冒険者ギルドにて4
「……なんか…………クエスト少ないですね……」
ナディアが呟いた。
……あ、そうか。
今日は朝から色々あって時間の感覚が麻痺していたけど、今は昼過ぎだ。人気のクエストなんて朝、ギルドが開くと同時に日銭を求める冒険者たちによって、奪われてしまう。
だから、今残っているのは高難易度のクエストか、安い駆け出し冒険者用の講習用のクエストだけだ。
例えば、牛舎の掃除とか……。
また明日、出直そう……ナディアにそう言おうとしたとき、一つのクエストに目が止まる。
Bランクのクエストで、報酬も高い。なんだこのクエスト?
「荷物を隣街まで運ぶクエスト……」
荷物は貴重な宝石の原石十六箱。なんでこれがBランクのクエストなんだ?
「何かいいクエストがありましたか?」
ナディアが僕に尋ねるので、僕は気になったクエストが書かれた紙を破りナディアへ見せた。
「これ見てみて。報酬が銀貨五十枚なのに人気がないだろ? なんでかなぁと思って」
銀貨五十枚といえば、二ヶ月くらい働かなくても節約生活をすれば、衣食住に困らない金額だ。その日暮の冒険者なら絶対に受注するはずなのに、何で今まで残っているんだろう。
「これ、この宝石の原石ってめちゃくちゃ重いんですよ。しかも例えば、100キロの原石から数グラムしか宝石が採れないんですよね……コスパ最悪です」
「へぇー。物知りだな」
「これでも女の子なので、宝石はちょっと詳しいんです」
僕はチラリとナディアを見下ろす。赤い髪に指を絡めて気恥ずかしそうな顔をしていた。髪で隠れているが耳まで真っ赤になっているのだろう。
可愛い……。
「な、何か?」
視線に気づいたナディアは僕に尋ねる。僕は曖昧な笑みを浮かべ、話を変える。
「これって十六箱で何キロくらいあるんだろう?」
「おそらく、キロじゃなくてトンくらいはありますよ。馬車を数台借りなければ隣街への配達は無理かと……。あ、ほら経費は冒険者負担って書いてあります。これは受けないほうが良いのでは?」
「…………いや、このクエストを受けよう」
「えぇ!? だってこれはクソクエストですよ!」
「僕以外の人には、そうだろうね」
わざと含みを持たせた言い方をしてみた。ナディアは首を傾げるが「あ」と声を漏らす。どうやら気づいたようだ。
「確かに。レーンさん以外にはクソクエストでした!」
ナディアもコロコロと嬉しそうに笑った。
★★★★★★★
「いやぁ、助かるぜ!」
体格の良い依頼主が、無駄に大声で言った。何でこんな近いのに、そんな大声を出すの? ナディアなんかびっくりしちゃって、僕の後ろに隠れているじゃないか。
「ここんところ長雨だっただろ? だから輸送が出来ずに十六箱もたまっちまんだ! 宝石職人にもせっつかれてヨォ、困ってたんだよ!」
「あ、そうなーー」
「うちも貧乏でよぉ。一か八かでギルドに依頼したんだ! だーはっはっはっは!」
「僕たちも、ちょうーー」
「やっぱり神様ってのはいるのかねぇ! 捨てる神ありゃ拾う神ありってな! なぁ、にーちゃん!」
人の話を聞いて……。
「オヤジさぁん。も、持って来ました!」
これまた体格の良い炭坑夫二人が、真っ赤な顔をして木箱を持っている。
見るからに力持ちそうな炭坑夫達が、タマのような汗を浮かべ、わずかに震えているところを見ると、木箱の中身は本当に重たいようだ。
ただ、木箱自体はそんなに大きくないのは、不幸中の幸いだな。
「にーちゃん! これなんだわ! 頼むぜ! 重いからよぉ、腰を悪くするなよ!」
「あ、はーー」
「だーはっはっは!」
だから、人の話を聞いてくれ……。
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