海洋都市エルキザーン3
「レーン・クランマー様。報酬の準備が整いました」
コルネーリアさんが、カウンターで僕の名前を呼ぶ。僕はミルクを一気に飲んで、冒険者ギルドのカウンターへ向かう。
「まず、クエストの報酬が銀貨五十枚です」
「ありがとうございます」
「魔獣の核ですが、ベアウルフの核で間違いないと確認いたしました。三二七匹分の核でしたので、金貨三十枚です」
「おお!」
思わず声を上げてしまった。
ベアウルフは図体が大きいものの、そこまで討伐難易度は高くない。しかし、Aランク魔獣よりもお金になったのは、数の力か。数の力は偉大だ!
「問題ありませんか?」
コルネーリアさんはニコリと笑い、尋ねてきた。
「ええ。良い収入になりました。また配達クエストはありますか?」
「えっと、Aランクパーティ用の配達クエストはありましたが、レーン様はBランクパーティなので依頼ができません……」
「あー、そうかぁ……残念だ」
僕は頷く。せっかく配達クエストが面白いなぁと思ってきたところなのに。
「それで……レーン様。お金をお持ち帰りになりますか? それともギルドに、お預けになりますか?」
コルネーリアさんは僕に尋ねる。
クエストが終わり疲れている冒険者を狙い、お金を奪う強盗もいるそうだ。
そのため、冒険者ギルドにお金を預けておくとうシステムがある。預けたお金は、すべての街の冒険者ギルドでおろすことができるのだ。
「今なら金利もつきますが」
「じゃあ、いくらか預けさせてもらいます」
「ありがとうございます」
スッカリ懐が軽くなったところで、「レーンさーん!」というナディアの声が聞こえた。
心なしか声がはずんでいる。何か良いことがあったのだろうか?
「ナディア。もう終わったのかい?」
「はい! ギルド長のアニチキンさんが、レーンさんに会いたいって言っていますよ」
「え? 僕に? お、おい。押すなって」
「早く早く〜♪」
ナディアは僕の背中をグイグイと押して、ギルド長室まで案内してくれる。
ギルド長室には、ギルド長のアニチキンさんとアリアさんがソファーに座って僕を待っていた。
アニチキンさんはすっかりハゲあがった頭に脂汗を浮かべ、しきりにハンカチで拭いている。
「あ、どうも。レーン・クランマーさん」
「どうも、ご無沙汰しております。アニチキンさん」
僕はペコリと頭を下げた。
「まま、座ってください」
促されるままに僕はソファーに腰掛けた。隣にナディアがちょこんと座る。
「僕に何か?」
「ええ。確か『魔法都市シベネレイス』の冒険者ギルドへ行ったことありますよね?」
「あー。前のパーティで何度か」
……あまり行きたい場所じゃあないけれど。
「それはよかった」
アニチキンさんはニコリと笑った。
……とても嫌な予感がする。
「実は、王家から貴重な魔道具を、シベネレイスへ届けて欲しいという配達クエストが来ていまして。それをレーンさんに受けてもらおうかと思います」
「なるほど。……ですが、あのシベネレイスには、Aランクパーティ以上じゃないと行けないですよね。危険すぎて」
僕がやんわり断ろうとすると、ナディアが目を輝かせて羊皮紙を僕に渡してきた。
「読んでください!」
「……仮Aランクパーティ証明書……」
僕はアニチキンさんへ視線を向ける。
「な、なんですかこの仮Aランクパーティ証明書って……」
アニチキンさんはニコリと笑い応えた。
「今のランクパーティのままAランクのクエストが受注できるようになる証明書です。特例で用意しました」
「……えぇ……」
「今回の配達クエストの報酬はAランクパーティへのランクアップということで。いかがですかな?」
Aランクパーティは、それなりに実績がなければランクアップができない、冒険者としては憧れのランクだ。
確かに悪くない話しだが……。
きっと僕は露骨に嫌そうな顔をしていたに違いない。
ナディアは鼻息をふんすと荒げている。
「やります! Aランクパーティになれば、もっと面白いクエストが受けられますよ、レーンさん!」
今まで黙っていたアリアさんが口を開く。
「レーン。クエストをおやりなさいよ。悪い話しじゃなくってよ。荷物を運ぶだけでAランクパーティなんて!」
僕はアニチキンさんから、アリアさんへ視線を向けた。アリアさんは優雅にお茶を飲み、続けた。
「今回の配達クエストにあなたを推薦したのは、わたくし、アリア= ウラジーロフなの。あなたが魔道具を魔法都市シベネレイスへちゃあんと届ければ、王家からウラジーロフ伯爵家へのおぼえもめでたくなるでしょう?」
僕はジトーっとした目でアリアさんを見る。アリアさんはそんなこと気にしないわ、と言った感じに鼻で笑った。
「それに、今回の配達クエストはあなたしかできないの」
「……と、言いますと?」
「あの魔道具はとても重いのよ。道が悪すぎて徒歩でしかいけない、魔法都市シベネレイスへ、どうやって持っていくか、頭を悩ませていたのよ、全員が!」
ティーカップを置き、アリアさんは身を乗り出して言った。
「レーン。おやりなさい? 皆が思っているわ。あなたならやると」
「レーンさんやりましょうよ!」
ナディアもアリアさんに続く。
「もー! わかりました!」
ちょっとヤケクソ気味に怒鳴ってしまった。
アリアさんはニコリ笑い、アニチキンさんは深くため息を吐いた。
ナディア「やった!」と楽しそうにはしゃぐのだった。
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