聖獣ちゃん大活躍
今回活躍するのは聖獣ちゃんたち。
ヒーローたちは聖獣相手にデレデレしただけかも。
聖獣の、幼体バージョン。
ドラマ内のエピソードで、怪人が出現させたミニチュアサイズのダンジョンに放り込まれた回があった。
ミニチュアサイズ化されたスクウンジャーでは、ダンジョンボスと戦うには火力的にもサイズ的にも厳しすぎた。
そこでシルバーの魔法書は、聖獣を呼ぶことを推奨した。
聖獣は、契約した相手が呼べば駆けつける。どこにいたとしても。
そして現れた聖獣たちは、なぜか幼体バージョンだった。
視聴者からは「普通にスケールダウンするだけでよかったのでは?」という意見もあったが、「可愛いからよし!」、「可愛いは正義!」、「細けえことはいいんだよ(笑)」という声が多かった。
1話のみの登場だったのにグッズ化され、とても良く売れている。
*
「どうする? 呼んじゃう?」
智也の目は期待にキラキラ輝いている。どう見ても呼ぶ気満々だ。
「呼んじゃおうよ、シリル先生がおススメするんだから、間違いないわよ」
モフり欲にとりつかれた祥子も何か言っている。
当初朝香たちが考えていた対処法では、魔法使いの誘拐は防げるが少なからずけが人は出るだろうし、ファズマ王国とネコル帝国の関係が悪化する。捕らえられたネコル帝国の男たちに、どのような処遇が与えられるかも分からない。
魔法書が推奨する案がうまくいけば、誰も傷つかない上に、少なくとも今代の皇帝は召喚術を諦めてくれるだろう。
6人はお互いの顔を見回し、「やってみようか」と結論した。
談話室にはいつものように、光希が幻影魔法をかけている。室内の光景を盗み見される心配はない。
「ドラマでは謎空間から聖獣がガーッって出てくるけど、実際にやるとどんなになるのかな?」
「試してみれば分かるわよ。ささ、レッドからね」
またいつもの順番でやるようだ。
朝香は天に向かって右手を掲げる。
「来て、ファイヤーバード!」
ピイー! と、鋭い鳴き声が頭上から聞こえる。
つられて見上げると、天井に赤い雲のようなものができていて、それを突き破って真っ赤な鳥が現れた。
長い尾があるのは成体と同じだが、冠羽は小さく、ふわふわした羽毛のせいかぽってりした体型に見える。
ファイヤーバードは天井を大きくくるくると回った後、朝香が差し出した腕に留まった。
ちなみに普段は炎をまとっていない。
『スクウンレッドの魔力を感じるのに、あなたは赤刃勇子ではないのね?』
「ええ。この世界でスクウンジャーとして呼ばれたのは、ヒーローショーに出演していた私たち。私は佐野朝香、よろしくね」
2人の対面はすんなりといった。
*
そうして6体の聖獣が集まった。
「いやーん、みんな可愛い~」
祥子はホーリーピジョンを肩に留まらせ、アイスタイガーをわしわし撫でている。大型犬ほどの大きさだが、見た目は子虎だ。
名前に「アイス」とついているが、氷をまとうのは任意で切り替えできる。
『信乃とタイプは違うのに、やることは同じだッポー』
ドラマでのスクウングリーンこと緑神信乃は、おっとり不思議ちゃん系少女だ。
ホーリーピジョンはもともと子どもキャラだが、幼体化してさらにぬいぐるみのようになっている。
「アイスタイガー、ボクも撫でさせてよ」
智也が伸ばしかけた手を、青いしまが入った白い尻尾がぺいっと払う。
『我は男に撫でられる趣味はないのである』
「もー、アイスタイガーはブルーに対してだけツンデレさんなんだからー。お互い初対面なんだから、はい、握手」
祥子がアイスタイガーの前足を持ち、智也に差し出す。
『くっ。初対面なのに挨拶なしというのは礼儀に欠けるからな』
目をそらしながらも握手に応じる。
「うん、よろしくね。あ~、ボク、ブルーやっててよかったあ」
『魔斗と違って、随分よくしゃべるブルーだな』
スクウンブルー青杖魔斗はクールキャラ。基本ツンキャラのアイスタイガーとは、かわす言葉は少なくても息はぴったりというコンビなのだ。ドラマでは。
『この世界のイエローも真面目なヤツなのじゃな。闘士彦とそっくりじゃ』
「恐れ入ります」
頭を下げる凛太郎に、アースドラゴンは首を振る。
『硬い、硬いぞ。同志なのじゃから、もっと楽にせい』
アースドラゴンは凛太郎の肩につかまっている。
東洋風のドラゴンなのだが、今は幼体のため胴体が若干短く、手足が大きい。おじいちゃんキャラの口調のまま、声だけ子どものそれになっている。
聖獣たちは元々のパートナーのことを知っているようだ。
ではスクウンジャーが実在する世界があり、そこから彼らは来たのだろうか? と、疑問を持ってしまう。
「そういうわけじゃないみたいだよ。概念として存在していた彼らは、僕たちが呼んだことで初めて実体を得たんだ。ドラマの中のエピソードや公式設定を記憶として持ってね」
光希は「シリル先生」を両手で持ち説明する。
皆は感心したように「へー」とは「はー」とか言っている。
『ふほほほ。こっちのシルバーは髪が金色じゃな。これでは銀書賢人ではなく金書ケントじゃな』
アースドラゴンは何か面白いことを言ったつもりのようだ。
『アースじいは相変わらずくっだらないこと言ってんなー』
漆黒の狼がはすっぱな口調で言うが、声は子ども仕様だ。
舞の膝の上に座り、ふさふさの尻尾を揺らしている。
舞とナイトウルフ。お互いまんざらでもなさそうに撫でつ撫でられつしている。
『それより皆様、そろそろ作戦について話し合いませんこと?』
光希の肩の上で、白銀色に輝くフクロウが淑やかに告げる。
*
幼体の聖獣たちは、光希の幻影魔法をまとったまま空に上がっていく。
自力で飛べないアイスタイガーとナイトウルフはアースドラゴンの背中にまたがっている。ぬいぐるみが乗っているようだ。
『それでは、行ってくる』
「よろしくね、気を付けて」
手を振りながら見送る。
聖獣たちは海上に出ると幼体化と幻影魔法を解いた。アースドラゴンの背中にいる2体は運搬の都合上、幼体のままだが。
ほどなくして3隻の船が見えてきた。風と人力で動く、木でできた大きな船だ。
向こうのほうでも近づいてくる巨大生物に気づき、右往左往している人影が見える。
ファイヤーバードが高度を落とし、前に出る。
恐慌状態に陥った船員が矢を射かけるが、その矢は炎の壁に燃やし尽くされる。
『落ち着きなさい。私たちにあなたたちを害する気はありません』
神々しい女性の声が静かに語りかけてくる。
「こ、言葉をしゃべった? まさか、神獣か!?」
船の上の男たちは武器を下ろす。
『私たちは時空を管理する聖獣です。この星は幾度も異世界から生物を招き寄せてきたため、時空に深刻なゆがみができています。実に由々しきことです』
「し、しかし聖獣様。召喚術を行ってきたのはファズマ王国の人間です。私たちはネコル帝国の商人です」
ファイヤーバードは重々しくうなずく。
『ええ。あの国にはきついお灸をすえるつもりです。私たちがここへ来たのは、ネコル帝国の皇帝に引き合わせていただきたいからです。何の前触れもなく帝都を訪れれば、驚かせてしまいますからね』
その光景を想像すれば、心臓が縮み上がる。帝都は間違いなく大パニックになるだろう。
男たちは案内役を引き受けた。
『ありがとう。ではあなたたちを帝都まで運んで差し上げましょう――六聖合体、飛行フォーム!』
もふもふだった聖獣たちが、突然メカメカしくなる。
アースドラゴンとナイトウルフが足となり、アイスタイガーとホーリーピジョンが上半身となる。ファイヤーバードが頭部に収まると、クリスタルオウルが翼となる。
『完成! ホーリージャイアント、ウィングバージョン!』
シャキーン! と、決めポーズをとる。
様式美というものをよくわかっている聖獣たちであった。
*
6人と6体で考えた作戦は、聖獣の神々しい外見を利用したお芝居だった。
まずはファズマ王国に向かっている船と接触して、皇帝への橋渡しを依頼する。
この船がファズマに到着しなければ、誘拐作戦は決行できない。逃げる脚がないのだから。
そして首尾よく皇帝と話す機会を得たら、召喚術を求める正直な理由を問う。
もしも呼び出した異世界人を使って戦争をしようというのなら、問答無用で「天罰」を落としてもいい。
ただし説得に応じたり、召喚術を求める理由が切実なものであるなら、必要な知識や技術を与えることで召喚術を行う必要を無くしてもいい。
ホーリージャイアントが生み出す風の壁により、船ごと空を飛ぶという経験をしている男たちは、泣いたり笑ったり祈ったりと、気持ちが大忙しであった。