女神さま、ぐうたら日和
静かに風が吹き抜ける聖域の庭。
美しい草木が整然と茂り、神聖な噴水が光を反射しながら輝いている。その中心に建つ壮大な神殿。
そこに住まうのは、この地を守る神話級の存在『聖光の女神』リアーナ。
信仰心を集め、奇跡を与える崇高な存在だ。最近は異世界転生などの仕事もしているらしい。
――少なくとも、それが表向きの姿だった
「ふわぁ~……今日もいい天気~……いや、外出るの面倒くさいけどね~」
リアーナは一応女神だが、体形は普通の日本の女子高生と大差ない。髪型や顔つき等のビジュアルがいかにも女神って感じなだけである。
今日もピンクの縞パン一丁姿で靴下も履かず、神殿内の空調の効いた自室、ふかふかのソファにぐったりと体を沈め、片手にポテトチップス、もう片方にはぶどうジュースが入ったマジカルストローを持っていた。
本来、天界神殿の主として信者の祈りに応え、地上の平和を保つべき彼女だが――この数百年、なんやかんやで「長期休暇」に突入中である。
「私って、偉大な女神だし……まぁちょっとくらいサボっても問題ないよね~。みんな勝手に信仰してくれるし……最近は自己責任ってのも流行ってるし」
たんなる、ぐうたらの極みである。
リアーナは相変わらずのピンクの縞パン一丁姿で、ソファに大の字になり、目の前に浮遊させた魔法のスクリーンで、「異世界スイーツレビュー配信」を眺めていた。
画面の中では、エルフが作る「秘伝チーズタルト」のレビューが真剣に行われている。
「え~、そんなに美味しいのかな? 試したいけど……外に出るのもだるいし……あ、転送注文で頼めばいいか!」
リアーナは指をパチンと鳴らし、画面に出てきた「転送ボタン」を軽くタップ。神聖な力でタルトを瞬時に取り寄せるという便利機能をフル活用した。
「うーん、やっぱおうちって最高!」
ポテチを口に放り込むリアーナ。その瞬間――
「リアーナ様、お邪魔します!」
唐突に扉が開いた。
「あぁっ!?」
思わずポテチを吹き出しながら、リアーナは大慌てで起き上がる。しかし、すでに時遅し。そこに立っていたのは、彼女の忠実な従者である聖騎士エディンだった。
「リアーナ様、ずっとお姿を見せないので心配しました。もしかして体調が悪いのでは……」
エディンは神妙な面持ちで近づきつつ、部屋の散らかりように気づいた。
ポテチやごっつ盛りの大人箱買い、ぶどうジュースの空き容器、さらに転送されたばかりのチーズタルトの箱がテーブルに散乱している。
「……あれ?」
そして、目の前にいるリアーナの姿に目を留める。
普段は光り輝くドレスに身を包み、荘厳な雰囲気を漂わせている彼女だが、今日の様子はちがう。
身に着けているのはピンクの縞パンツ一丁、しかもノーブラのラフな姿は形の良いバストをさらしている。
そして――ぽっちゃりしたお腹がピンクの縞パンの上に存在を主張しているのだ。
「ああああっ、リアーナ様、その……お腹……!!」
エディンの声が思わず震える。
「あっ! 突然入って来るなよ、やややっ、みっ、 見るなっ!」
リアーナは顔を真っ赤にしながら、近くにあったクッションでお腹を隠そうとした。
「エディン! これは、違うの! 私はその……今は平和な時代だから、聖なるエネルギーを蓄えてるだけ!」
慌てて言い訳をするリアーナだが、エディンの表情は崩れることなく……むしろ、口元が引きつり始めた。
「ふふっ……ぶははっ! リアーナ様、それは……ふははは! すみません、失礼しますが……そのお腹、まさか女神様の『聖なる蓄え』ですか!?」
「黙れぇっ! これは蓄えじゃない! ただの……休暇の副作用!」
リアーナはクッションを振り回してエディンに投げつけたが、聖騎士の彼は軽々とかわしてしまう。そして笑いをこらえながら、こう続けた。
「リアーナ様、やっぱりお美しいです。でも、そのお腹を見ると可愛さも感じますね……ふふっ」
「だから笑うなぁっ! もう出ていけ!」
真っ赤な顔で怒るリアーナだったが、エディンはくるりと踵を返して部屋を出ていく間際、ひとこと付け加えた。
「ですが、天界の皆には伝えておきますね。『女神様も庶民的な魅力がある』と!」
「言うなぁー!!!」
リアーナの悲鳴が聖域に響き渡るが、エディンの笑顔は止まらなかった。
エピローグ
その日の夜。
リアーナはお腹を撫でながら、ため息をついた。
「明日から、運動するかな……いや、もうちょっとだけ休んでもいいよね……」
結局、その日は「聖なるタルト」を食べながら、もう一日ぐうたらな時間を過ごすのであった。