喫茶店
皆さんは毎日充実されてますか?
私は、24歳のOL。
中川保子、現在独身の一人住まいである。
今日は仕事休みであるため、色んな所へ散策している。
今日は特に知らない道を行こうと思う。
「……ふぅ、暑いなぁ……」
そうため息をつく。
私の今日のコーデは、麦わら帽子の水色のワンピースに、斜めがけの小さな赤いショルダーバック、白いサンダルで軽快にしあげてみた。
メイクは、ファンデーションのみのナチュラルに。
この真夏のような7月はじめ、25分ほど歩いていたら汗をかき喉も乾いてきた。
曇が少ししかなく、じめじめとした晴れやかな日だった。
ふと、空を見ていた私は左斜め前を見る。
古風な喫茶店がぽつりとそこにはあった。
あまり家々がない田んぼ道。
これを逃せば、休憩できる場所はなかなかないであろう。
私はそっとドアを引く。
カランッカランッと良い鈴の音が鳴り、私はその喫茶店へと入る。
すると、直様ウエイトレスの方が、
「一名様でしょうか?」
と尋ねられる。
私ははいと応えると、ウエイトレスはお好きなところにどうぞと促される。
私は入って右側の隅のテーブル席へ。
そこへ、ウエイトレスが氷のたっぷり入った水とお手拭きを置いてくれる。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
と言われたので、私はすぐに喫茶店のメニューを見る。
少ししてから、
「ブ、ブラックコーヒーとサンドイッチで」
と私が言うと、かしこまりましたとウエイトレスはメニューを下げる。
私はやっと一息つけると思い、中原先生の本を読む。
数分経過したであろうか。
私が本に夢中でいると、
「お待たせしました、紅茶とサンドイッチです」
と、ウエイトレスは置くが直様、
「あの、紅茶ではなくブラックコーヒーです……」
とおずおず私は言った。
ウエイトレスは、すみませんすみませんとペコペコ頭を下げ必死に謝る。
私は、大丈夫ですよと手で必死にアピール。
ウエイトレスは頭を下げながら、紅茶だけ手に取り店の奥へ。
可愛いなあとクスクス笑みを浮かべていた時だった。
いきなりバンッという机を叩く音がしたのだ。
その後、そこにいたカップル一組が何やら言い争う声が。
「だから、てめぇー浮気してるだろう?!」
と男性もとい彼氏らしき人が言う。
「だからさ、何度も言ってんじゃん?してないって!!」
とギャル風の彼女であろう、彼氏の向かいに座っている女性が反論している。
その騒ぎを聞きつけたウエイトレスは二人の方へ向かい、
「他のお客様のご迷惑になりますので、大きな声はお控えください」
とカップルを宥める。
しかしながら、彼氏は、
「他の客つたって先入った女しかいねーじゃねえか!」
と声を荒らげる。
それでも、ウエイトレスは宥めようと必死。
可哀想になる。
少し様子を見ていると、奥の方から大学生であろう男性が出てきては、
「あのー、僕もいること忘れないでもらいます?」
ととぼとぼとカップルに近づいていく。
「ぁあ?うっせーんだよ!」
と、彼氏は大学生の胸ぐらを摑もうとするが、大学生はさっと避ける。
何事もなかったかのように大学生が、
「話聞いてたんですけど、その写メの男性が浮気相手かどうか彼女さんからその男性に電話してもらったらいかがです?彼女さんもやましいことがなければ電話出来ますよね?」
と提案。
「いいわよ!電話しようじゃない!」と、彼女が勢いよく電話をし、携帯電話先には『たくや』と表示されているらしい。
それを見るやいなや、彼氏は、
「ほら、男じゃねーか!」
と鼻をふふんと鳴らしたが、大学生に、
「少しお静かに」
と、冷静に宥める。
たくやと言う人物が携帯電話を取ったらしい。
スピーカにしているらしく、こちらまで音が聞こえてきた。
『もしもし?何だよこんな時間に?』
と、たくやという男性が言う。
彼女が返事をする前に、
「てめぇー、人の女とイチャイチャしてんじゃねーぞ!」
と、彼氏はまくしたてる。
『は?』
と、たくやは何事かわからないらしい。
「ちょっと、直樹黙ってて!あー兄貴?ちょっと浮気疑惑されててさー、忙しいのわかってんだけど電話したぁ」
と彼女が言う。
『ははは。まじかよ?ウケるな、それ』
とスピーカごしに、たくやの笑い声が響いている。
「はっ?あ、兄貴?」
と、彼氏は鳩が豆鉄砲を食ったように素っ頓狂となる。
「だから、浮気じゃなくて兄貴と買い物してたんだよ!」
と、彼女は勝ち誇ったかのように上から目線。
『直樹さん、妹の実から聞いてます。今回紛らわしい事をしてすまなかったね。これからも妹をよろしくお願いします』
と、大人の対応する彼女の兄。
「こ、こちらこそ、その、あー、勘違いで実さんを疑ってしまってすんません」
と電話ごしにペコペコする彼氏。
「私には?私に謝罪はないの?」
と彼女が言う。
「わ、悪かった。早とちり過ぎた。実はやっぱり俺のことすきでいてくれて、そのありがとう」
と、照れくさそうに言う彼氏。
「な、何よ今更!」
と、彼女も照れくさそうにしていた。
何だか微笑ましい痴話喧嘩だなぁと私は思った。
それから、数分後カップルは腕を組みレジで支払いをしたあと喫茶店を出る。
ウエイトレスが、
「先程はありがとうございます!」
と、大学生に深々と頭を下げる。
「大丈夫ですよ。まぁ、解決出来て良かったですね。僕もそろそろ帰ろうかな」
と言い、レジをすませて喫茶店を後にする。
ぽつりと喫茶店内では私一人になってしまった。
それから、ウエイトレスがおまたせしましたとブラックコーヒーを持ってきてくれ、頼んでもないお菓子が出てきた。
ウエイトレス曰く、騒動に巻き込み飲み物を提供が遅くなったお詫びだそうだ。
これは、ご好意に頂くとしよう。
ーーー
それから、私は中原先生の本に夢中になっていた。
数分たったであろうか?
ドアを引く音とともにカランッカランッという音がした。
「いらっしゃいませ」
と、ウエイトレスが言う。
「いつものお願いできるかしら?」
と、穏やかな声で注文する老婆。
杖を付き、少し腰が丸まっている。
私の一つ前の席に向かい同士で座る老婆。
私の存在に気づいたのであろう。
声をかけてくる。
「あらあら、見かけないお嬢さんね。読書が趣味なの?」
と先程と変わらず穏やかな声で質問された。
「はい、読書は好きですので」
と、私は答えた。
「いつもこの時間は私一人なの。良ければ、お話相手になってくれないかしら?」
と、物腰の柔らかなお願いに二つ返事で了承する私。
戦争体験があるのか、第二次世界大戦の話をする老婆。
でも、その時に亡き旦那さんと出会い馴れ初めがあったことなど色々と話してくれた。
私も24だ。
彼氏もほしい年頃ではある。
老婆の話は、戦争を感じさせない。
それどころか生き生きして話す老婆に感心した。
私もお婆さんになればこの方のような老婆になりたい。
そう思わせてくれた。
長い間、話をした。
「あらやだ、もうこんな時間に。お嬢さんお話付き合って頂いてありがとうね」
と、老婆がよっこいしょと言いながら精算をしては、
「また機会があればお話しましょうね」
と、言いゆっくりドアを押しさってしまった。
私もそろそろ帰ろうかな、そう思っていたときだった。
「にゃー」
と、黒猫がいつの間にやら入ってきていた。
恐らく、老婆とすれ違いに入ってきたんだろう。
私の足にすりすりしてくる。
困っていると、ウエイトレスが、
「あら、この猫ちゃんあまり人に懐かないのに。お客様の事が気にいったようですね」
と、言われた。
うーん、困った。
動物は好きだが、飼ったことがない。
このまま連れて帰るのもなぁ。
とりあえず、レジをすませて帰ることにしよう。
そう思い立ち上がると、黒猫がついてくる。
流石に外に出れば、どこかに行くであろう。
ドアを押し、
「ありがとうございます」
そう言いながら、外に出る。
来た道を戻ろうとする。
うーん、後ろからつけられているような。
後ろを見ると、黒猫がふいっと横を見る。
少し歩いたら、後ろを見ると同じことの繰り返し。
仕方ない。
私のマンションは動物OKだ。
「おいで」
そう言うと、にゃーと言いながら駆け寄る黒猫。
抱き上げて家まで帰ろう。
大家さんには言わないとな。
ーーー
家に付き、早速大家さんには説明しOKをもらう。
「さぁ、君はこれから私のパートナーだ。よろしくね」
そう言うと、黒猫はまたしても私の足にすりすりする。
さぁて、今日は色んな事があった。
明日はどんな事が待っているのであろう。
ベッドに寝ると黒猫もベッドに上がる。
頭をなでてあげながら、名前を考えないとなと思いながら就寝したのであった。
ーーー