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ヘ・ン・シ・ン!

 6人は庭に出ていた。

 スクウンジャーへの変身が本当にできるのか。ドラマの中の彼らと同等の能力を使えるのか。

 そういったことを確かめるためであるのだが、うきうきしている人間が若干いても仕方ない。


「じゃあ、変身したら名乗りもやってね~」

 祥子がビッと親指をたてる。

「えっ、それやらないとダメ?」

 朝香は腰が引けている。


「ヒーローショーでやってたんだから、今更恥ずかしがることないじゃない」

 ね? とウィンクされる。


 朝香は他のメンバーに視線を移す。

 やる気満々の智也と光希は、うんうんとうなずいている。

 舞は諦めたようにこくりと頭を下げる。

「まあ、今日のところはいいんじゃないか」

 凛太郎は苦笑している。


「じゃあ、皆で一斉に変身して、順番に名乗りもやるよ? せーの」

 朝香の合図で、皆がブレスレットの宝石に触れる。


「勇敢チェンジ!」

 6人の声がそろい、宝石から光が放たれる。


 炎のような赤い光が朝香を包み、戦闘服へ変化していく。まずは胴体、手足が戦闘服に包まれる。次にヘルメットが頭部を覆い、最後にマントがひるがえる。

 朝香は剣を右上段に構える。

「燃える勇気は真っ赤な炎! スクウン……レッド!」


 背後に爆発が起きないのが不思議なくらい、きまっているポーズだ。

 しかし、後が続かない。


「わー、アサカさんかっこいい~」

 その元凶たる智也がのんきに拍手している。


「ちょっと! ちゃんと続いてよ~」

 朝香が顔を真っ赤にして苦情を述べる。ヘルメットで顔は見えていないが。


「まったく、智也ははしゃぎすぎだぞ」

 凛太郎が威圧感込みで智也の肩に手を置く。

「ご、ごめんなさ~い」

 これまでにも凛太郎が武力で訴えたことはなかったが、精神的な「圧」は感じる。智也は素直に謝った。


 仕切り直して全員が名乗りを行い、ようやく本来の目的に移る。


 まずは武器やアイテムがドラマと同じように使えるかを確認する。攻撃魔法は明日の訓練で試すつもりだ。


 朝香は腰の剣を抜いてみる。輝くような美しい刀身が現れる。

 ショーで使う「良くできた偽物」ではない。本当に切れてしまう剣だ。

 何度か素振りをして、剣の重さやリーチを確かめる。

 同時に自分の身体能力が格段に上がっていることに気づく。

(これで誰かを切ってしまうことがなければいいけれど……)


 智也はワンドを掲げてみる。

 先端は渦を巻くように丸くなっており、その中央に大きな宝石がはめ込まれている。その宝石の色は暗い。

「魔力が充填されてない……。魔力こめからスタートかぁ。変な設定までリアルだな」

 つい感心してしまう。

 ドラマの中でブルーがやっていたように、宝石に手をかざし魔力をこめてみる。宝石が光りはじめる。

(いきなり究極魔法をぶっ放すことはないだろうけど、準備しておいて損にはならないよね~)


 祥子は錫杖をくるくると回してみる。

 ヒーローショーで使っていたものとは質感も重量も違う。

 柄の下のほうを持って振り回せば、ヒュン! と、とてもいい音が鳴った。

(これは本気で撲殺天使にもなりかねない。自戒せねば!)


 凛太郎は呼吸を整え、意識を研ぎ澄ませる。

(いつもより感覚が鋭敏で、力もみなぎっている。これがイエローの高みか)

 足を開いて立ち、こぶしを突き出す。

 空を切り裂く鋭さと重み。

(俺が努力で手に入れた境地ではないが、この状況を生き抜き元の世界に戻るためだ。使いこなしてみせる)


 舞には動作チェックをしておくべきアイテムが、他のメンバーより多めだった。

 まずは背中の刀を抜く。踏み込み、切り上げる動作、そして納刀。

 次はブーツに仕込んだ小刀。引き抜き、構えて、投擲。

 それから腰のポーチを確認する。それはブラック専用の無限収納ボックスとなっており、本人にしか中身の出し入れを行えない。

 マキビシを3つ、とイメージして手で触れれば、舞の手の中にそれらが収まる。

(ヒーローショーで演じるために何度も練習してきたから、スムーズにできるわ)

 体も信じられないくらい軽く感じる。


 光希は魔法書をイメージする。すると手の中にそれが現れた。

(うーん。何を調べてみようかな)

 魔法書の設定を思い出してみる。

 その世界で公にされている情報は、魔法書が自動的に収集する。

 ごく個人的な情報や、意図的に秘匿されているものは、自動収集されない。


(先週放送された「スクウンジャー」のあらすじを示せ)

 念じて魔力を注げば、魔法書が光を放つ。ページがひとりでに開き、魔法文字が浮かび上がる。

 魔法文字はドラマの中で使われる、独自のアルファベットだ。スクウンジャーに変身する能力が備わったためか、普通にその文字を読むことが出来る。

 表示されている文面は、確かに光希が知るドラマのあらすじだった。


(じゃあ、今度はこっちの世界のことを調べてみようかな。ファズマ王国で流行っているギャグを示せ)

 魔力を注ぎしばらく待つが、魔法書が光らない。

 ……。

 …………。

(ご、ごめん。ちょっと趣味に走りすぎてたね。えっと、じゃあファズマ王国の人口を教えてくれるかな?)

 魔法書とのコミュニケーションに懸命になる光希だった。


 全員が一通り体を動かしてみて、次は通信機の動作チェックに移る。


 広い庭を利用して、端から端まで適度な距離をおいて並ぶ。

 朝香はブレスレットの宝石の一つに触れ、通信機能をオンにする。

「テストテスト。聞こえたら右手を挙げてくれる?」

 手前の智也から最奥の光希まで、皆が手を挙げている。「はーい」という声まで返って来る。

 変身中の場合、音声はヘルメットのスピーカーから聞こえるようだ。


 次はビデオ通話を試そうかと計画していたが、

「次は遮蔽物があっても通信できるか実験するよ~。『ストーンウォール!』」

 智也がワンドを天に掲げると、厚さ1メートルの石壁が智也の周囲に出現する。


 智也がいた場所には高さ3メートルほどの石のドームができていた。

 ほどなくヘルメットのスピーカーから智也の声が流れてくる。

『こちらブルー。魔界の地底城に潜入中』

 ブルーになりきった落ち着いた声でしゃべっている。


(ああ、うん。なりきりたいんだね)

 5人はちょっと生あったかい目で智也が入っているドームを眺める。


『えー。返事ないよ。聞こえてないのかなあ。もしかして、ボクが作ったストーンウォール厚すぎた? さすが異世界転移、能力にボーナスがついたのかも。こりゃあ無双するのも夢じゃないな』

 智也の独り言が続く。

『あ、そうだ。カメラモードも試してみようっと』

 智也が該当する宝石に触れると、横長のスクリーンが現れる。画面の右半分には変身した自身の姿が、左側には5つのウィンドウが表示され、それぞれにメンバーが映し出されている。


『あ、やっとカメラモード出した』

 銀色の仮面の戦士がひらひらと手を振る。

『そろそろ地底城から戻っておいで、ブルー』

 緑色の戦士は招き猫のようなポーズで握った手をくいくいと動かす。

『なんだか口を挟むタイミングがなかったというか、聞きほれていたというか……。ごめんね?』

 赤い戦士と黒い戦士は顔の前で両手を合わせている。

『今度からは一人で突っ走る前に、一声かけろよ?』

 黄色い戦士からはため息が流れてきた。


『皆ひどいや……』

 青い戦士の返信が悲しく響いた。

読んでくださって、ありがとうございます。

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