を抱いてしまったのだろう。仲良く過ごしてきたと思っていたのに、突然捕らえられ、ついには女王が犠牲になったのだから」


 だがその当時の魔王にはそこまで斟酌する余裕はなかった。一刻も早く元の世界に戻りたかったのに、それが絶望的になったのだから。


「私はそこで、奴らに”祝福”を与えた。ファズマ王国の人間と戦えるほどの力を与える、と誘いをかけたのだ。奴らはあっさり乗って来た」


 魔王の祝福は相手の魂の美醜を見極める。

 人間たちへの恨みを募らせていた妖精たちは、強い力を手に入れはしたが、醜い姿に変わってしまった。


「すると妖精たちは、私を殺すことを考えた。私が消えれば呪いが解けると思い込んだのだ」


 だが悲しいことに、魔王の強さはけた違いだ。


 もう一度召喚術を行うには、魔素が圧倒的に不足していた。


 妖精たちは作戦を変えた。

 その醜くなった姿で人間の町を襲った。

 自分たちは魔王の配下の邪妖族だと名乗った。


 邪妖族の脅威におびえる人間たちに、比較的容姿が美しかった妖精を送り、召喚術を伝えた。


「ファズマ王国を支配するわけでもなく、ただ定期的に襲って恐怖心を植え付け、強い勇者を召喚させ続ける。奴らもなかなかあくどいことを考えたものだ」


 魔王から一通りの話を聞いて、いろいろと腑に落ちるものがあった。


「お話を聞かせてくださり、ありがとうございました。私たちの望みは元の世界に戻ることです。お互いに協力してその方法を見つけ出しませんか?」


 朝香の提案に、魔王は皮肉気に口元をゆがめる。


「そうだな。私たち召喚者の願いは、それしかない」


「それから、女王様の石化は、僕たちが解除できるかもしれません」

 光希が突然示唆した可能性に、仲間たちは「ホーリーキャノン……」とつぶやく。


 ただ、石化が解けた時に知らない人間ばかりだと、妖精女王は混乱するかもしれない。

 少しでも知っている存在が周りにいたほうがいい。

 姿は醜く変わっているが、特徴は残している妖精たちだ。

 彼らの協力が必要だった。

読んでくださって、ありがとうございます。

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