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第18魔:醜悪

「ウェッフェッフェッ、流石は【金色(こんじき)の奸雄】だねぇ。この数百年で、ワタシの正体に辿り着いたのは、アンタが初めてだよぉ」


 【酷屍夢想(デッドチート)】の背中から、コウモリのような羽が出現した。

 頭にも歪な二本の角が生え、犬歯は鋭く伸び、獣の牙のように。

 そして、瞳の色は血のような深紅に染まった――。

 ……クソッ、マジでコイツが本物の【酷屍夢想(デッドチート)】だったのか――!

 アタシはずっと不倶戴天の仇と一緒にいたってのに、今の今までそれに気付かなかった――!!

 こんなに自分が情けねぇと思ったことはない――!


「あ……ああ……あ……、【酷屍夢想(デッドチート)】様……、この僕をあなた様の下僕にしていただき……身に余る光栄でござい……ます」

「「「――!!」」」


 腹に風穴が開いたボンクラ王子が、虚ろな瞳でそう呟く。

 ……チッ。


「何百年もそうやって、一人で腹話術で遊んでたのかよ醜悪ババァ。……まったく、痛々しくて見てらんねーぜ」

「ウェッフェッフェッ、負け犬の遠吠えは、何万回聞いても心地いいものだよねぇ。お前もそう思うだろぉ、アンガス?」

「はい、【酷屍夢想(デッドチート)】様。あなた様こそが、この世界の神となられるべきお方でございます」


 宰相のオッサンが上着をはだけると、オッサンの腹にもボンクラ王子と同じ穴が開いていた。

 クッ、オッサンも歩屍(ゾンビ)にされてたのか……!


「そうか、さっきマリィが影武者に、ファイリー山脈では手を出してこなかったのに、何故今回は仕掛けてきたのか訊いていたが、それはいよいよマリィが邪魔になったからだな?」

「ウェッフェッフェッ、その通りさぁ。本当はもう少し遊んでやるつもりだったんだけどねぇ。国王も皇帝も、どいつもこいつもマリィマリィって、バカの一つ覚えみたいに繰り返しやがってぇッ!! こんな小娘よりアタシのほうが偉大だって、わからせてやるしかないって思ったのさぁッ!!」


 急に激高した醜悪ババァは、ボンクラ王子の顔面に思い切りビンタをかました。

 うわぁ、ババァのヒステリーって怖ッ。


「ありがとうございます、【酷屍夢想(デッドチート)】様!」

「ウェッフェッフェッ、お前も歩屍(ゾンビ)になったら大分可愛くなったよぉ、ウォーレン」


 醜悪ババァは自分がビンタしたボンクラ王子の頬を、優しく撫でる。

 そういえばボンクラ王子の名前はウォーレンだったな。

 最近ボンクラ王子としか呼んでなかったから、名前忘れてたわ。


「……へへっ、だが残念だったな醜悪ババァ。アタシはまだこの通り生きてる。お前を断滅するのに、十分な力は残ってるぜ……!」


 今のは半分ハッタリだ。

 【番神が描く天弓(ディスケ・ガウデーレ)】を使ったせいで、既に魔力は半分も残っちゃいない。

 つまりもう、切り札の【番神が描く天弓(ディスケ・ガウデーレ)】は撃てない……。

 そのうえ腹の傷も大分深い……。

 だがそんなことは知ったことか!

 アタシはコイツを断滅するためだけに、今まで生きてきたんだ……!

 【断滅の魔女】として、たとえ刺し違えてでも、コイツだけは断滅してみせる――。


「ウェッフェッフェッ、何もわかってないねぇお嬢さん。ワタシはワザと、お嬢さんのことは殺さなかったんだよぉ?」

「――!?」


 何……だと……!?


「ワタシの新しい影武者にするためにねぇ!」

「――!!」


 か、影武者……!?


「……ぐっ、ああああああ!!!!」

「マリィッ!!」


 その時だった。

 醜悪ババァがパチンと指を鳴らすと、アタシの全身が燃えるように熱くなった。

 こ、これは……醜悪ババァの魔力に、アタシの身体が侵蝕されてる……!?


「クアアアアアアアアアアア!!!!」

「マリィ、マリィッ!!!」

「あ、姐御ッ!!」

「御ッ!!」


 アタシの背中にコウモリのような羽が出現した。

 頭にも歪な二本の角が生え、犬歯は鋭く伸び、獣の牙のように。

 そして、目に映る景色には、血のような深紅のフィルターがかかった――。

 いつの間にか腹の傷も綺麗に塞がっている。

 こ、これは――!?


「ウェッフェッフェッ、これで新しい影武者の完成さぁ。アンタにだけは、特別にワタシの魔力を存分に注いでやったぁ。殺した後じゃ、ここまで身体を造り変えることはできないからねぇ。ありがたく思いなよぉ? これでアンタは、今までとは比べ物にならないくらいの力を得たんだぁ。今後はアンタが表向きは【酷屍夢想(デッドチート)】として、歴史に名を残すことになるんだよぉ。光栄だろぉ」


 クッ、胸糞ワリィが、確かにかつてないほどの力が溢れてきやがる……!


「ウェッフェッフェッ、かれこれ100年以上使ってガタがきてたから、ちょうどいい影武者の替えが出来て助かったよぉ。――思い出すねぇ、120年前のあの日をさぁ」

「「「――!!」」」


 醜悪ババァがパチンと指を鳴らすと、醜悪ババァとまったく同じ聖女の衣装に身を包んだ、腹に穴の開いた大層美しい女が這い出て来た。

 ま、まさか、この女は――!


「ウェッフェッフェッ、紹介しよう、この子が120年前の聖女、メルアさぁ」


 メルアってのは、120年前の聖女の名前だったのか……。


「さっきお嬢さんが殺したあの影武者はねぇ――メルアの恋人だった男なのさぁ!」


 ――なっ!?

 それって……。


「ウェッフェッフェッ、今思い出すだけでもゾクゾクするよぉ! 目の前で愛する女が腹を貫かれている様を見た、あの男の絶望にまみれた顔はねぇッ!!」


 急にテンションがマックスになった醜悪ババァは、ボンクラ王子の顔面をまたビンタした。


「ありがとうございます、【酷屍夢想(デッドチート)】様!」


 オイ、シリアスなシーンなんだから、いちいちくだらねーギャグを挟むんじゃねぇ!


「その後あの男は10年かけて魔術の腕を磨き、【殲滅の魔術師】と呼ばれるまでに成長したぁ。そこで満を持してさっきのお嬢さんと同じように、10年前と変わらない姿のかつての恋人を目の前に立たせ、動揺してるところにアタシの魔力を注ぎ込んで、影武者として造り変えたってわけさぁ」


 ……チッ、ハッキリわかったぜ。

 こいつは史上最悪のクソだ――。


「……なるほど、そうやって大切な人間の命を目の前で奪うことによって敢えて恨みを買い、復讐心を糧に成長したところを刈り取って、影武者に仕立て上げるということを何百年も繰り返してきたわけか。【酷屍夢想(デッドチート)】の正体が長年闇に包まれていた理由が、やっとわかったよ」


 珍しくルギウスは、怒りを露わにした燃えるような瞳で醜悪ババァを睨む。

 こんな時なのに、そんなルギウスの普段とのギャップに、アタシの胸はトクンと震えた――。


「……【断滅の魔女】様、どうか私を、断滅(ころ)してください」

「「「――!!」」」


 その時だった。

 120年前の聖女メルアが、血の涙を流しながらそう呟いた。

 ま、まだ、メルアの心が残ってるのか……。


「ウェッフェッフェッ、敢えてこの子の心はそのままにしているのさぁ。そのほうが面白いだろぉ? この120年、毎日毎日この子はこうやって血の涙を流しながら、もう死にたいと天に祈るばかりだったぁ。でも歩屍(ゾンビ)だから死ねないんだよねぇ。いやぁ、実に可哀想だよねぇ、ウェッフェッフェッ!! お前もそう思うだろぉ、ウォーレンッ!?」


 醜悪ババァはまたボンクラ王子をビンタした。


「ありがとうございます、【酷屍夢想(デッドチート)】様!」


 最早会話が噛み合ってねーじゃねーか。


「クソが……! テメェのことだけは、何があろうとアタシが断滅してやる……!!」

「ウェッフェッフェッ、ダメだよぉ、ご主人様にそんな口を利いちゃぁ。アンタはもうワタシの忠実な影武者(下僕)なんだからねぇ」


 醜悪ババァがパチンと指を鳴らすと、アタシの身体が勝手に動き、右手で手刀を作ってルギウスと向き合った。

 ――なっ!?


「……マリィ」

「ル、ルギウス……!! 逃げろ……!!」


 このままじゃ、アタシは、お前を――!


「ウェッフェッフェッ、さぁ、今度こそこの舞台のクライマックスだよぉ! 気丈なヒロインが、愛するヒーローを自らの手で殺め絶望に染まるその瞬間を、とくとご覧あれぇ!」


 醜悪ババァはまたボンクラ王子をビンタした。


「ありがとうございます、【酷屍夢想(デッドチート)】様!」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 真相は結構残酷ですが、王子の「ありがとうございます」が良い味を出して、バランスが取れていますね。 本物の聖女様も彼女の恋人も共に穏やかに成仏してくれないかなと願ってしまいます。
[良い点] あれ? この形態、ひょっとしてBBA無双でジョジョった時の…… 回想でもヤバかったのに、デッドチートのヘイト貯め具合には凄まじいものがありますね 許せぬ! ヒーローを殺めそうな展開 果…
[良い点] ありがとうございます!!
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