第4話
馬車ということもあり、ミナノの町にはその日の夜に到着することが出来た。
ミナノは鬱蒼とした森を抜けた先にある町だ。なんでもその森にはかつてこの世界を作った神が降り立ち、休息を取ったといわれる伝説の湖があるのだそうだ。
興味が惹かれる話だったが、既に日が暮れている中だったのでそんな好奇心はそっと胸にしまっておいた。
町の入り口についた辺りで、俺は男達に礼を言って馬車を降り、
「もう悪いことするなよ」
と告げた。
「ええ。腹が減ってたとは言え、あんな馬鹿な真似は二度としません。しばらくはこの町で真っ当な仕事を探してみようと思います」
男達と別れ俺も夜のミナノの町へと歩みだした。ほー流石は異世界。中世ヨーロッパ風味の街並みって感じだ。まあ、実際に中世ヨーロッパがどんなもんだったかなんて知らないけど、何となくイメージでそう感じた。
さて、腹も減ってることだしどこへ行こうかと思ってたところで頭の上に違和感が一つ。
「なあ、お前はいつまで付いてくるつもりなんだ?」
「つれないことを言わないで欲しいなあ。キミはボクの命の恩人だろ? 恩返しもしていないのに解散なんてできるはずないじゃないか」
頭上から降りかかる声の主は、さっき助けた例の妖精の子だ。器用に俺の頭の上でうつぶせになりバランスをとっている。
「お礼なんて必要ない。それに、えーっと……」
「ボクの名前はサーニャ。サーニャ・パンヤって言うんだ」
よろしく、と答え俺も御堂エニシと自己紹介をする。
「サーニャは今日ひどい目に遭わされてただろ? いまは恩とか気にせず、大人しく家に帰って休んだ方が良い」
「エニシ君ってば優しいんだね。でも、無理なんだよね」
「無理って? まさか帰る家がないなんて話はないだろ?」
軽口のつもりでそう答えたが、「正解」という言葉が返ってくる。え、どういうわけ?
「いやぁ、今日町の外に居た事と関係があるんだけど。昨日ボクのお家、雷があたってさ、それで火事になっちゃってさ……」
「火事? そいつはまた大変だな」
「うん。それで今は家を建て直せる人がこの町に居なくってさ。隣町にまで探しに行ったんだけど、しばらくは予約が一杯だって断られちゃったんだよね……ほら、あそこがボクの家だよ。今はもう『元』だけど」
サーニャの指さした方向を向くと、確かに焼け落ちてしまった一軒家があった。不幸中の幸いなのは隣家に飛び火などはしていない点か。
「ますます俺への恩返しどころじゃないな。行く当てはあるのか?」
「このままだと野宿とかになるかなぁ。ボク、この町に住んでまだ日が短いから泊めてもらえるような友達もいないし」
「運が悪いな」
出来る事なら助けてやりたいものだが、俺はレベル999の能力と大家という肩書しかもってないしな。いくら大家だからって家を建てる事なんてできるはずないし──
『職業:大家(ランク1)のユニークスキルを使用いたしますか?』
「うお、今度はなんだ!?」
「ど、どうしたんだい」
俺の目の前のそんな文字が現れる。頭の上のサーニャが不思議そうな顔をしているところを見ると、このウィンドウが見えているのは俺だけのようだ。
ユニークスキルってどんなことが出来るんだ?
『この世界に一つだけのアパートを建てることが出来ます。アパートは住民の人数、住民の満足度、築年数、周囲の人々からの評判、などでスキルのランクがアップしていきます。ランクアップすると建物の設備が充実するなどの恩恵を得ることが出来ます』
つまり住民や町の人にイイ感じ愛されたらイイ感じのアパートに進化していくって訳だな。他にはどんな要素があるんだ。
『現状のランク1では一軒しか建てることができません。建築可能数はランクアップをするごとに増えていきます。基本的にアパートは自己再生能力を有してますが、ランクアップすることで建物の強度そのものがあがり、壊れにくくなります。他にも──』
「エニシ君? 急に黙っちゃって大丈夫かい?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
いかん思わず熟読してしまった。細かい解説は後で見ることにしよう。
俺はウィンドウを消し、必要な事だけサーニャに伝えることにした。
「サーニャ。もしかすると俺は、お前のために新しい家を建ててあげられるかも知れない」