エピローグ
「いやあ、凄く面白かったね。特にクライマックスの戦闘シーンは圧巻だったよ」
劇場から出るなり、アタシの孫のヨシュアが、少年みたいに目を輝かせながら拳を握った。
まったく、男ってのは、いくつになってもああいうのが好きなんだね。
「私はやっぱりルギウスおじ様が、マリィおば様にプロポーズしたシーンが最の高でした! もう危うくキュン死するところでした……!」
ヨシュアの婚約者のクリスは、両手を頬に当てながらウットリしている。
フフ、ヨシュアに比べて、クリスはいかにも女の子の感想だね。
「それにしても、あのマリィ役の女優さんは、若い頃のマリィにそっくりだったな。特に口調なんかまんまだったよ。余程念入りに稽古したんだろうな」
ルギウスが顎に手を当てて、口角を上げながらうんうんと深く頷く。
ケッ、どうせアタシは昔から口が悪いよ。
――今日はこの四人で、アタシとルギウスの若い頃をモデルにした舞台、『【断滅の魔女】と【金色の奸雄】』を観に来ていた。
まさか50年も前のことを今更舞台化されるとは夢にも思ってなかったんで、最初に舞台化の許可取りがきた時は断ろうかと思ったんだが、国王であるジョンに直々に頭を下げられちゃ、流石に無下にはできなかった。
アタシらも、ジョンにはいろいろと世話になってるからねぇ。
まあ、舞台自体の出来はよかったし、余興としちゃ楽しめたけどね。
……ただ。
「開演時間が中途半端だったから、昼飯ちゃんと食えてなくて、小腹が空いたね」
上演中に腹の虫が鳴りそうで、冷や冷やしたよ。
「フフ、そう言うだろうと思って、こんなものを用意してきたぞ」
「っ!」
ルギウスがバスケットの中から、分厚い食パンで作られたたまごサンドを差し出してきた。
おおッ!
「相変わらず気が利くじゃないかルギウス」
アタシはルギウスからたまごサンドを分捕り、がぶりと齧りつく。
その瞬間、濃厚でクリーミーなたまごの具が口いっぱいに広がり、全身が多幸感で包まれた。
うん、やっぱルギウスの作ったたまごサンドが、一番美味いねぇ。
「フフフ」
「?」
ルギウスがニヤニヤしながらアタシを見ている。
「な、何だよ、気持ち悪いね」
「いや、今日もマリィは可愛いと思ってな」
「――なっ!?」
い、いい年したババァに向かって、可愛いとか言うんじゃないよッ!
「きゃあ~~、真っ赤になってるマリィおば様、ギャン萌えですぅ~~」
「うんうん、やっぱりおばあ様は、萌えキャラですよね」
クリス、ヨシュア!!
いい加減にしないと怒るよッ!
ご高覧ありがとうございました。
本作は『おばあちゃん無双』シリーズの主人公、マリィ・ハートゴウル(66)の若い頃を描いた前日譚になります。
よろしければ『おばあちゃん無双』シリーズの一覧から、マリィの老後の活躍もご高覧ください。
また、拙作、『塩対応の結婚相手の本音らしきものを、従者さんがスケッチブックで暴露してきます』が、一迅社アイリス編集部様主催の「アイリスIF2大賞」で審査員特別賞を受賞いたしました。
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