第2話
「レベル999とか……生意気だな。もう一回ステータス振り直すか」
なんてことを言い始めた女神をどうにか説得し、今のまま異世界転移させてくれるようになった。やったぜ。
「ちなみに『メテオフォール』『デスリカン』っていうのはどんな効果があるんだ?」
「『メテオフォール』は隕石を落下させるスキルだな。ムカつくやつを町ごとぶっ潰せるぞ。『デスリカン』は対象に向けて唱えることで、どんな生き物だろうと即死させられるスキルだ」
「物騒だな! 削除しといてくれそんなスキル!」
「いらないのか? これからオマエが行くのは、前の世界とは比べ物になんねーほど治安が悪いぞ。盗賊や危険なモンスターもいるってのに」
「だからって、人を簡単に殺せるような力を持つのは怖いよ」
「まーそこまで言うんだったら構わないが。……ほら、今話した二つのスキルは削除しといってやったぞ」
ありがとう。と俺が答えたところで、女神は最初の行き先をこちらに示した。
「そうだな、最初はミナノって町に行くと良い。少し歩くことにはなるだろうが。食料は持たせてやるから、あと服もこっちの村人Aっぽいものにしといてやるから」
「あの、お金とかは」
「ほう生意気だな、全裸で街中に送ってほしいか?」
「ありがとうございます神様仏様~」
それで良い。と女神は満足気だ。悪魔のような顔をたまに見せるが。
「ま、せいぜい気楽に暮らすんだな。そうだ、助けて欲しいことがあったらこの笛を吹け。気が向いたら助けてやるからよ」
言いながら女神が渡してきたのは、木でできた簡素な作りの笛だった。どことなく気品があるそれは、首に巻くための紐が付いている。
「アタシも暇じゃないからな。ふざけた理由で呼んだりしたら殺すぞ」
助けを呼ぶどころか命の危険がある笛だった。とりあえず俺はそれを首から下げる。
「心配しなくても、めったな事じゃ吹かないって。だって俺は人助けをする側だからな」
「……ふっ。それもそうだな、最後に、なんか質問あるか?」
「一つだけ」
女神の問いに俺はさっきから気になっていたあることについて尋ねる。
「世界をイイ感じにするって言ったって、何かしらの指標が無きゃ上手くいってるかどうかも分からないだろ。幸福度を測るメーターとかってあったりしないのか?」
「あ。伝えるの忘れてた。そんな質問もあるかと思って用意しといたんだった、偉いだろ?」
用意したものを忘れてるんだから、全然偉くないと思ったが、それを言うと大変なことになりそうだったので黙った。
「目を閉じて祈れ。そうすれば現在の幸福度とアタシが望む幸福度が空間に投影されるからさ」
早速やってみる。
『現在の全世界幸福度::67000』
『目標幸福度:100000』
これがその数値ってやつか。見せてもらったは良いが、残りの点数を稼ぐのかどれだけ難しいのかは全然わからないな。
まあ、しばらく異世界で過ごす内に分かってくるだろう。
「ほーら。もうここに用はねえだろう? だったらさっさと行っちまいな」
女神の言葉に対し、俺が反論する間もなくとこからか大きな時計の鐘が鳴り響いた。その音を聞いている内に視界が段々とぼやけていき、
「だからこそ××は──」
彼女の言葉も聞き終わらないうちに、俺は意識を失った。
●
「うおおおおおおおおおおお! 何もない道を歩くのって怖ええええええええ!」
はい、という事でやってきました異世界。彼女が言うにはダイタニア大陸という場所らしい。現在地はのどかな田舎道。一面草がボーボーである。一応、人の行き来があるようなので地ならしをされた土道をどんどんと歩いてるのが今だ。
上を見れば青い空、白い雲。前を向いても後ろを向いても地の果てまで続くような田舎道。これがハイキングだったら「わあ、田舎って空気が美味しい☆」とのんきに思えるが、スマホも地図もない上、看板もない道を歩くのは正直かなり不安だ。
「放置プレイはやめてくれよ……食料はあるけど本当に足りるのかも分かんねえしさ」
愚痴っても仕方がないので歩き続けると、道の真ん中に行商人らしき馬車が止まっているのが見えた。人だ、人に会えるぞ! と、駆け寄ろうとしたところで、
「離してよ~~~~このっこのっ!」
甲高い女の子の声が響いた。馬車の前には五人くらいの男たちが集まっていて、その内一人の手には小さな人形が握られていた。
「いたたっ! 髪を引っ張んないでおくれよ、小さくたってボクは女の子だぞ!」
「もちろん分かってるさあ。そんで妖精族の女は高く売れるってことも充分わかってるんだあ」
「キミ達は商人だろう!? どうしてこんな酷い事するのさっ!」
「この前の大雨で商品が全部ダメになっちまったからだあ! 代わりにお前を売って金に変えてやる!」
さきほどは人形かと思ったそれは、羽を生やした少女だった。妖精族とも言っていたし間違いがないだろう。そしてこの状況は。
「典型的な人攫いの現場だな……」
「ああ! そこのキミ! 助けて欲しいんだ! 出来るだけ沢山の人を呼んでおくれよ!」
「沢山の人だってえ? どこにそんなやつらがいるって言うんだあ? こんな何も無い道端でよお」
おい兄ちゃん。と男たちの視線が俺に向く。
「五対一だあ。ケガしたくなきゃ見なかったことにして立ち去りな。なあに、元々少数民族の妖精族だ。お前が見捨てなくても絶滅の運命は変わんねえって」
リーダー格らしい男から、そう提案される。悲しいかな俺はケンカなんてほとんどしたことがないので、このまま戦ったとしても勝てる見込みは全然ないのだが、
「それは出来ない相談だな。人を助けろ、そう両親に教えられてるんだ」
率直に俺はそう答えた。勝てる勝てないの計算をするのは無駄だ。相手を助けたいと思う気持ちに素直に従うしかない。
「そこの妖精……で良いんだよな? 助けて欲しいと俺に言ったよな。良いぜ、頼まれなくたって助けてやる」
「……言うじゃねえか兄ちゃん。安心しなあ、運がよけりゃ死なずに済むぜえ」
男たちがナイフやら棍棒やらの武器を取り出していく。その内、リーダー格の男が仲間四人に鋭く指示を飛ばす。
しかし、ああは言ったものの現実として俺一人でこの数の人間を相手できるものなのか。武器も持ってるし。
そういえばさっき見た俺のスキル一覧の中に『鑑定』とかってスキルがあったな、あれを使えたりしないか──なんてことを考えてると目の前にウィンドウが姿を現す。
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名前:ジュミューラ・ドード
年齢:47歳
レベル:7
種族:人間族
職業:商人
体力:30 魔力:10 筋力:40 素早さ:20 防御:25 知力:30 ゴツさ:100
スキル
鑑定
開錠
目利き
ユニークスキル
特になし
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おお、これがリーダー格の男のステータスか。見たところレベル999の俺なら問題なく対処できるような相手っぽいので一安心だ。