第21魔:堕落
「ウェッフェッフェッ、これで幕引きだよぉ!」
「クッ!」
【惰輾屍】の右側の三本の腕が拳を作り、アタシたちに振り下ろされる。
「あ、姐御おおおお!!!! 俺まだ死にたくねえっすううう!!!!」
「っすううう!!!!」
そりゃアタシもだよ!
まあでも、任せとけよ。
可愛い舎弟を守るため、姐御が一肌脱いでやるからよ!
「ハアアアッ!!」
アタシは背中の羽を羽ばたかせて宙に浮かび、そのまま三本の腕に突貫した。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!」
そしてその腕に嵐のような拳のラッシュをお見舞いした。
三本の腕は木端微塵に吹き飛んだ――。
よし、やっぱ身体能力も飛躍的に上がってるな。
「さすが姐御! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!」
「るゥ!」
へっ、ざっとこんなもんよ。
「ウェッフェッフェッ、甘いねぇ。聖女と【無限の魔女】の力があれば、この程度、ほらぁ」
「「「――!!」」」
破壊した右腕から無数の歩屍が生えてきて、あっという間に元の三本の腕の形に戻った。
チッ、こりゃキリがねぇな。
「今度はこっちの番だよぉ!」
「なっ!?」
今度は左側の三本の腕の手のひらをこちらにかざすと、手のひらに大きな穴が開き、そこから三つのドス黒い光線が放たれた。
あ、あれは――!?
「チィッ!」
間一髪アタシはそれを躱す。
――が、
「あ、ああああああああああ――!!」
「「「――!!!」」」
そのうちの一つが第一分隊の隊員の一人に直撃し、その男の全身は鎧ごと一瞬で腐蝕し、グズグズに崩れ落ちてしまった……。
やっぱりか……!!
これはあの時アブソリュートヘルフレイムドラゴンが放ってきた腐蝕ブレスと同じモンだ――!
「ウェッフェッフェッ、よく避けたねぇ。だが、これならどうかなぁ?」
【惰輾屍】はその三対の翼でブワリと上空に浮き上がり、そこから左右の六本の腕で、縦横無尽に腐蝕ブレスを放ってきやがった。
クソがッ!!
「あ、ああああああああああ――!!」
「お、おおおおおおおおおお――!!」
「ウ、ウボァアアアアアアア――!!」
アタシは何とかそれらを躱したが、他の隊員たちはそれらをモロに受けてしまい、次々に殉職していく……。
この醜悪ババァが、フザけやがって――!!
「あ、姐御おおおおおお!!!!」
「御おおおおおお!!!!」
「――!!」
ジャイアスとスネイルにも腐蝕ブレスが襲い掛かる――。
チィッ、ここからじゃ間に合わねぇ!
「先輩!」
「「っ!?」」
その時だった。
アブソリュートヘルフレイムドラゴンがアタシに腐蝕ブレスを放った時と同じく、ルギウスが身を挺してジャイアスとスネイルを守った。
ナイスルギウスッ!
お前の金色の鎧なら、腐蝕ブレスが効かないことは実証済みだもんな!
「ウェッフェッフェッ、甘いねぇ、甘すぎるねぇ」
「「「――!!」」」
が、次の瞬間、ルギウスの鎧は腐蝕し、グズグズに崩れ落て半裸の状態になってしまった。
んなぁッ!?
「こ、これは――!」
「ウェッフェッフェッ、ワタシの【堕落への黒い誘惑】をアブソリュートヘルフレイムドラゴンなんかの紛い物と一緒にするんじゃないよぉ。ワタシの【堕落への黒い誘惑】に壊せないものなんか、この世に存在しないのさぁ。まあ、【金色の奸雄】くんは後で歩屍にしてあげなきゃいけないからねぇ。壊すのは鎧だけで勘弁してあげるよぉ。いやぁ、それにしても、細マッチョで、大層美味しそうな身体をしてるねぇ、ウェッフェッフェッ!」
オイ色ボケババァ!!
人の彼氏の身体を見て欲情してんじゃねぇッ!!
断滅するぞッ!!!
――だが、【堕落への黒い誘惑】が途切れた今がチャンスだ。
アタシはルギウスとジャイアスとスネイルのところまで全力で飛び、三人を抱えて【堕落への黒い誘惑】の射程外と思われる場所まで逃げて三人を下ろした。
「あ、ありがとうございやす、姐御!」
「やす、姐御!」
「助かったよマリィ。……でも、残ったのは俺たちだけみたいだね」
「……ああ、そうだな」
見れば、アタシたち四人以外の隊員たちは、一人残らず無残な姿に変わり果てていた――。
……クソが。
「あの色ボケババァのことはアタシが断滅る。お前らはここで待っててくれ」
「いや、俺のことは連れて行ってくれ、マリィ」
「っ!」
ルギウス!?
「こんな俺だけど、絶対君の役に立ってみせる。――俺を信じてくれ、マリィ」
「……」
確かな覚悟の宿った真摯な瞳(そのうえ半裸)でそんなことを言われちゃ、もうアタシに拒む理由はなかった。
「へっ、わーったよ。か弱いプリンスのことはアタシが守ってやるから、安心しな」
「フフ、心強いよ」
アタシは左腕だけでルギウス(半裸)を横抱きにし、色ボケババァのいる上空へと飛び上がった。
「さあ、決着をつけようぜ色ボケババァ!」
「ウェッフェッフェッ、望むところだよぉ、泥棒猫さぁん」
いや、泥棒猫はお前のほうだっつーの!!




