ハズレスキル【重力】2
「すごい! 綿菓子みたい。あはは、これも軽くしてください!」
ナディアは甕をお手玉のように空に放り投げながら、手に持っていた農具を僕に寄越す。僕は【重力】の詠唱をし、投げて寄越された農具を次々に軽くした。
「あんなに重たかった農具がすごく軽い! すごいすごい! 今のあたし、国一番の力持ちみたいじゃないですか?」
甕や複数の農具を器用にお手玉するナディア。確かに客観的に見れば、国一番の力持ちのようだ。
僕は地面に腰掛け、楽しそうにお手玉をするナディアを見ていた。
たいしたことないと思うけど、そこまでキラキラした眼差しを向けられるのもたまには良いかな。
気を良くした僕は、ナディアに一つ提案をしてみた。
「ナディア、空を飛んでみたい?」
「できるんですか!?」
ナディアはやたらと食いつきが良く、僕の鼻に鼻が触れるほど顔を近づけてきた。花のような香りが僕の鼻腔くすぐる。
「手を出してごらん。うん。アンチ・グラビティ・レベルゼロ」
僕はナディアの手を取り、スキル【重力】の詠唱をした。ナディアの体が一瞬輝き、彼女にかかっている重力を軽くしていく。
「うわ! 体が軽くなってる!」
「軽くジャンプしてごらん」
「は、はい」
ナディアは軽くジャンプをした。そうするだけで人間が飛ぶことができる最高地点を軽々と飛び越え、馬小屋の屋根以上の高さまでふわりと体が浮いた。
「うわぁうわー。浮いてます! あたし今浮いています!」
元々、冒険者をやっているくらいだからナディアは運動神経が良いのだろう。空に浮いている状態にすぐに慣れてしまったようで、器用に空中を泳ぎ始めた。
風の流れを掴めば、後は凧のように効果が切れるまで浮き続けることができるだろう。
僕のスキルと相性が悪いと吐き気がしてしまい、空中遊泳どころではないのだが、ナディアは楽しくプカプカ空を泳いでいる。
「レーンさーん! あたし、空を飛ぶのが夢だったんです! ありがとうございまーす!」
「それは良かった。これくらいならいつでも掛けてあげるよ」
「嬉しい! ところで、この軽くなるスキルっていつまで効果が続くんです?」
「半日くらいかな。物によって異なるけど」
そう、僕のスキル【重力】の効果時間は物によって微妙に異なるのだ。また、体調によっても効果時間や効果範囲は左右される。
例えば、めちゃ調子がいいときは、荷物の近くの人間にまで効果が及ぼされ、ふわっと浮いてしまうことがあり、元パーティメンバーからのクレームにも繋がった。
それに、効果が半永久的に続くなら、商売とかでも役に立つんだけどなぁとぼんやり思う。
「ヘェ~、半日かぁ。これ逆に重くしたりってできないんですか?」
「重くする?」
僕の問いに、ナディアはニコリと笑い頷いた。
「そうです! 重くするんです。そろそろ地上が恋しくなってきました」
「ああ、そうか」
荷物を軽くするばかりで重くするなんてことはなかったから、僕のスキル【重力】が重くできるという裏効果があることをすっかり失念していた。
その瞬間だった。
ヒュパっという音をたてたものすごい突風がふく。
「ちょ、嘘でしょ!?」
ナディアが悲鳴をあげる。
森の方から大きな飛竜……ワイバーンが、空中に浮くナディアを餌だと勘違いして空中で捕まえたのだ。
ワイバーンは人間の大人でも持ち上げ連れ去ってしまう肉食性。今のナディアはやつのかっこうの餌になってしまう。
「ナディア、何をしている! 武器で脚を切れ! そいつは人間も食うワイバーンだぞ!」
「剣! ナイフ? ああ、全部置いてきちゃった! こうなりゃ魔法だ!」
ファイアボールの呪文を唱えるが、とてもとても小さな火球があさっての方角へ飛んでいった。
僕は「なにぃ」と間の抜けた声を漏らす。魔法は期待薄。このままではナディアが連れ去られてしまう。
「レーンさん! 助けてくださーい! ひぃーん!」
「ギャアアアアアアアアアア! ギャアアアアアアアアアア!」
バサバサと二、三回羽ばたくと巨大なワイバーンは巣がある森の方へ飛び立った。
「逃すものか!」
僕は腰に帯びた剣を抜くと、巨大なワイバーンの後を追った。
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