表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

狩り

作者: らぐる

 我々は狩人だ。狩人といっても、何も大きな武器や強力な毒で敵を殺すのが役割ではない。無論やむなくそうするときもあるが、我々にとって最も重大な任務は、食糧を調達し持ち帰ること。命についてはどうだっていい。

 我々には女王がいる。彼女は我々の繁栄の象徴であり、偉大なる母でもある。彼女は戦う力を持たない。故に、誰の前にも決して姿を見せない。我々は彼女のために、食べ物を探す。

 我々にはたくさんの仲間がいる。数を数えたことはないし、数える気も起きないが、その誰もが同じ宿で共に生きる兄弟である。中にはほとんど働かない者もいるようだが、そんなことは関係ない。我々は彼らのために、食べ物を探す。

 我々は弱い。個々では何も成し得ないほどに。我々は我々のために、仲間と食べ物を探すのだ。


 今日は暑い日だ。ジリジリと誰かが叫ぶ声がする。そんな日でも、我々は構わず外に出て、食糧を探す旅に出る。土を踏み締め、草を掻き分け、きちんと隊列を組んで、先へ先へと進んでいく。途中、列からはみ出てどこかへ消えてしまう者もいたが、そんなことは気にしていられない。

 我々はここ数日、一度も食事にありつけていない。仲間も、女王も、そろそろ限界が近い。今日こそは何としても、何か食べられるものを見つけねばならない。


 女王は今もなお、自室で闘っておられる。食糧が足りず、故に栄養も足りず、しかるに我々の繁栄のために、必死に己と闘っておられるのだ。彼女は我々の希望であり、我々は彼女の、そして我々自身の希望である。応えねばならない。女王に、そして我々に。



 どれくらい歩いただろう。風で舞う砂埃の中に、巨大な影が見えた。一度立ち止まり、様子を見てみるが、影は一向に動く気配がない。恐る恐る近づいてみると、そこには背を地につけ空を仰ぐ、巨大な『肉塊』があった。

 ついに食糧を発見した。我々は互いに見合い、喜び合った。飛び回るほどに嬉しかったが、我々にそれは出来ないので、ひとしきり喜びを分かち合ったのち、早速『肉塊』を持ち帰る準備を始めた。

 我々は『肉塊』を囲み、全身を使って一気に持ち上げた。『肉塊』は見た目ほどの重量はなく、栄養不足で弱った我々でも、協力すれば難なく持ち運べそうである。我々は『肉塊』を背負い、帰路についた。


 土を踏み締め、草を掻き分け、隊列を整えて進んでいく。来た道はあまり覚えていないが、仲間たちのにおいははっきりと憶えている。それを辿れば、彼らの元へ戻ることなど我々には造作もない。

 『肉塊』を持たぬ者が仲間たちを先導し、後の者がそれについていく。『肉塊』を持つ者は後ろの方から、『肉塊』を落とさぬよう大事に抱えて追いかける。


 しばらく進んだところで、ふと異変に気づく。前方の列が崩れている。砂埃と草むらで状況がよく分からない。何が起きたか確認するため『肉塊』を仲間に任せて、列の外へ出ることにした。草むらを抜け、辺りを見渡す。


 そこでようやく、取り返しのつかない状況だということを理解した。


 巨大な影が見える。『肉塊』とは比較にならない、比べることすら馬鹿らしくなるほどの、巨大な影が。


 見上げると、足が4本、うち2本の後ろ足でその巨躯を支え、首の下から残り2本の前足を地に向けて下ろした、縦長の生き物がそこにいた。

 縦長の生き物は地につけていた足を上げると、隊列の前方に向けて一気に振り下ろした。

 地響きが鳴る。その大きさから威力は否が応でも想像される。あれに当たれば助からない。今の一振りで、一体どれだけの仲間が死んだだろう。

 その驚異的な一撃に慄き、前方の仲間たちが散り散りに逃げ出す。それを見た縦長の興味は、隊列が崩れてまとまりを失った前方の仲間たちではなく、円を組んで『肉塊』を運ぶ仲間たちに移った。


 我々にとって最も重要な任務は、食糧を調達し持ち帰ること。命については、どうだっていい。

 ある者は縦長の気を引こうと足元を動き回り、ある者は動きを止めようと縦長の足に噛み付く。しかし、我々は弱い。個々では何も成し得ないほどに、弱いのだ。

 噛み付く者は瞬時に振り払われ、動き回る者は見向きもされない。そうして『肉塊』のもとへ向かう縦長を、『肉塊』もろとも踏み潰される仲間たちを、我々はただ見ていることしかできなかった。



 かろうじて形を残していた『肉塊』の欠片を持って、仲間たちの待つ巣に帰る。その頃には、仲間はもう最初の半分ほども残っていなかった。

 そうして得たわずかな食糧は、すべて女王に捧げる。我々が食べる分はおろか、女王だけですら満足に食べられる量ではなかった。

 しかし、それでもいいのだ。女王は我々の繁栄の象徴であり、偉大なる母でもある。彼女さえいれば、我々が滅ぶことはない。


 翌朝。隊列にまた新たな仲間たちが加わった。彼らはまだ生まれたばかりだ。何日も何も食べていない者たちより、幾分か元気がある。

 空腹のあまり共食いを始める仲間たちを尻目に、巣穴から這い出て、列を組む。強い日差しに照らされて、仲間たちの黒い体がきらきらと輝く。

 今日も我々は、食糧を探す旅に出る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ