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勇者の実力

 2番手を務めるのは祥子。

 150センチほどで装飾がついていない錫杖があったので、それを武器に選んだ。


 1試合終えた凛太郎からは、1から2割程度の力でいくのが無難、と教えてもらっている。


 訓練場の真ん中で、祥子は相手と向き合う。

「よろしくお願いしまーす!」

 にっこり笑顔で頭を下げる。


「よ、よろしくお願いしま……す」

 20代前半くらいの団員は、若干顔を赤らめ礼をする。


 今の祥子は、おしゃれとは無縁の格好をしている。体を動かすから、長い髪は一つに束ね、メイクも薄めにしている。服装は体のラインが出ないジャージっぽい上下だし、上半身をガードする革鎧までつけている。

 それでも若い女性と間近で交流する機会が少ない騎士団員には、祥子の笑顔はまぶしく映ったようだ。


(ヒーローショーの練習で錫杖を使ったアクションはしっかりやったから、同じ感覚でいけばいいのよね。金属製の飾りがないだけ、こっちの杖のほうが安全ぽいわ)

 一人納得して、錫杖を構える。


 相手の武器は片手剣。身長は祥子とほぼ変わらない。

 リーチの面では祥子のほうが有利だろう。


 相手には打って出る様子がない。

 祥子は自分から仕掛けることにした。

 1歩踏み込み、相手の剣を下側から軽くはじく。


「あ」

 対戦相手から、間の抜けた声が上がる。


 はじかれた片手剣は宙を舞っていた。


「続行するか?」

 審判であるハリスが団員へ問う。

 はい、と答えて団員はあわてて剣を拾いに行く。


 仕切り直してもう一度。

 打ち込んできた剣を錫杖で受け止め、ぐいっと押し返す。


「わー」

 相手は尻餅からのでんぐり返しを披露してくれた。


(え、うっそ。私そんなに怪力出してないよ?)

 祥子は武器を構えたまま焦っていた。


 ハリスにより、試合終了を告げられる。


 観戦中の団員からは「しっかりやれ」だの「デレデレしてんじゃねーぞ」だの、叱責とからかいの声が上がった。


 *


 光希は盾を左手で持っている。木製で長方形の、片手で装備する盾だ。

 それを腕には装着せず、バックル部分をつかんでいる。


「ミッキー、もしかして……!?」

 何かをさとった智也の声に、光希はにぱっと笑う。

「一度やってみたかったんだ。盾でぶん殴るの」

「盾はロマンだよね~」


 一見ネタ武器に走ったようだが、シルバーのメインウェポンが魔法書なので、似た使用感のものを選んだ結果なのだ。

 魔法書で敵をぶん殴る賢者というのも結構ネタキャラのような気がするが、それが公式設定だから仕方ない。


 騎士団員たちには、戸惑いと侮蔑の反応が見られる。

「今度こそ負けんじゃねーぞ」

 団員たちの声援に応えた後、対戦相手が光希に向き直る。

 使用している武器は、双剣。


(おお~~! 双剣もめっちゃかっこいいな~)

 ゲームやアニメでしか見たことがない武器を目にして、テンションが上がる光希。


 光希は体の左側を前にして、盾を構える。

 試合開始の礼をした直後、相手が突っ込んできた。


 左右の剣を交互に振ってくる。斜めに切り上げ、横に払い、真っ直ぐ突いてくる。

 光希はその動きを観察しながら防御する。


(シルバーのスペックのおかげで動体視力もバッチリだし、攻撃パターンも覚えられたな。ありがたや、ありがたや)

 読み通りの軌跡で剣が迫ってきた時、光希ははじめて反撃に出る。


「パリィ! ……からの、盾殴り!」

 相手が体勢を崩している間に、盾の下辺を両手で持つ。


 光希は斜め下から盾をスイングし、相手の体を盾の表面で打った。接触面積が大きいほどダメージは減るだろうと考えて。


 相手は空を飛んだ。

 幸いにも待機中の騎士団員たちのほうへ飛んでいき、受け止めようとした者と逃げようとした者が混乱しているうちに、彼らが下敷きになることで事なきを得た。


「Ohー……」

 ついエセ外国人ぽくつぶやいてしまった。日英ハーフだけど。


 対戦相手は気絶してしまい、光希の勝利で終わった。


 *


 舞は日本刀に似た長さの片手剣を選んだ。

 対戦相手は2メートルはありそうな巨漢であった。武器は持っていないから格闘技で戦うのだろう。


(どうしよう。祥子さんも光希君も、そんなに力込めてなかったのに相手が吹っ飛んだ、って言ってた。――あ、でも、この人は体が縦にも横にも大きいから、そんなに気をつけなくても大丈夫かも)


 40センチほどの身長差も、舞は前向きにとらえる。


 騎士団の面々は、良いところを見せる間もなく連敗中だ。

 試合に臨むにあたって、仲間たちがプレッシャーをかけてくる。

「おい、今度こそ勝てよ」

「相手はあんな小せえんだ。押さえこんでやったら、すぐギブアップするだろ」


 体格差からいっても負けるはずがない。しかも相手は女だ。

 男はそこで、いびつな笑いに顔をゆがめた。

(ひ、ひ。押さえつけて楽しませてもらうか。ギブアップしても気づかないふりをして、たっぷりとな)


 舞は急に悪寒を覚えた。

(何? すごく嫌な感じ)

 未知の感覚にパニックを起こしかけるが、ふとドラマのエピソードを思い出す。


 スクウンブラックが殺気を感知して、「ぞわっとする」と、身を震わせたことがあった。

 おそらく今誰か(状況的には対戦相手か)が殺意を向けたのだと舞は理解する。


 試合だからと少し気楽に考えていただろうか。本物の戦いになれば、殺気をぶつけられることなど当たり前になるだろうに。

 舞は気持ちを引き締める。


 試合開始早々、対戦相手が動く。両腕を突き出し、「がー!」と叫びそうな勢いだったが。


「ん? あれ?」

 男は足を止め、自分の手や周囲を見回している。


 舞は距離を保ったまま警戒する。


 仕切り直して試合を再開するが、男は動き出した途端すぐ足を止めるのを繰り返す。


 似たようなことが、初戦の騎士団長戦でもあった。

 相手の油断を誘う罠でもなかったようだが、一体何なのだろう。

 試合を見守る仲間たちも首を傾げている。


「ふざけて試合の進行を妨害するなら、反則負けとするぞ」

 ついにハリスから厳しい言葉が吐き出される。


 後がないと思ったのか、男は身を低くして突進してきた。肩幅に開いた両腕は、真っ直ぐ前に突き出されている。

 舞はタイミングを計る。

 自分の間合いに入ると、地を蹴り飛び上がる。

 右足の甲であごを下から蹴る。のけぞる男の胸を蹴り、その勢いで後方へ宙返り。

 美しい弧を描いて舞は着地する。


 重い響きを立て、男があおむけに倒れる。 

 白目をむき大口を開け、ぴくりとも動かない。


 舞の勝利を告げるハリスの声が響き渡った。

読んでくださって、ありがとうございます。

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