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武器屋と剣姫

「あははは。ふふふ……あはは」


 レンタルした幌馬車(ほろばしゃ)に乗るナディアは、笑うのを我慢するのだが、堪えきれず吹き出した。かれこれ三十分は笑い続けている。


「あの依頼主さんの顔、面白かったですね。鼻水をたらしていましたよ。ふふふ……」


 炭坑夫二人がかりで持っていた木箱を、僕が軽々と持ち上げた姿を見た依頼主の驚愕の表情が、ツボに刺さったようだ。


「スキル【重力】があれば、どんなに重たい荷物でも簡単に持ち上げられるからね」

「あたしもレーンさんのような、ユニークなスキルが欲しかったです……」


 ナディアと会ってまだ半日くらいしか経っていないが、ひとつわかったことがある。

 この子は利便性とかよりも、自分自身が面白いと思ったことを優先させる性格、ということだ。

 だから、僕が持ち合わせない柔軟な発想力がある。


「あ、そうだ。街を離れる前に武器屋に寄ろう」

「武器屋?」

「うん。ナディアの剣を新調しようと思う」

「これじゃ、ダメですか?」


 ナディアは錆びた青銅の剣を叩いた。たぶん、剣技を極めるスキル【剣姫】を持つナディアだから、錆びた青銅の剣はかろうじて折れずに原型をとどめているのだろう。


「その剣を僕が使ったら、素振りもできないよ。折れちゃいそうで」

「ぶー」

「それに、魔獣の森を突っ切るから装備は整えておきたい」


 僕達が今いる『アクシール』の街から隣街の『エルキザーン』へ行くためには、魔獣の森という危険な森を通らなければいけない。

 魔獣の森を迂回するルートもあるが、それでは日数がかかり過ぎる。最短ルートを通れば、明日の昼くらいにはエルキザーンへ着けるだろう。


「……魔獣の森には、どんな魔獣が?」

「あそこは、ベアウルフの巣だ。熊みたいに大きい狼がいっぱいいるぞ」


 ナディアの赤い瞳が輝いた。好奇心を刺激されたのだろう。

 ベアウルフの討伐難易度はCランク。数は多いがそこまで苦戦はしない。まぁ、討伐クエストじゃないので倒す必要はないけどね。


「よし、着いた」


 アクシールの街外れにある、馴染みの武器屋の前に幌馬車を停める。ナディアは長い髪を揺らし幌馬車から飛び降りた。


 店内に入ると、店主のジンさんがタバコを咥え、暇げに酒を飲んでいた。今日も武器屋には閑古鳥が鳴いているようだ。


「ジンさん。お世話になります」

「おう、レーン。お前、SSランクのダンジョンはどうした? ビビって逃げ出して来たか!」

「いや、パーティをクビになっちゃって……」

「はぁ? あの性格破綻者共に捨てられたか。まぁ、奴ららには良い薬になるだろう……生きていればな! ケヒヒヒ」


 ジンさんはケラケラと笑う。彼は思ったことをすぐ口にする性格が玉に(きず)だ。だが、裏表がなくて付きやすいというのが正直なところである。


「コホン。今日はこの子の剣を見繕ってほしくて来ました」

「ほーん。お嬢ちゃんの剣を? ケヒヒヒ。店内の好きな剣を選びな」

「お嬢ちゃんじゃなくて、ナディア。ナディア=ドロズドフです」

「俺はジン・ハーデスだ。よろしくな嬢ちゃん」


 僕はため息をつく。ジンさんは鍛冶屋としての腕は超一流なのに、商売人としては三流……いや、四流だ。本気で武器を売る気があるのだろうか?


「……もう! かってに見てまわります!」


 ふくれっ面のナディアが剣を選ぶ合間に、僕も自分用の武器を見て回る。

 スキル【重力】との相乗効果がある武器って何かあるかな? 軽くしたり重くしたりできれば便利な武器……。

 んー? んんんんん……。


 武器を前に重力ってなんだという哲学的な問題に足を踏み込み、知恵熱で頭がふらふらになった頃、おずおずとした口調のナディアが声をかけてきた。


「レーンさん、この剣が気になります」

「レイピアか」

「お! お目が高い。ミスリル製のレイピアだぜ、それ」


 レイピアは刺突に特化した作りの剣の一種だ。斬撃も可能で比較的軽く、女性でも扱いやすい。

 しかも、ミスリル製。強度も高いだろう。


「ジンさん。試し切り、いいですか?」

「おう。裏庭を使いな」


 ナディアは大切そうにレイピアを抱きしめて、裏庭へ向かう。僕とジンさんがその後に続いた。


 ★★★★★★★


「……アツ!」


 ジンさんは咥えていたタバコの灰を太ももの上に落とし、悲鳴を上げた。僕はジンさんの悲鳴で我に返る。


 スキル【剣姫】とは、よく言ったものだ。


 レイピアの使い方をジンさんに軽く指導してもらっただけで、ナディアはレイピアの技の奥義すらもマスターしたのだろう。


 ……いや、それ以上かな。


 ただの試し切りなのに、まるで蝶が舞うごとく藁人形を切り裂いた。

 そして、最後に鉄板へ放ったレイピアの刺突。鋼鉄製の板を二十枚重ねた分厚い鉄板を、まるでバターのように貫通してみせた。


 僕はナディアの剣技に、我を忘れて見入ってしまった。ジンさんも同じく我を忘れたようだ。


「少し本気で扱っても壊れない剣って初めてかも……」


 ナディアはとんでもないことを呟く。あれで、あの動きで少し本気なの? マジでやったらどうなるの? こわ!


「おいおいおい、レーン。あのお嬢ちゃん何もんだ!? お前の元パーティメンバーに【剣聖】がいたよな? あいつより技のキレが冴えてないか!」

「ナディアのスキルは【剣姫】。技のキレに関しては彼女が上ですよ」

「な!? 【剣姫】と【剣聖】、二人と知り合いのお前って、何もんだよ……」


 僕は「さぁ」と首を傾げた。実際、そう答えるしかないし。


「お嬢ちゃん。そのレイピア気に入ったか?」

「はい。軽くて頑丈で……よく切れます」

「じゃあ、そのレイピアをやるよ」


 ジンさんは新しいタバコに火をつけて紫煙を吐いて続けた。


「いいものを見せてもらった礼だ。あんな剣技、国王の御前試合でだってお目にかかれないぜ!」

「ありがとうございます。この剣、大切にします」

「おう! ……レーン、お前はは定価で買っていけよ」


 ……っち。


 僕は、スキル【重力】と相性の良さそうな武器をいくつか購入してジンさんの武器屋を後にした。

 珍しく店を出て見送りをしてくれるジンに、ナディアは手を振っている。


「口は悪いけど良い人でしたね」

「ジンさんは、口が悪い、商売が下手、足が臭いってのが玉に瑕なんだがいい人だよ」

「あははは」


ナディアは楽しそうに笑い、もらったレイピアを大切そうにギュッと抱いた。








お読みいただき、ありがとうございました!




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