第19魔:再会
「ルギウス……ッ!!」
どれだけ抵抗しようとしても、アタシの右手の手刀はルギウスから狙いを外すことはできない。
「ウェッフェッフェッ、安心しなぁ。【金色の奸雄】くんは、歩屍にしてワタシが永遠に愛でてあげるからねぇ。ワタシと【金色の奸雄】くんが目の前で睦み合う様を、毎晩アンタにも見せてあげるよぉ」
フザけんなッ!!
アタシにそんなNTR属性はねぇッ!!
「……マリィ、俺は君にだったら、断滅されても構わないよ」
「――!!」
ルギウスは諦観の籠った顔で、アタシに微笑みかけた。
そ、そんな……!
嫌だ……!!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!!
この8年で初めて、復讐以外でこんなに心がいっぱいになったんだ……!
もうアタシの人生は、ルギウスなしじゃ成り立たなくなってんだ……!
それなのに、当の本人がそんな簡単に諦めるなよ……ッ!!
「……なんて、俺が言うとでも思ったかい?」
「…………え?」
ル、ルギウス……?
「――愛してるよ、マリィ」
「――んぶ!?」
「「「――!!」」」
その時だった。
ルギウスに強い力で抱きしめられ、アタシの唇が、ルギウスの唇で塞がれた――。
フオッ!?!?
「んー! んー!」
アタシがどれだけもがいても、ルギウスはその甘い口づけを一切やめる素振りすらなく、より抱く力を強めるばかり……。
あ、あぁ……。
なんだこれ……。
これがキス……。
多幸感が全身を駆け巡って、頭がボーッとしてくる……。
「フ、フザけんじゃないよおおおおお!!!! ワタシにそんなNTR属性はないんだよぉッ!!!!」
醜悪ババァはボンクラ王子を思い切りビンタした。
「ありがとうございます、【酷屍夢想】様!」
オイオイ、いつもの「ウェッフェッフェッ」はどうしたんだよ?
遂に余裕がなくなってきやがったな。
「……ふぅ。どうだいマリィ、俺の愛は、感じてもらえたかな?」
アタシの唇から顔を離したルギウスは、艶っぽい笑みを浮かべながらそう訊いてくる。
若干の名残惜しさはあるものの、まあ、残りは後でタップリすりゃいいか。
「ああ、まあ及第点ってところかな」
「フフ、じゃあいつか満点がもらえるように、今後も頑張るよ」
色気に溢れた腹黒い笑顔で言われると、少しだけ背筋がゾクゾクした。
あっ、ヤッベ、こりゃ余計なこと言ったかも。
「でも、その前に仕事を果たさなきゃね」
「ああ、そうだな」
「野郎ども、ここが正念場だ! 気合い入れやがれよぉ!」
「やがれよぉ!」
「「「オーッ!!!」」」
アタシとルギウス――それと第一分隊のみんなは、一丸となって醜悪ババァと対峙した。
既にアタシの身体はすっかり自由を取り戻していた。
全身から毒素が蒸発したみたいにスッキリしている。
これが愛の力ってやつかね。
その割には身体は魔族っぽいままだが、醜悪ババァの魔力が抜けて、力だけが残った分には、まあ儲けもんか。
「……ウェッフェッフェッ、まさかワタシの呪縛を解くとはねぇ。こんなこと、数百年生きてきて初めてのことだよぉ」
「へっ、そうかよ。――つまりテメェの命運も、遂に尽きたってワケだ。ありがたく思えよ醜悪ババァ。これ以上ババァの醜態を世間に晒さないように、アタシがテメェの三文芝居に幕を引いてやるからな」
テメェが与えた力で断滅されるってのも、喜劇としちゃなかなか上出来なシナリオじゃねーか。
「ウェッフェッフェッ、まだまだ青いねぇ。もう勝った気でいるとはねぇ。――本物の強者というのは、最後まで切り札を隠し持っておくものさぁ」
醜悪ババァがパチンと指を鳴らすと、腹に穴の開いた総白髪のばあさんが這い出て来た。
こ、この人は――!!
「……こんな形での再会になっちまって、本当にゴメンよマリィ」
「……し、師匠」
それはアタシの育ての親でもある、師匠だった――。




