第23魔:閉幕
「うっ!」
「マリィ!?」
地面に下りた途端、身体が燃えるように熱くなった。
見れば、アタシの身体から羽や角や牙が引っ込み、視界に掛かっていた血のような深紅のフィルターも消えた。
「……元に戻ったんだね、マリィ」
「ああ、そうみてーだな」
魔族としての力が、完全にアタシの身体から抜けたってことなんだろう。
……とはいえ、皮肉なことだが、さっきのでより魔力の深淵に近付けた気はする。
これでアタシはまた一つ、魔術師としての階段を上れるかもしれねーな。
「姐御おおおお!!! ルギウス様ああああ!!!」
「様ああああ!!!」
おっ、名脇役の二人も、カーテンコールに駆けつけてくれたじゃねーか。
ん? でも待てよ?
誰か一人忘れてるような……。
「マリィさぁん! ルギウスさぁん!」
「「「――!」」」
その時だった。
無人の馬車を駆る御者が、アタシたちの前に現れた。
そうだ!
コイツを忘れてた!
ボンクラ王子たちを乗せてた馬車の御者だ!
いつの間にか馬車ごと消えてたから、すっかり意識から抜け落ちてたぜ。
「どこ行ってたんだよアンタ」
「いやー、マリィさんが【酷屍夢想】にお腹を刺された辺りから雲行きが怪しくなってきたんで、念のため馬車で遠くまで避難していたんです」
「……へぇ」
そういえばあの辺から、馬車を見なくなった気がすんな。
「あ、申し遅れました。僕はつい最近ウォーレン殿下の秘書になったジョンといいます。まあ、そのお仕えするウォーレン殿下も、あんなことになってしまったわけですが……」
はー、秘書だったのかよ。
秘書なのに御者までやらされてたなんて、ホントあのボンクラ王子は最後までボンクラだったな。
むしろジョンのその類稀な危機察知能力、ボンクラ王子なんかよりよっぽど王太子に向いてるとアタシは思うぜ?
「このたびの第一分隊のみなさんの尊い犠牲に、心よりお悔やみ申し上げます。せめて僕も、ご遺体を集めるのをお手伝いさせていただきますね」
「あっ、俺も手伝うぜ! コイツらは永遠に、俺たちの仲間だもんげ!」
「もんげ!」
もんげ?
「ああ、じゃあアタシも手伝うよ」
「いえ、マリィさんとルギウスさんには大事なお仕事が残ってるじゃありませんか」
「え?」
ジョンはニッコリと微笑んだ。
「カーテンコールの最中だったんでしょ? 最後はやっぱり、ヒロインとヒーローの二人で締めませんとね」
ジョンはパチリとウィンクを投げ、舎弟二人と共に捌けて行った。
オイオイ、最後の最後に出て来て、オイシイところだけ攫っていきやがって。
「フフ、では観客のみなさんに、一緒に礼をしようか、ヒロイン様」
ルギウスはアタシの右手を、左手でギュッと掴んできた。
「ああ、そうだな、ヒーロー様。ところでヒーロー様、もしもこの舞台にタイトルをつけるとしたら、何がいいと思う?」
「フフ、それは決まってるじゃないか。君と俺が主役なんだから、当然『【断滅の魔女】と【金色の奸雄】』だよ」
「ハハ」
そりゃそうか。
ヒロインとヒーローは、観客がいるであろう、前方をじっと見据える。
「ここまで観てくれて本当にありがとな。また次の舞台で会おうぜ!」
「本日はご来場いただき、誠にありがとうございました。ロビーに物販等もご用意しておりますので、もしよろしければそちらもご購入ください」
いや、いつの間にそんなモン用意してたんだよッ!
閉幕




