第7話
その日は晴れていた。
タナゴが朝寝坊しレキが慌てて転んだ朝でもあった。
「今日どこいくの?」
レキが疑問を問いかける。
俺は本部まで出向くことを伝えた。
おそらく以前先輩と会った時に隣りにいたあの少女のことだろうと思われる。あの少女年齢には合わない修羅場をくぐり抜けてきた感が漂っていた。先輩のことはお母さんと呼んでいて懐いていたが俺に対する視線は若干冷ややかだったように感じたがそれも一瞬だった。
本部に到着し警備員に挨拶する。
身分証をみせ、秘密警察の本部に入った。
部屋番号21番。
ここだ。
先輩はデスクに座っていた。
その隣には思っていたようにあの少女が座っている。
「おつかれさん。海で活躍したらしいじゃない。よくやったね」
やれやれ、部下を褒めることは相変わらずうまい。
隣ではレキが先輩に撫でられていた。
デスクには花が置かれ一通りに運動器具も揃っている。
それにしてもまた多くなったな。ダンベルの数が多い。
「先輩また買ったんですか?肉体改造用に。数多すぎますって。」
「いいんだよ。何かと持っておいたほうが安心するんだよね」
「それで今回呼んだ本題はなんですか?」
「そうだね。まあ伝えちゃうとこの子、クレアっていうんだけどちょっと訳ありでね。この子を学校に通わせるからちょっと手配しておいて」
「まあ訳は聞きませんが学校って今まで行ってなかったんですか」
「うんそうそう。私が偶然見つけた子でね。ソアク絡みに関わっていた子なんだよ」
「ソアク?あの活動を再開した?今問題になってますよね」
「そうそう。私はさ、動けないから。久保くんがやっておいて。」
クレアに関する情報を聞き終えた後、やばい雰囲気がした。ソアクは人体実験まで行っているのか。このご時世に。
クレアが挨拶しに来る。
「よろしく久保。」
「ああよろしくな。あと久保さんだぞ」
クレアが話し終えると先輩が椅子から立ち上がり伸びをした。「じゃあそういうことだから後はよろしくね」
帰り道玄関前まで送りに来た先輩がそっと耳打ちをしてきた。
「ソアク、あれヤバそうだね。久保くんとも一発やりあうかもしれないからね。一応こっちでマークしておくからさ。まあ頑張れ」
車が出発しおれたちは本部を後にする。
車の中ではレキ、タナゴ、クレアの三人が座っていた。
「これから仲良くするように」
「はーい。」
レキとタナゴは従順だった。そこら辺りは訓練されている。こいつらが誰かと喧嘩をしたのをみたことがない。といってもこいつら自身はで言い争いをすることぐらいはあるのだが。いっつもタナゴが悪い。
「なあーなあー。ゲームしようぜ。これ知ってる?」
タナゴが気さくに声をかける。
「クレア、それ知らない」
「なあんだ。後で教えてやるよ。そんなことより家帰ったらさ。エンを紹介してあげるよ」
「エン?」
クレアが疑問そうに聞き返す。
「お猿さんのこと。タナゴが飼ってる」
レキがエンのことを紹介した。
その後も会話ははずんだようだった。
俺はクレアが入る学校のことを考えていた。
やっぱり一般の学校は無理だろうな。
家に帰るとタナゴとクレアは意気投合したようでエンの様子を観察する。
「エン、ただいま。今日は俺の子分を紹介するぜー。」
エンはキョロキョロとケージの中を歩いていた。
「こいつ面白いんだぜ。芸も覚えさせなきゃな」
タナゴがエンと話し始めたところで俺はパソコンに向かった。
いま現在、レキとタナゴが通っている士官学校。
年齢に関わりなく暗殺教育が学べる裏の政府の学校だ。
一般には公にされていないものの普通の教科も教えている。クレアは9歳だがなんの問題もない。レキもタナゴもいるしこの学校に入れよう。
ホームページを開き校長宛にメールを送った。
この学校は規律が非常に厳しい。タナゴは10歳から転入しレキに関しては6歳から訓練を受けている。食事もついて教育に関しても手を抜いていない。実技ではそれぞれの生徒に合った暗殺訓練をしている。クレアも才能が開花するかもな。それにしてもクレアは何をしても動じなそうだ。
先輩から聞くところによるとソアクで注射などを毎日のように受け実験動物のようにされていたらしい。困難をくぐり抜けただけに学校なんて余裕だろうな。
クレアの転入が決まった。
翌週から通うことになった。
クレアは朝から慌てていた。
「えっと何が必要なんだっけ?」
それに対してレキがアドバイスをする。
「これとこれ」
タナゴが心配そうに見ている。
慌てていたクレアはエンに挨拶をすると
三人そろって家を出ていった。