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異国の商人

 祥子と光希が自室にこもって作業をしている頃、残りの4人は市場を訪れていた。

 必要な食材のありかについては、前日のうちに光希の魔法書で調べてある。


 米に似た穀物は、大陸の東側でも一部の地域でだけ食べられているらしい。

 普通に炊飯するという調理法は用いてないらしく、おかゆのように食べたり米粉として使ったりしている。それゆえマイナーな食材で、ファズマ王国には出回っていない。

 ただ、こちら側に滞在している東側の商人たちが、自分たちで食べるために持ち込んだものはあるようだ。


 海産物は海辺の町から仕入れる都合があり、王都では高級品だ。冷蔵庫に似た魔道具はあるが、高価であるし大型化は難しいらしい。

 かつお節は作られていないが、こんぶやいりこに似たものはあるらしい。

 しょうゆやみそに似た調味料もあるようだ。


「ボク、麺類も食べたいな~。うどん、おそば、ラーメン、焼きそば……」

「レシピは光希君が調べてくれるから、材料さえそろえば作れると思うよ」

 舞の返事を聞いて「やったあ」と智也が陽気な声を出す。


「そういえば『シリル先生』って、ネットや本に掲載されてるレシピは表示できるのに、町中華の秘伝のスープとかは検索できないんだよね~」

「まあ、秘匿されている情報は収集しない、という設定だからね」


 1年生組2人が料理についてあれこれと語りながら前を行く。

 朝香と凛太郎がその後に続く。


 買い物しつつ歩いていると、凛太郎が3人を呼び止めた。

「どうしたの、リンタさん」

「3軒先の店に、脅威度”黄緑”以上の人間が20人はいる。その中に”黄色”が3人、”オレンジ”が1人」

 いくら危険なルートを行き来する商人やその護衛とはいえ、この王国基準では強者に入る人間が20人も一つ所にいることに、違和感を覚えてしまう。


「あの店に着いたら、擬態シノビを放っておいてくれ」

「分かった」

 シリアスな顔はここまで。

 お店の前では、普通の買い物客にならなくてはいけない。


 問題の店では、今日の大目標である米が扱われていた。

「やったあ、お米があるよ。まずは白米を味わって、カレー、チャーハン、丼、色々食べられるね~」

 智也のそれは、もう演技ではないだろう。


「いらっしゃいませ。お客様はコメの食べ方を色々ご存じなのですね」

 店番をしている若い男が、愛想よく話しかけてきた。

「ボクたちの故郷はお米が主食だからね」


 智也の言葉を聞いて、店員は何か気が付いたようだ。

「もしかして、先日召喚された勇者様でしたか」

「はい。お城では毎日美味しくて豪華な食事を出してもらってるけど、故郷の味が恋しくなる時ってあるでしょ?」

「ええ、ええ、わかりますとも。私どもも商売のためとはいえ、故郷を離れてもう何年もたっていますからね」


 店員との会話は智也と凛太郎に続けてもらい、女子2人は他の食材を見せてもらう。

 米、麦の他に、乾燥させた豆類も数種類ある。

「豆類があるから、お豆腐やあんこも作れそう」

「お砂糖やお塩が普通に買えるから、助かるね」

 和菓子も作れそうとなり、女子のテンションが上がる。


 凛太郎は智也の後ろで話に耳を傾けつつ、店の奥の気配を探っている。

 脅威度オレンジの人物が扉の向こう側で様子を伺い、何人かは作業の手を止めているようだ。

 何かやましい行いをしていることは間違いないだろう。


 米をどっさりと豆を何種類か買い、重たいはずの荷物を涼しい顔で背負って勇者一行は去っていった。

 店番をしていた男は、冷や汗をかいていた。


「どうやら、今のは普通に買い物に来ただけだったようだな」

 扉の奥に控えていた男が姿を現す。

「ええ、勇者は邪妖族を相手にするのが仕事だとは聞いていましたが、万一ってこともありますからね」


「それにしてもさっきの連中、えらい買い込んでいったな。コメがそんなにうれしいのかねえ」

 扉の向こうにいて顔は見えていなかったが、あれも作れる、これも食べられる、とはしゃいでいた。

「何にしろ良かったです。計画がバレたのかと、応対していて冷や冷やしましたよ」

 男たちは苦笑いを浮かべる。


 *


「やっぱり何か企んでるみたい」

 擬態シノビから送られてくる音声をリアルタイムで聞きながら、舞がそれだけ報告する。

 凛太郎は尾行している者がいないか気配を探っているが、不自然に足を止めたり距離を保ったりという動きは感じなかった。


 その日の夕食は久しぶりの日本食に舌鼓を打った。

 世話係の人たちにも食べてもらったが、おおむね好評だった。


 その夜の談話室にて。

「皆の『手かげん用武器』を作ったよ」

 光希がアイテムボックスに収納してた武器を取り出す。


 形状は皆の基本武器で、素材は木。基本的に素手で戦う凛太郎には、ナックルダスターを用意した。それらに軽量化、耐久度アップの術式を刻む。

「そして相手のHPの1割を減らす術式をプラスしたんだよ。HPをゼロにしてしまう心配はなくなるよ」


「すごい。これで訓練でも打ちあえるわね。ありがとう光希君」

 木の剣に触れながら朝香がお礼を言う。


「木で出来ているけど、えげつないくらい耐久度が高いわね、これ。ミスリルの剣でも傷つけられないし、上級魔法程度では燃やすこともできないみたいよ」

 鑑定魔法を使った祥子が、あきれ半分感心半分でつぶやく。

「うわあ……」

 仲間たちまで遠い目になる。


「まあまあ、本題はこれから」

 と、笑顔で光希が取り出したのはハリセン。それが6つ。

 本当に作ったんだあ……、という目で舞はテーブルに置かれたそれを見つめる。


「じゃあ舞ちゃん、僕をそれではたいてみて?」

 と、正面に座る舞に話を振る。

「光希君のことだから何か仕掛けがあるんだろうけど……いいの?」

「もちろーん! さあ、思い切ってやっちゃって」

 くいくい、と両手を動かす。


 舞はハリセンを手に取り、遠慮気味にハリセンを振る。気持ち的には「ぺち」くらいの力だ。

 だが。


 スパーーーーン!


 すごく良い音がした。


 幻影の魔法をかけてなかったら、離宮中の人間が駆けつけたかもしれない。


 光希は得意げに「ふっふっふー」と笑っている。

「これはとにかく音にこだわったんだよ。派手さと爽快感が出るようにね。そして与えるダメージはゼロ! これで遠慮なくツッコミが入れられるよ」


 しばしの沈黙。


「えっとじゃあ次は私からの報告ね」

 祥子が無理やり話題を変えた。

 えー、皆ひどくなーい? という光希の嘆きの声はスルーされた。


 祥子は雑貨屋で買っておいたガラス玉から不純物を抜き取り、魔力をこめるという作業をしていた。

「不純物を抜いたら、無色透明になっちゃうのよね。でも、魔力はしっかりこめられそうよ」

 日本に戻る際にどのくらいの魔力が必要となるか分からないが、地道にやるしかないだろう。


 それから市場に行ったメンバーが、怪しげな店のことを報告する。

「行商人だから護衛もいるだろうけど、他のお店の脅威度がそれほどでもないのなら、やっぱおかしいわよね」

「擬態シノビからの続報に期待だね」

 いみじくも光希の言う通りとなる。

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