第14魔:護衛
「そよ風のように抱きしめて
――風刃魔術【そよ風の抱擁】」
【そよ風の抱擁】の風を八等分にし、それを針のような形状にして、一気に撃ち出す。
それが八本の木に貼られている人型の的の頭部に命中し、八つの風穴が開いた。
――あれから数日。
魔力も全快したし、そろそろ本格的に【酷屍夢想】の調査に乗り出すとすっか。
まずはこの前のファイリー山脈の麓に行って――。
「ブラボー! 今日も絶好調みたいだね、マリィ」
「――!」
いつの間にか横にいたルギウスが、いつものキラキラスマイルを浮かべながら拍手している。
「ハッ、お前こそ、今日もアタシのストーキングに精が出てんな」
「フフ、それが俺の趣味だからね」
オイオイ、遂にストーカーだってことを本格的に認め出したぞ?
今更だけど、なんでアタシはコイツにこんな執着されてんだろう?
「アタシに何か用かよ、ストーカー隊長」
「……うん、第一分隊に、王室から直接任務の依頼がきたんだ」
「王室から?」
ってことは、ボンクラ王子からの依頼ってこと?
えぇ……、絶対ろくな依頼じゃないじゃん、それ。
「王太子殿下の御一行がルーサ帝国に訪問することになったから、その護衛を俺たちに頼みたいんだそうだ。その際、必ず君は参加させるようにとのことさ」
「ルーサ帝国に?」
ははぁ、読めたぞ。
大方ルーサ帝国の皇帝のじいさんが、アタシに会いたいとかゴネたに違いねえ。
アタシはあのじいさんに、妙に気に入られてるからな。
でもなぁ、アタシは一刻も早く【酷屍夢想】の調査に行きてぇんだけどなー。
「その任務、どうしてもアタシも行かなきゃダメ?」
「うん、流石に王命だからね、俺たちに拒否権はないよ」
「あっそ」
まあ、ここでアタシがバックレて、ルギウスの立場が悪くなったら寝覚めがワリィしな。
「しょーがねーなー。今回だけは、ストーカー隊長の顔を立ててやるよ」
「フフ、ありがとう、助かるよ。またたまごサンド作ってきたんだけど、食べるかい?」
「おお! 食う食う!」
アタシは差し出されたたまごサンドを奪い取り、それに齧りついた。
んー!
今日のたまごの具もメッチャ濃厚だし、食パンもフワッフワだ!
これならいくらでも食えるぜ!
「フフフ」
「? な、何だよ、いつになくキモい顔しやがって」
「いや、可愛いなと思ってね」
「か、かわッ!?」
途端、アタシの顔がカッと熱を帯びた。
「うるせぇッ! 子ども扱いすんなって、いつも言ってんだろうがッ!」
「別に子ども扱いしてるつもりはないんだけどね。可愛いと思ったから、可愛いって言っただけだよ」
「それが子ども扱いしてるって言ってんだよッ!」
クソッ!
まだ心臓がドキドキしてやがる……!
いつからアタシはこんな、チョロい女になっちまったんだよ……!
「フン、遅いぞマリィ! 未来の国王である僕を、どれだけ待たせるつもりだ!」
「……」
集合場所に着くなり受けたボンクラ王子の第一声で、一気にテンションがダダ下がった。
「なあルギウス、アタシやっぱ帰ってもいい?」
ルギウスにそっと耳打ちする。
「できればもう少しだけ我慢してもらえると助かるよ」
にこやかな笑顔で返される。
まあ、そうなるよな。
ハー、マジダリィなー。
「うふふ、先日は突然の訪問にもかかわらず、ご丁寧におもてなしいただきありがとうございました、ルギウス様」
「いえいえ、大したこともできず恐縮です、聖女様。ああ、俺はちょっと宰相閣下とこれからのスケジュールを確認してまいりますので、失礼いたします」
「……」
ププププー!
まーたフラれてやんのッ!
アイツはアタシのストーカーなんだから、性女ちゃんはアウトオブ眼中だってそろそろ気付こうよ!
それともそのフラれ芸を持ちネタにしよーとしてんのかな?
だとしたら聖女より芸人のほうが向いてると思うぜ、アンタ!
……あれ? そういえば――。
「なあ聖女ちゃん、メンバーってこれだけ? 一応一国の王太子が遠征するってのに、近衛騎士団のメンツが一人もいねーみてーなんだけど?」
今この場にいるのは、ボンクラ王子に聖女ちゃんに宰相のオッサンに馬車の御者、後は第一分隊のメンバーだけ。
いくら何でも少なすぎねーか?
「ええ、今回はお忍びでの遠征とのことですので、メンバーは最小限に抑えているとのことですわ。元よりマリィ様と私がいれば、どんな脅威がきたとしても、殿下をお守りすることは可能でございましょう?」
「……まあ、そりゃあな」
ある意味一番の問題は、アタシにボンクラ王子を守る義理は一ミリもねーってことなんだけどな。
……やれやれ、何事もないことを願いたいばかりだぜ。




