第3話
今朝方まで降っていた雨が止んだ。
俺はいつもどおりにコーヒーを淹れる。
「レキ、コーヒー飲むか」
うん、うなずたレキと隣でゲームをしているタナゴ。
こんな何気ない風景だが2日前までは銃撃の前線で戦っていた暗殺者だ。レキは眠たそうな目をした二重の15歳女の子だ。逆にタナゴは強そうな目をした同じく15歳の女の子だ。コーヒーを飲み終えるとレキが愛用している狙撃銃の手入れを始めた。タナゴが一昨日使ったアサルトライフルは泥まみれだったがタナゴは一向に掃除をしない。なんせ自分の愛用じゃないからとのことだ。タナゴが使うおもちゃはナイフが主流で他にもボウガンなども一応は使える。
レキがスナイパー専用として雇われているのと違いタナゴは豊富に武器が使える。汚れたアサルトライフルは俺がシャワー室で洗っておくか。
テレビでは一昨日の暗殺の現場が映し出されていた。
そこには悲惨な血の跡がモザイク加工で映っており実際俺たちはあそこにいた。そんなことを思案していると臨時のニュースが流れてきた。
「ここで臨時ニュースです。国際テロ組織ソアクが活動を開始しました。先日まで同組織トップの榊原総裁がなくなったあと音沙汰もなく活動の気配が見られなかったソアク。本日より再び活動を始めたとのことです。」
物騒な世の中だな。世間にはテロ組織はあるは子供の暗殺者がいるやらで大変な世の中になったものだ。
「ソアク?」
レキがメロンパンを食べながらニュースを見ている。
「なんか総裁が派手な死に方をしたバカな組織だよ」
タナゴが説明を入れる。
まあ立ち上がり出鼻を挫かれた組織だ。俺たちの敵になるとしてももうすこし時間をかけないとな。
ホテルを出て俺たち三人はビーチへ向かった。
ここは静岡県伊豆。
近くには伊豆シャボテン公園があるがこちらには午後行くことになっている。レキはこちらを楽しみにしているようだがタナゴはビーチのほうが楽しみなようだ。
ふたりとも仕事をしている時とは違いどこか楽しげだ。
レキとタナゴは海の家の着替え室で着替えてくるといい、タナゴに関しては俺には絶対に除くなよとの言葉をさりげなく残し着替えに入った。馬鹿野郎。お前たちは子供だ。
と、やることがなくなった。
海に来たのはいつ以来だろう。俺に年齢から考えて5年ほど前だろうか。あのときは違うバディを連れていたな。お互い生き残り、あいつも今年で20歳か。元気にしているだろうか。しかし海というものは暑いな。先輩が強制的に休暇を取らせてきたようなものだろう。先輩というのはオレたちの上司で先輩というのは愛称だ。元暗殺者で昔は何人ものヤマをやってきたとの伝説がある。
「終わったよ」
声に振り向くとそこには純白の水着に麦わら帽子という格好のレキが立っていた。その隣にはこぶりなタナゴ。
「なんだその目は?」
タナゴ、俺はまだ何も言っていないぞ。
ビーチバレーを始めた二人だったが周囲の視線がきになる。色目をした男どもがエロい目を向けている。その視線の先にはもちろんレキ。タナゴに関してはそのことで敗北感を感じていたようだった。俺としてもタナゴもタナゴでかわいいと思っていたがレキの可愛さは怜悧でお淑やかで男の視線を集めるのも無理はないと思った。
タナゴが途中でジュースを買いに行くといって俺からお駄賃を巻き上げたあと、当たり一辺が騒然となった。
「うちの子を助けて」
見れば30代くらいの成人女性が海辺の方を指さしている。
そこには波で流された5才ぐらいの子供が溺れていた。
周囲の人は海の家に駆け込み助けを呼んでいたがライフセーバーは一々動作が鈍かった。なにせライフジャケットも来ていないかった上、こちらに来るまで若干のタイムロスがあった。
「まずいな」
次の瞬間、状況を察知したレキが機械的に反応し、麦わら帽子を踏みつけ海に飛び込んだ。あとからきたタナゴはジュースを買いに行っていた後後ろから何事かと様子を注視していた。
レキの泳ぎは速かった。すぐに溺れている子供に追いつき子供を持ち上げこちらまで引っ張ってきた。引き上げられた子供は意識がなかった。レキはすぐに人工呼吸を始め数分後意識を取り戻した。救急車が到着する頃には子供の母親がレキに感謝を示しレキは冷静に対応していた。
「レキ、お前すごいな」
タナゴがレキを褒め、俺も同じように褒めた。
レキたちは普段鍛えているから様々なことに対応できる。
水泳だってプロ顔負けの泳ぎで今回も解決した。今回のことは上司である先輩にも知らせなければならない。午後予定していたシャボテン公園には行かないことになった。
午後には雨が振り始め俺たちの行方を照らしている。
レキとタナゴは海での活躍について話が盛り上がっているようだった。俺も昔こんなことがあったな。パディである今は20歳のカノン。カノンと俺は仲がよいと評判だった。
鹿島での爆発物の爆破を依頼された任務があった。俺たちは迅速だった。カノンの一言で任務が簡単に動いた。
俺はレキとタナゴを見ながらかつてのカノンを思い出した。夕方雨は上がった。こんなふうに俺たちなら何でも解決できるような気持ちになった。まるで雨が晴れ自然と空気が浄化されるように。浄化≒解決というのはなかなか早とちりにも見えそうだったがそんなことはどうでもよかった。気分の問題なのだ。翌日タナゴが猿を飼いたいと言い始めた。ペットか。これで生産性があがるならオッケーだがちゃんと管理できるのか。まあタナゴはめんどくさがりなところがあるからな。少し前も汚れたアサルトライフルを俺に押し付けたしな。といってもこいつらは子供だ。普段から何かをほしいといっているわけでもない。誠実に任務をこなすプロだ。猿ぐらい飼ってやらんわけでもない。
ということで猿が届いた。
名前はエン。タナゴが決めた。タナゴはネジが外れたように喜んだ。レキも普段見せない笑顔をみせている。これで俺たちのパーディーは4人となった。昔話で「家なき子」という物語がある。あの話でも主人公は猿のサーカスとともに旅をしていたな。猿は芸達者でとてもおもしろかった記憶がある。最後は猿も病にかかってしまい悲しい話となるが猿も幸せに最後を迎えた。
「ウキィー。キー。」
エンはなつくのが早かった。
タナゴは毎日猿と遊んでいた。もちろんゲームも忘れなかったが。
エンが増えパーティーが4人になった俺たちに次の任務が待っている。