森へ潜入せよ!
邪妖族との戦いがあった次の日。
休暇をもらった6人は町へ遊びに行く、と言って城を出た。
もちろん、実際に向かう場所はそこではない。
こっそり森へ行くのだ。
昨日城に帰還して、森へ調査に行きたい旨を申告した。
国王も老魔法使いも、まだ早い、考え直してほしい、と引き留めた。
6人は物わかりの良い学生のような顔で「はい、分かりました」と答えたのだった。
人通りの少ない路地に入るや、光希が幻影魔法を使う。
「これで僕たちのことを誰も認識できなくなったよ」
「次は私が転移の魔法を使えばいいのね。昨日の町でいい?」
了解の声が返ってくる。
「じゃあ、皆手をつないで」
円陣を組んだ6人が、隣り合う相手と手を取り合う。
「行くよ――【転移】!」
わずかに体が浮かぶ感覚の後、次の瞬間には昨日訪れた町にいた。
「おっ、大成功。早速行きましょ」
「森に入ったら擬態シノビを3つ放つね。私たちの前と左右を先行させて、変わったものや敵がいないか探ってもらうね」
「うん、お願い。後方の警戒は凛太郎さんにお願いして、前は私が行くわ」
「そうしよう。舞には広範囲の警戒をしてもらい、光希はマッピングだな。2人は隊列の中央にいて、前を祥子が、後ろを智也がガードしよう」
「オッケー。オートマッピング機能付きのシリル先生に任せてよ」
「うーん、シリル先生チートすぎる」
それぞれに役割を決め、森へと入っていった。
木漏れ日が降りそそぎ、空気はほどよい湿度を含み、快適だ。
柔らかな草を踏む感触も心地よい。
「ここ、すごく居心地がいい場所ね。ラスボスのところへ向かっているはずなのに、森林浴してる気分になるわ」
困惑しながら祥子が言う。
「私もそんな風に思ってたの。まさか魔王の罠ということはないでしょうけど」
「僕の幻影魔法はまだ効いているから、相手には見えてないと思うんだけどな」
「擬態シノビがたまに邪妖族を見かけるけど、のんびりしているみたい。あ、ちょっと待って。この先を真っ直ぐ行ったところに大きな石碑が建ってる」
擬態シノビは空を飛ぶ生き物に擬態しているようで、視点は下から上へ移動していく。
「文字が刻んであるね。
『ファズマ王国に召喚されし異世界の勇者たちよ。召喚主たちの罪を知れ。そのうえで行動を決めよ』
――ですって」
6人は顔を見合わせる。
「やっぱり王国は腐ってた説?」
智也が呆れの混じった笑い顔を浮かべる。
「ファズマ王国が邪妖族に襲われる原因は自分たちにあるのに、それを隠しているか事実をねじ曲げるかしているのかしら」
「やだ。ありえそうでコワイ」
「この石碑には、魔道具みたいに術式が刻んである。データを送るから、皆も見てみて」
自分が見ていた映像を通信機能を使って仲間にもシェアする。
森の中にぽっかりと開けた場所があり、その中央に黒い石碑が建っている。
縦長で平べったく、上3分の1ほどは何も刻まれてなく、ツルツルとした光沢がある。
その下に先ほどの文言が大きく刻んである。
さらにその下。丸い宝石のようなものがはめ込んであり、その中に術式が刻んである。
その術式を大写しでとらえる。
光希はそれを見ながら術式を読み解く。
「映像を再生する機能のようだね。あの宝石に触れると起動するんだと思う。実物を見ないと判断できないけど、触ったらアカンボタンの可能性もあるね」
気になる文言を見せることで、魔道具に触れなくてはならない気持ちにさせる。
そして触れたが最後、恐ろしいトラップのえじきになる。
そういった危険が待ち受けていることも考慮しなくてはならない。
歴代の勇者たちは、森へ入ったきり戻って来られなかったというのだ。
警戒を怠ってはいけない。
「でも、行かないと何も進まないことも分かってるのよね」
6人はそれぞれにため息をついたり考え込んだりする。
そうして石碑を調べることを決めたのだった。
森を真っ直ぐ進んでいった6人の目に、2メートルほどの高さがある石碑が見えてきた。石碑のてっぺんには白い蝶が留まっている。擬態シノビだ。
そこは円形の広場になっていて、中央に石碑、周辺にはいく筋もの道がつながっている。
6人は道らしき道を通って、真っ直ぐここへたどり着いた。
「まさか、どの町から入ってもここにたどり着くように計算されている?」
ざわりと背筋に冷たいものが走る。
「舞ちゃん、あの石碑の周辺にトラップがないか探ってもらえる? 祥子は石碑に鑑定魔法をお願い」
2人にその作業を行ってもらっている間、朝香たちは周囲の警戒をする。
トラップはない。
鑑定の結果は、さっき光希が説明した通りの内容だった。
「じゃあ起動してみるね。皆は念のため離れていて」
1歩踏み出した朝香を、
「ちょちょちょ、待った待った」
と、祥子が引き留めた。
「危ないじゃないのよ。触った途端にどこかに転移させられたら、どうするのよ?」
「私なら脱出魔法が使えるし、いざという時にはファイヤーバードに来てもらうから大丈夫よ。それに擬態シノビを連れて行けば、舞ちゃんに居場所特定してもらえるでしょう?」
安心させるように朝香が笑いかける。
「大丈夫大丈夫。これ本当に映像再生専用っぽいから」
光希が軽い調子で歩いていき、無造作に宝石に触れる。
「賢者なのに勇者すぎる」
ツッコミなのか称賛なのか、よく分からない独り言を智也がもらす。
宝石に光が灯り、石碑の上部に四角い枠が現れる。
「おお、テレビみたい」
6人が見守る中、その映像が始まる。
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