表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/21

はずれスキル【重力】1

 僕は太陽が昇り始める前に、目が覚めた。いつもの癖というやつだ。あんなにショックなことがあっても健康的に目覚める自分が嫌だ。

 ただ今日、泊まっている場所は馬小屋だ。寝心地がいいはずがない。なので二度寝はしない。


 昨日、剣だけを持って連中が泊まる宿屋を飛び出してしまったせいで、僕はお金を持っていないのだ。頭に血がのぼったからって財布を置いてきちゃったのは痛かったな。


 しかし、元パーティメンバーの連中の金銭管理、僕が全部一挙にやっていたから金貨数枚をくすねても気づかなかったのでは、と思う。

 けど、連中とはこれ以上関わりたくないので、しかたあるまい。


 僕は首をコキコキと鳴らし、馬小屋から外に出る。モーニングルーティンの剣の稽古をしようと思ったからだ。どんなに忙しくても剣の稽古は欠かしたことがない。


「あれ、隣の馬小屋の冒険者さん。おはようございます。早いですね!」


 涼やかな声だった。馬小屋で寝たという不快な気持ちを吹き飛ばしてくれる、元気はつらつな挨拶。

 声の主へ視線を向けると、腰までとどく長い赤毛の少女が農具を持って立っていた。

 確か……、僕の隣の馬小屋で寝ていた子だ。  


「おはよう……えっと」

「あたしはナディアです。ナディア=ドロズドフ。十五の駆け出し冒険者です」

「僕はレーン・クランマー。十八才。よろしく、ナディアさん」

「ナディアでいいですよ! レーンさんは年上なんですから、さん付けはちょっとむずかゆいというか、恥ずかしいです」

「じゃあ、……ナディア」


 ニヘラと調子が抜けた笑みをナディアは浮かべた。僕も気の抜けた笑みを浮かべているに違いない。


「ところで、こんな朝早くから、剣の稽古ですか?」

「うん。これからはソロで冒険者を頑張らなくちゃだからね……。ところで、ナディアは何をしているんだい?」

「あたしは、Eランククエストの農場のお手伝いです。今日のご飯代を稼がなくちゃなので……たははは」

「ふーん。よかったら手伝おうか?」

「えー本当ですか! じゃあ、井戸の水汲みをお願いしてもいいですか?」


 意外と図々しいナディアであるが、僕は気にせず頷いた。

 するとナディアはやはり調子の抜けた笑みを浮かべた。そして、ナディアから井戸と水をためておく(かめ)の場所を教えてもらう。


「はい、水桶です!」

「水桶はいいよ。この甕を井戸のそばまで持って行って水を汲んじゃうから。そうすれば一往復で済むでしょ」


 僕の腰くらいまである大きさの甕を叩き答える。ナディアはコロコロと笑った後に言った。


「何キロあると思っているんですか? 国一番の力持ちだって、水の入った甕を持ち上げるのは無理です。レーンさんの細腕じゃとても持ち上がりませんよ」

「ふふん。荷物持ちは得意なんだ。アンチ・グラビティ・レベルワン」


 僕は固有スキル【重力】の詠唱をする。


 僕が生まれつき持っている、ハズレスキル【重力】。

 凄そうな名前のスキルだが、極端な話、物を軽くすることぐらいしか使い道がない。

 いくつか応用パターンを編み出したけれど、戦闘特化のスキルを持つ、元パーティメンバーの連中と比べれば曲芸の域を出ない、ハズレスキルだ。


「え……えぇ!? 人差し指だけで甕を持ち上げた!」


 甕の縁に人差し指をかけて、すっかりと軽くなった甕を持ち上げると、ナディアは目を剥いて驚きの声を上げた。


「僕の固有スキルは【重力】。物を軽くする程度の能力さ」


 綿毛のように軽くなった甕を、人差し指に乗せ、ボールのようにクルクルと指先で回転させてみる。


「すごい。え? ヤバいです」


 ナディアはひどく驚いたようで、語彙力が著しく低下してしまったようだ……。



お読みいただき、ありがとうございました!








少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、




『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!








評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします( ;∀;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ