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王の思い

 城に帰還した朝香たちは、謁見の間で報告する。

 町に現れたのはバ・クー、メイ・ジイ、ホー・ズルという邪妖族だった。

 昨日の戦いを見ていて、ホーリーキャノンの光を受ければ呪いが解けると勘違いしたようだった。


「彼らは呪いを解いてもらいたいようでした。3人が同時に現れたのは偶然で、お互い抜け駆けした結果だったようです」

 その報告を聞いて、国王も老魔法使いもほっとした表情を浮かべる。


「その『ホーリーキャノン』で呪いを解くことは可能なのか?」

「洗脳状態を解除する効果もありますが、基本的には邪悪な敵を倒すための技です。昨日の邪妖族は犯した罪が軽微だったため、たまたま良い結果が出ただけでしょう」


「そうか。せっかくの休日だったというのに、戦いに出向いてもらって感謝している。明日こそゆるりと休んでくれ」

 朝香たちは礼をして、謁見の間を後にする。


「明日も休みだって。僕は自室にこもって作業しててもいい?」

 光希の発言に、舞は「例のあれを作る気だ」と察した。

「ネタ武器はほどほどにね」

 と、一応釘をさす。


「じゃあ私は今日町で買ってきた小物類でお部屋をデコってるわ」

 他の耳目があるため言い方を工夫しているが、魔力を溜めるためのアイテムを早速作ってみるようだ。


「そっかー。ボクたちは何しようかなあ」

「じゃあ日本の食事が再現できないか、市場を見てきてくれない?」

 と、祥子が提案する。

 特にやりたいことがなかったので、残りのメンバーは明日市場へ出かけることにした。


 *


 勇者たちが謁見の間を出た後、国王は約定について思いを巡らせた。

 今からおよそ120年前、当時のファズマ王国国王と邪妖族の宰相との間で結ばれた密約。


 そのためにファズマ王国は勇者召喚の儀を続けねばならず、勇者を魔王討伐に向かわせねばならない。

 もしも約定を破れば、住処を追い出される。城そのものが消えてしまうのか、何者かによって住処を追われるのか。


 国王は、この約定をどうにか解消できないかと願っている。これさえなければ、勇者召喚を行わなくて済む。

 異世界人の召喚は、自分の代で終わりにしたい。

 あまりにも傲慢で、非人間的な行いだから。


 だが邪妖族がファズマ王国民より圧倒的に強い現状、約定を解消するのはデメリットしかない。

 約定による制約がなくなれば邪妖族の襲撃の頻度が上がり、森周辺の町以外にも被害が及ぶ危険があるからだ。


(今回召喚された勇者たちは、かなり強いようだ。彼らに期待するしかないか)


 異世界から来た勇者たちは、この世界にはない知識を授けてもくれた。

 妖精族からもたらされた魔法陣の知識と合わせて、ファズマ王国の生活は飛躍的に豊かになった。


 大陸の東側から訪ねてくる行商人たちは、ファズマ王国を絶賛した。便利な魔道具があり、民の生活が豊かで、治安もいいと。

 東側の情報を得るため、ひいては国交を結ぶため、まずは行商人たちを通じて他国との交流を始めた。

 その行き来には生命の危険が伴うため、王族はもちろん国の重要人物が向かうことはできないが。


 いつか自由に行き来できるようになり、文化の交流ができればいいと国王は夢想する。


 *


 崩れた城の前で呆然としていると、左側の崩れてない棟から静かな足音が近づいてきた。

「我欲に目がくらんで、約定の罰則を忘れていたようだな」

 背が高く長い黒髪の男が現れる。


「魔王、フィアード……」

 バ・クーたちは居心地悪そうに目をそらす。


「その醜い姿を『呪い』のせいだと思い定めているようだが、それは貴様らの魂の在り様が原因だ。何度も言っているだろう。私が与えたのは『祝福』だと」


「確かに力はついた。人間よりはるかに強くなった。だが……っ」

 ホー・ズルが鼻息荒く反論するが、魔王の視線を受けて黙り込む。


 魔王の瞳は厳しさを宿している。だが、聞き分けのない子ども相手に困り果てたような色も見える。


「”女王”は無事だから安心するといい」

 そう言い置いて、城の奥へ戻っていく。


 城の左半分は来客用の部屋が多く配置されている。

 壁や窓には魔素を取り込む魔道具がはめ込まれている。大小さまざまな宝石に、魔素を効率よく屋内に取り込む術式が刻んである。

 木漏れ日の下でその宝石がきらめき、妖精城はとても美しい。


 通路の奥の扉を開けると、中庭に出る。草木の緑と色とりどりの花。規則的に並ぶ石塔。それには亡くなった勇者たちの名前が記されている。

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