僕の宇宙船に乗らないでほしい。~怪奇! 観覧車の赤いゴンドラ~
一、
ある遊園地の観覧車には、一つだけ赤色のゴンドラがある。
もし乗ってしまうと、上空に向かうにつれて体が薄くなっていき、地上に戻ってくるときには消えてしまう、という誰が流布したのかわからない怪奇な話が出回っているおかげで、確かめようとする客が増えしまった。
あの赤色のゴンドラは、ゴンドラに擬態した僕の宇宙船なんだ。
だから、勝手に乗らないでほしい。
二、
僕は地球を征服するため調査しにやってきた。そのことを隠しながらこのおんぼろ遊園地で働いている。
「あのぅ、観覧車に乗ってもいいですか?」
振り返ると、カメラを首にさげた若い男女がいた。
「前の方へどうぞ」
「赤いゴンドラに乗りたいんですが」
やっぱりそうきたか。だいたい来る客は赤いゴンドラ目当てだ。
別に、征服する前に地球人を消す必要はないんだけど、僕の宇宙船に乗ってしまったら話は別だ。
赤いゴンドラに乗った彼らを見送ってからしばらく経った。
見上げると、てっぺんまでいっている。
そろそろいいかな。
僕は宇宙船に念を送った。
「Start erase mode. Do it」
三、
赤いゴンドラが地上に戻ってきた。
中はガランとしていて、彼らはいなくなっている。
「観覧車に乗れますか?」
子連れの夫婦に声をかけられた。
母親から三枚チケットを受け取る。
「私、赤いのに乗りたい!」
女の子が母親にねだっていた。
「実はそのゴンドラ、メンテナンス中で乗れないんだぁ」
「いやだぁ! いやだぁ!」
「実はね、これ僕の宇宙船なんだ」
「うそだぁー」
「ほんとだよ。特別に、お嬢ちゃんには後で宇宙船を見せてあげる」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
女の子は納得してくれたようで、他のゴンドラに乗っていった。
四、
頭がくすぐったい。ボスからの連絡だ。
僕はテレパシーに集中した。
「調査終了だ。そっちはどうだ」
「ええ、順調です」
「やれそうか?」
「ええ、半日もあればできすよ。地球人の科学技術を見れば、我々の足元にも及びません」
「三日後、例の時間で行う。わかったな」
「わかりました」
五、
「お兄さんありがとう! 楽しかった!」
ゴンドラから下ろすと、女の子は興奮しながら両親と手をつなぎ行ってしまった。
まずは、あの女の子との約束を守らなくちゃね。
僕の宇宙船を見たらびっくりするだろうなぁ。それより、僕の本当の姿にびっくりするかなぁ。
その驚きから次は征服されるという恐怖へと変わるんだから、本当にご苦労なことだ。