異世界初日とヒトの味
僕はある罪を犯して捕まり、そして殺された。
僕は食べるのが好きだ。牛や豚に始まり、熊やトカゲなど思いつく限りのものは口にしたはずだ。
だが、この渇きが潤うことはなかった。
「人が食べたい」
そう思ったのは、大学生になった後だったか、それより前だったのか今となってはわからないが随分昔からその気持ちは持っていた気がする。
転機は急にやってきた。
襲われてた女性を助けた私は、その拍子に襲ってきた相手を殺してしまった。
仕方なく家に持ち帰った私は、その今は肉塊となった、人の形にしたそれを食べた。
ネットなどでは鶏肉の味と評されるその肉
は鶏肉などとは比べられないほど甘く肉肉しかった。
「美味しい」
と、一人誰もいない部屋に呟いて、また肉にナイフを入れる。気づいた頃には1kgあったであろう切り分けた肉塊は無くなっていた。
それから数日が経った頃だろうか。マンション内の異臭を住民が通報し、僕はお縄についた。
数ヶ月から数年間、精進料理のような質素な食事を食べ、今執行台の上にいる。
「最後に言い残す言葉はないか」
刑務官は僕にそう問いかける。
僕は少し間を取って
「最後にもう一度あの味を食べたかった」
と呟く。
その直後、ガコン!
という音と共に床が抜け僕の視界は真っ白に変わっていった。
そして目が覚めると異世界にいた。
目の前には豪華な服着た初老の男性がおり、とち狂ったことを言い始めた。
「ここは君のいる世界と異なる世界、異世界である。急な話で驚かなも無理はないが落ち着いて聞いてほしい。」
そこから数十分間信じられないような話が続いた。
・自分が噴水の近くに倒れていたこと。
・目の前にいるお爺さんがこの国の王であること
・この国には危険な生き物が生息していること
・異世界の者には特別な力が備わる可能性があること
話が終わるタイミングをみて、気になった質問をしてみた。
「なぜ王が自らこんな説明をしているんですか」
王は少し神妙な顔で
「この世界には君のように異世界から来る人達が少なくない。この世界に来る原因となった事象は民に不安を与えぬよう一部の王達にしか知られないようになっている。最後に説明しようと思ったったんじゃが、この世界には例外的な強さを持ったバケモノが存在する。その強い力によって一部の魂はこの世界に引き寄せられてしまう。この世界から元の世界に戻るにはそのバケモノを倒すことだ。そうすれば神が現れ正しい魂の居場所に戻してくれるだろう。」
といった。
王は最後に
「冒険に出るならば1ヶ月の路銀と鋼の剣、其方の力を見てやろう。もし我が街で暮らすのなら職業を与えてやる。」
といったが、間髪入れずに私は
「旅に出る」
といった。日本にはない魔物という肉への興味には、命の危険など些事にも満たないことだ。
こうして私の魔物討伐のいや、美食巡りの旅は始まった。