勇敢戦隊スクウンジャー
夏の青空の下、クラゲ怪人が暴れている。
遊園地の屋外小劇場。観客席には小さな子どもたちとその保護者たち。
6人の戦士たちは舞台袖で出番を待つ。
「結構たくさん来てもらってるね」
朝香が少し体をずらし、後ろに控えている仲間たちにも見えるようにする。
「フフ。『大きいお友達』も結構来てるわね」
祥子が含み笑いをもらす。
「SNSで好印象の感想をあげている人がいたからね」
顔全体を覆うヘルメットを装着していても、智也がニヤニヤしていることはたやすく想像できた。
「アクションは舞ちゃんのバク宙と凛太郎さんの空手が特に迫力なんだよね。僕は頭脳労働担当だから、ダンスだけ頑張ったけど」と、賢者役の光希。
「空手は7歳の頃からやってたからな。まあそういう特技があったからこのバイトに採用されたんだろうが」
「私も高校時代に体操競技やってたからだし」
彼らが演じるのは「勇敢戦隊スクウンジャー」。ファンタジーRPGをモチーフにした特撮ヒーローだ。
朝香が扮するのは勇者。武器も魔法も操る女性戦士。
ヘルムと鎧を模した戦闘服は赤を基調としており、ところどころに金色の縁取りがなされている。背中には赤いマントが優美なドレープを描いている。
智也は魔法使い。数多の魔法を使いこなす男性戦士。
青い戦闘服に銀色の縁取りとベルト。その上に青色のローブをフードを背中に下ろした状態でまとっている。ベルトの左側にはワンドが、ホルスターに入った状態で下げられている。
祥子は神官。回復、補助の魔法に長け、錫杖で近接戦闘もこなす女性戦士。
立ち襟のワンピースを模した戦闘服は膝上丈で、足元にはタイツとブーツ。頭には五角形の帽子をかぶっている。いずれも緑を基調に白い模様が描かれている。
凛太郎は格闘家。鍛えられた肉体で戦う男性戦士。
戦闘服は空手着をアレンジしたものとなっている。道着は黄色でハチマキは白、帯は黒。武器を持たないほうが攻撃力が上がるというスキルが設定されているため、通常は武器を持たない。
舞は忍者。俊敏な動きと隠形の術で敵を惑わす女性戦士。
くノ一をイメージした戦闘服は、黒とグレーで統一されている。背中には刀、腰のポーチにはマキビシ、ブーツの側面には小刀がセットされている。
光希は賢者。天才的な頭脳を持ち、仲間に助言を与える男性戦士。
銀を基調にした戦闘服に、ケープをまとっている。ヘルメットの額部分には、サークレットをイメージした銀色の装飾が施されている。左手の分厚い魔法書は戦いに有用な情報を与えてくれる他、武器としても使える。
子どもたちがヒーローに助けを求める。
「たすけてー。スクウンジャー!」
出番だ。ヒーローたちはうなずき合い、ステージへ飛び出す。
会場からは子どもたちの歓声。
収録済みのセリフに合わせて、演技する。
レッドとイエローが前に出て戦闘員と戦い、ブルーは魔法で援護する。
その間にグリーンが回復魔法で市民たちを癒し、ブラックが避難誘導する。
シルバーはザコ戦闘員たちの攻撃をいなしながらクラゲ怪人の分析を行う。
モブ市民が舞台袖へ退場し、舞台上にはヒーローと怪人、ザコ戦闘員だけとなる。
クラゲ怪人は悔し気に体を震わせる。
「あと少しで人間どもに魔王様への忠誠心を植え付けられたというのに。また邪魔をするか、スクウンジャーめ!」
「人の心をねじ曲げるなど、許せない! 皆、行くわよ!」
レッドの号令に「OK!」の声が返ってくる。
レッドは剣を抜き2度袈裟切りを行うと、くるりと1回転。剣を右上段に構える。
「燃える勇気は真っ赤な炎! スクウン……レッド!」
ブルーは右手にワンドを構える。
「冴えた魔力はブルーの煌き。スクウンブルー」
本来のスクウンブルーはクールキャラだ。ブルーを演じる時だけ智也も大人しい。
グリーンは天に差しのべた両手を胸の前まで下ろし、祈るように指を組み合わせる。
「癒しの祈りは緑のそよ風! スクウングリーン!」
イエローは正拳突きからの回し蹴りを決める。
「鋼の体に黄の闘志、スクウンイエロー!」
ブラックは華麗にバク宙をきめ、忍者らしく印を結ぶ。
「忍びが潜むは黒き陰。スクウンブラック」
シルバーは魔導書を大きく広げてパラパラとめくった後、それを閉ざして小脇に抱える。
「知性の光は銀のひらめき。スクウンシルバー」
6人が声をそろえる。
「6人そろって、勇敢戦隊スクウンジャー!」
ビシィッ! と音が鳴りそうな勢いでポーズをとる。それに合わせて6色のスモークが噴き上がる。
今日の出だしも好調だ。
ヒーローたちが渾身の技を放っても、クラゲ怪人を倒せない。
そこでシルバーの出番だ。超天才キャラという設定で、観察、分析を行い最適な対処法を教えてくれる。
「皆ッ! こいつのゼリー状の鎧は弾力性に富み、ダメージを無効化してしまう。しかも再生力が高い。ブルーが究極氷結魔法で凍らせて、全員で一斉に攻撃するんだ」
「OK!」
ブルーがクラゲ怪人にワンドを向けると、杖に仕込んだ宝石が輝く。ブルー本人の魔力と、杖に蓄えていた魔力を合わせて、究極レベルの攻撃魔法が放たれる。
「アルティメット・アイスブリザード!」
会場内に吹雪を連想させる効果音が流れる。ステージの天井から強いミストを降らせて目隠しをしている間に、怪人は早変わりする。
「グッ。体が……?」
白く凍り付いたクラゲ怪人が狼狽の声を上げる。
カチコチに凍った怪人に向けて、ヒーローたちの連携技が撃ち込まれる。
「鎧にひびが入った! 今よ!」
レッドの号令で皆が左腕のブレスレットを構える。
「聖か邪か! 自らの魂で答えよ! ホーリーキャノン!」
6色の光が怪人を包む。
心が清らかな相手ならば、ホーリーキャノンを受けてもダメージは受けない。しかし……。
「おのれ、勇敢戦隊スクウンジャーめ……っ」
クラゲ怪人は力尽きる。テレビならば爆散してこの後巨大ロボ戦に移行するのだが、ステージではここまでだ。
ナレーションの後は楽しくダンスで盛り上がり、握手会で和やかにショーは終わるのだった。
読んでくださって、ありがとうございます。
評価をつけていただけましたら、はげみになります。
よろしくお願いします。