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聖獣は活躍し、勇者は暗躍する。

 ネコル帝国は大きくなった。

 治めるべき土地も人も膨大となった。


 大きな戦は起きないが、隙を見せれば牙をむいてくる勢力はいくつもある。

 彼らの動向を注視しながらも、国を豊かにする政策を進めなければならない。

 これは地道にやるしかないだろう。作業の効率を上げる魔道具もある。


 皇帝が一番頭を悩ませているのは、治水事業だ。

 毎年長雨が続くと、川のどこかは氾濫する。

 学者や魔法使いたちが知恵を出し合い、対策を試みた。

 高く頑丈な堤防を築いたり、増えすぎた水量を調整するための支流を造ったり。


 それでもどこかにほころびが出る。

 収穫を間近にした田畑が濁流に流され、多くの民が犠牲になったこともあった。


 自身はもう50歳を超えた。息子に皇帝の座を譲ることを考えねばならない時期だ。

 可能な限り問題を片づけておいてやりたい。


 そんな折、異世界人がファズマ王国にもたらした恩恵について、ふと思い出した。

 ファズマ王国は邪妖族と戦わせるため、「勇者」としての異世界人を召喚している。

 もしも召喚術で「知者」や「技術者」を呼べるなら。


 だが、ファズマ王国に召喚術の知識を求めることはできなかった。

 彼らが召喚術を用いるのは、戦力とするため。

 なぜ自国の兵を鍛えて脅威を打ち払わないのか。質のいい武具と、魔道具もあるというのに。


 そんな国に正直に頭を下げてお願いすれば、まず邪妖族を倒すための協力を要請されるだろう。

 勇者を召喚すれば、次にまた呼べるのは30年後と聞く。

 だからどうにかして召喚術を行うのに必要な人材だけでも引き抜けないかと考えた。


 そういった思いを、神々しい(でも屋内で話し合うために小さくなったら、やたらと可愛い)聖獣に切々と訴えた。


 *


「なるほど」

 ネコル帝国皇帝の願いを、それぞれの聖獣を通して6人は聞き取った。

 召喚中の聖獣とは、テレパシーで会話ができるのだ。


「河川の氾濫か。確かに為政者にはつきものの悩みだな」

 凛太郎は真面目な顔でうなずいている。

「豪雨災害の悲惨さは、日本人には他人事じゃないよね。良いアイディアがないか、シリル先生にきいてみない?」

 智也も同情しているようだ。

「ちょっと待って、きいてみるから」

 光希は魔法書を出現させ魔力を注ぐ。


「聖獣たちが手伝ってくれたら、できるって」

 わりとあっさり答えが返ってきた。


「手助けはするにしても、この世界の人たちが維持管理できるようなものにしないといけないわね」

 どれほど高度な知識と技術を用いて造っても、1000年、2000年経てばどうなるか分からない。

 ガワは作っても、その後のメンテナンスはそこに暮らす者が行えるようなものでないといけない。


 *


『私たちのパートナーが合意しました。ネコル帝国の治水事業に関してのみ、協力いたしましょう』

 ファイヤーバードが代表して告げる。

 こういう時に代表者を任されるのは、だいたい赤いひとだ。


「おお、感謝いたします」

 皇帝はひざを折り聖獣に頭を下げる。臣下たちもそれに倣う。


 召喚術の知識と人員を持ち去る計画は破棄され、すぐに中止の指令書を送った。


 聖獣たちはネコル帝国にとどまることになった。


 クリスタルオウルにはスーパーコンピューターなみの処理能力がある。シルバーの魔法書にもアクセスできるので、必要な知識を閲覧できる。

『ホホホホホ。わたくしの頭脳に不可能はありませんわ』


 ナイトウルフは闇魔法を用いて、表面上では気づけない問題点を見つけ出せる。

『隠れてるヤツを見つけ出すのは得意なのさ。まあ、あたいに任せな』


 アースドラゴンは地形や地質の変化を行える。

『もろい岩盤を強固にしたり、その逆も可能じゃぞ。堤防なんて、秒でできるのじゃ、秒でな』


 ホーリーピジョンは聖魔法を用いて、作業に携わる人々の補助・回復を行う。

『これで皆いつでも元気だッポ。土地の汚染も除去できるッポ』


 アイスタイガーは水の流れを正確に読み取り、調整する。

『我さえいれば洪水など防げるが、いつまでもここに留まるわけにはいかぬからな』


 ファイヤーバードは炎の力で過剰な水分を取り除く。

『微力ながら、お手伝いいたします』


『ファイヤーちゃん、謙虚すぎ!』

 聖獣たちからツッコミが入った。


 治水事業は帝国がかなり詳しく調査していたこともあり、順調に進んでいく。


 *


 一方、勇者たちは――。

 魔法職のメンバー3人は魔法を習いに研究室へ向かった。

 同音異字の氏名が入ったポロシャツが出来てきたので、それを着用して。


 特別な区域に立ち入るための契約書には、同音異字名でサインした。

(いや~、私らって息をするように嘘ついてるね)

(自衛のため、自衛のため!)

 悪い笑顔をかわす祥子と智也。それを温かく見守る光希。


 3人はまず研究室内をひと通り案内してもらう。

 薬の研究、呪文の最適化、魔道具の開発、そして召喚術。


 老魔法使いは得意げに案内してくれる。

「この区域はごく限られた者しか入れません。しかし勇者様は召喚術そのものを経験されていますからな、特別に珍しいものをご覧に入れましょう」

 歴代の勇者召喚に用いられた魔法陣が記された書物を見せてもらった。


「この魔法陣で呼ばれたのは、どんな勇者だったんですか?」

 魔法陣については何も分かってない風で祥子が訊ねる。

「左様、これはですな――」

 老魔法使いの説明に、「へえー」、「そうなんですね」と、頭の中を情報が素通りしているような顔で相づちを打つ。


 一見、楽しげに和やかに。

 しかし、こつこつと召喚術の知識を増やしていくのであった。


 *


 また、残りの勇者たちは――。


「今日は私たちの故郷の料理をご用意しました」

 訓練後に騎士団員を離宮に招待して、お米を主体とした料理をふるまった。


 中庭に設置した長テーブルに並べられたのは、おにぎり、牛丼、オムライス。刻みキャベツをたっぷり添えたとんかつ、鶏のから揚げ、肉じゃが、煮魚、みそ汁。炊きたての白米も用意した。


 空腹であったことも手伝い、彼らは旺盛な食欲をみせた。

「このコメってヤツは初めて食べたが、食感もいいし、どんなおかずにも合うな」

「大陸の東側の中でも、ごく一部でしか作られてないって? もったいない!」

「ネコル帝国から仕入れてもらうように、陛下に奏上しては?」


 お米の需要を増やして、お米の生産量、流通量を増やす作戦が1つ進行した。

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