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翳りの果て

作者: Xsara

第1章:輝ける未来

佐藤悠斗は東京大学経済学部を首席で卒業し、国内屈指のコンサルティングファーム「ゼニス」に新卒入社した。入社式の日、悠斗は同期たちを見渡し、内心でほくそ笑んだ。自分こそがこの場で最も優秀な人間だと確信していた。

同期の中でもひときわ目を引く存在がいた。村田彩花、慶應義塾大学出身で「同期の花」と称される美貌の持ち主だ。彼女の周りにはいつも人が集まり、悠斗もその笑顔に心を奪われた。一方、悠斗の視線を冷ややかに受け流す存在もいた。田川和真――地味な容姿、聞いたこともない地方大学の出身。悠斗は内心で人事の判断を疑った。「こんな奴をなぜ採用した?」



第2章:小さな亀裂

入社から数カ月、悠斗は順調にキャリアを積んでいた。クライアントからの信頼も厚く、上司の評価も上々。彩花の前では特に冴えを見せ、田川のような「三流大学出身」とは格が違うと公言してはばからなかった。彩花はそんな悠斗に微笑みつつも、どこか距離を置いているように見えた。

ある日、悠斗は重大なミスを犯した。大手クライアント向けの提案書に致命的な計算ミスを残したまま提出してしまったのだ。クライアントの信頼を失いかねない失態。悠斗は血の気が引く思いでオフィスに戻った。

そこに現れたのが田川だった。彼は悠斗のミスに気づき、クライアントに連絡を入れる前にデータを修正し、追加の分析資料を用意して事態を収束させた。会議室でクライアントが田川のフォローに満足げに頷く姿を見ながら、悠斗は唇を噛んだ。感謝するどころか、田川如きが自分の尻拭いをしたことに屈辱と敵意が湧き上がった。



第3章:見えない差

ミスを挽回すべく、悠斗は仕事に没頭した。徹夜も厭わず、クライアントの要求に応え続けた。しかし、どれだけ努力しても、田川の存在がちらつく。田川は地味ながら、緻密な分析とクライアントとの誠実なコミュニケーションで着実に信頼を勝ち取っていた。あるプロジェクトでは、悠斗の提案が派手さに欠けると却下された一方、田川の堅実な案が採用された。悠斗は苛立ちを隠せなかった。

プライベートでも、悠斗は彩花に積極的にアプローチを続けた。彼女の気を引くため、高級レストランに誘ったり、さりげなく高価なプレゼントを贈ったり。しかし、彩花の態度はどこかよそよそしい。ある夜、意を決して告白した悠斗に、彩花は静かに告げた。「ごめんなさい、悠斗くん。私、田川くんと付き合ってるの」

悠斗は言葉を失った。田川――あの冴えない男が、彩花の心を掴んでいたなんて。帰り道、冷たい雨に打たれながら、悠斗の胸には嫉妬と憎悪が渦巻いた。



第4章:翳りの深淵

それから3年。田川は同期の出世頭として社内で名を馳せていた。プロジェクトリーダーに抜擢され、クライアントからの指名も後を絶たない。一方、悠斗は目立った成果を上げられず、うだつの上がらない社員として扱われるようになっていた。上司の視線は冷たく、同期たちとの距離も広がるばかり。

ある日、悠斗のデスクに一通の封筒が届いた。田川と彩花の結婚披露宴の招待状だった。封筒を開けた瞬間、悠斗の視界が歪んだ。田川の笑顔、彩花の幸せそうな姿が脳裏に浮かび、胸を締め付けた。招待状を握りつぶし、悠斗は呟いた。「こんな屈辱、許せるわけがない」

その夜、悠斗は一人アパートの薄暗い部屋で酒を煽った。田川の成功、彩花との結婚、すべてが悠斗の自尊心を抉った。このままでは一生、田川の影で生きることになる。そんな人生、受け入れられるはずがない。悠斗の目には、昏い決意が宿っていた。

「田川和真……お前をこの世から消してやる」

酒瓶を握りしめたまま、悠斗の呟きは闇に溶けた。



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