わくわくショッピング
6人で城下町に出てきた。
「じゃあ、こっから別行動ね。帰る時はまたここに集合ね」
待ち合わせの時間を決めて、あと何かあれば通信機で連絡をとることにした。
女性陣は自然にショッピングを楽しむ。
宝石や魔道具を扱う店ばかり入っていては、何か目的があるのでは、と疑われそうなので。
「というわけで、手近なお店から攻めるわよ」
こういう時に主導権を握ってくれるのは祥子だ。
衣類や雑貨などのかさばるものは、お城へ送ってもらうように手配する。
「ほとんど手ぶらのショッピングって、楽でいいわね」
女性3人組は街歩きを楽しむ。
道行く人たちの中には勇者の顔を覚えている人もいて、時折声をかけられる。
「昨日、早速邪妖族を倒してくださったんでしょう? すごいです!」
邪妖族撃退の実績をあげているおかげか、町の人の勇者へ向ける感情は好意的だ。
しかし、見目麗しい若い女性だけのグループは、よからぬ輩の注目も集める。
「おい、あの女たち、ちょっと良くないか?」
「そうだな。貴族の娘みたいにお高くとまってもねえし、町娘みたいに野暮ったくもねえ」
(いいカラダしてるし、人気のない場所に連れ込んで……ふへへ)
彼らの妄想は、下品下劣という点でおおむね似たような内容だった。
顔をだらしなくゆるませ、仲間たちにある提案をしようと口を開いた途端、
「あれ?」
「ん?」
男たちは自分が何を言おうとしていたか忘れてしまっていた。
その間に女性3人連れは遠ざかっていった。
「あ、これいいわね!」
祥子の鑑定にヒットしたのは、庶民向けの雑貨だった。
直径2センチくらいの色とりどりの丸いガラス玉が、無造作に陳列されている。
女子3人が陳列棚の前で楽しそうに語らっているのに気づき、女性店主が声をかけてくる。
「それはね、家の壁に埋め込むために作られたんだよ。大昔は金持ちが自分の財力をほこるために、本物の宝石を壁に埋め込んだらしいよ。だけど、そんなことをしたら盗むような不届き者も必ずいるからね。ガラス玉で代用するようになったら、逆に金持ち連中は使わなくなってしまってね」
壁に埋め込んで彩りを加える他、魚を飼う水槽に沈めたり、子どもがコレクションして楽しんだりと、使い道はその人のアイディア次第だと女性店主は説明する。
「きれいな色ね」
朝香はひとつつまんで光にすかしてみる。
「私が試しにお部屋をデコってみるわ。もし出来栄えが良さそうだったら、また買い物に来ましょ」
他の人の耳があるところではそう言って、店を出る。
「不純物を取り除いたら、いい感じに使えるみたいよ。お城に戻ったら試してみるわね。さて、買い物が続いたから、美味しいもの食べに行こうよ」
女性3人組は手作りケーキが自慢の喫茶店に入っていった。
*
男性3人組は魔道具屋を訪れていた。
メンバーのうち2人が魔法職なので、不自然ではないだろう。
水晶玉やらワンドやらを物色していると、男性店員がすすすっと寄って来た。
「もしや、勇者様ではありませんか?」
にこにこと、愛想よく声をかけてくる。
「そうですが、今日は休暇中ですので、できればご内密に」
凛太郎がぺこりと頭を下げる。
「かしこまりました。ところで、もし勇者様のお気に召した品がありましたら、それを『勇者様お買い上げの品』として宣伝してもよろしいでしょうか? 当然その品物の代金はいりませんので」
3人は顔を見合わせ、「まあ、いいんじゃない?」という結論に至った。
「じゃあ智っちのワンドもらおうよ。これ、魔法の威力が上がる術式が刻んであるよね」
光希が手に取ったのは、柄の部分に術式が刻まれ、柄頭に赤い宝石が埋め込まれたワンドだった。もちろん用があるのは宝石のほうだ。
「おお。さすが勇者様、お目が高い!」
店主はもみ手せんばかりにほめたたえてくる。
「ミッキーがいいって思ったんなら、それにしようっか」
「ですが、代金は支払わせてもらいます。陛下よりそれなりの金額をいただいていますので」
凛太郎が目力で押し切り、代金をしっかり払い店を出た。
「買い物1コ済んだから、何か食べようよ」
屋台が並んでいる辺りを智也が指さす。
「うわ、智っち休むの早っ。後で祥子さんから『根性ないわねー』って呆れられるよ?」
「通り道にあるのに無視するのはもったいないよ。今日はオフなんだし」
「――ムム。一理あるか。凛太郎さん、どうする?」
結局2人とも屋台をのぞくことに興味津々なのだ。
「せっかくだから、のぞいて行こう。時間はたっぷりあるんだから」
凛太郎もつい笑みがこぼれてしまう。
*
そろそろお昼ごはんでも、という時間になっていた。
空砲音のようなものが続けて2つ。
「え、これって魔力のろし? また邪妖族が現れたの?」
戸惑う朝香たちの耳に、またも魔力のろしの音が聞こえた。
「お城に帰らないと!」
朝香が通信機で呼びかけると、すぐに応答があった。
「城門の前で落ち合おう!」
それぞれにお城を目指して走る途中、またも魔力のろしの音が聞こえてきた。
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