海洋都市エルキザーン1
太陽が昇りはじめるころに、僕は野営地へ戻ることができた。一晩中、鉄球でミンチにしたベアウルフの死骸から核を回収していたのだ。
大量のベアウルフの死骸を放置していると、腐敗して流行病の原因になる可能性があるから、なるべく灰にしてきた。
想像以上の数のベアウルフの死骸があり、自分がやったこととはいえ、普通に引いた……。
「おかえりなさい。レーンさん」
ナディアは気の抜けた笑みを浮かべ、僕を迎えてくれた。
「ただいま、ナディア。……アリアさんはどうした?」
「荷台でグースカ寝ています。ふぁ〜」
ナディアは眠そうに目を擦る。
「起きて待っていなくてもよかったのに。眠いだろ?」
「大丈夫です……ふあ〜」
ナディアはひときわ大きな欠伸をする。
「育ち盛りなんだから、ちゃんと寝なさい」
「……はぁい。わかりましたー」
ナディアは気のない返事で答える。やれやれだ。
幌馬車の荷台を覗くと、アリアさんは静かに寝息をたてていた。手足を縛っているとはいえ、自分を殺そうとしたフョードルがいる荷台で熟睡できるとは……度胸がある。
「ところで、ベアウルフの核集めはどうなりました?」
「大量だ。エレキザーンに着いたら、いい宿をとって休養をしよう」
僕はベアウルフの核でパンパンに膨れた皮袋を荷台へ乗せて、答えた。
「楽しみです!」
「エレキザーンは海洋都市だ。海の幸で舌鼓をうつのも悪くあるまい!」
「あたしお魚大好きです!」
ナディアは二ヘラと笑った。
★★★★★★★
太陽が天頂に昇った頃、アリアさんが目を覚ました。
「いたた……。腰が痛いですわ。あら潮の匂い? ……どこに向かっているのかしら?」
「エレキザーンです。あと少しで着くと思います」
アリアさんの問いに、僕は答える。隣に座っているナディアは、うつらうつらと居眠りをしていた。
「まぁ! ちょうどよかったわ。わたくしの別荘がある街ですの」
「本当ですか? それはよかった。僕たちの荷物の配達が終わったら、別荘へお連れしますね」
「ありがとう、レーン。よろしく頼みますわ。それと……フョードルはどうするのかしら?」
僕はナディアをチラリと見た。むにゃむにゃと幸せそうな寝顔をしている。この子を殺そうとしたフョードル。
「彼は、エレキザーンの冒険者ギルドへ引き渡します。まぁ、それなりの処罰が下るのではないでしょうか」
アリアさんは「そう」とだけ答えると、荷台に引っ込んでしまった。
僕は欠伸を噛み殺して、馬車馬に鞭を入れた。
★★★★★★★★
「アクシールから、荷物を届けに来た?」
背の小さい宝石職人さんは、僕をにらむ。気難しそうな感じの人だ。
「ええ。宝石の原石を届けにきました」
「なんだ、馬車一台だけか。じゃあ、たいした量は持って来てないな。困るんだよ、一度に持ってきてもらわないと」
「ああ、十六箱全部持ってきました」
「はぁ? あんた何言ってるんだい? こんなボロっちい幌馬車で、あんなに重たい宝石の原石を持ってこれるわけないだろう。つまらん嘘をつくな!」
「まぁまぁ。とりあえず、見てください」
僕とナディアは幌馬車の荷台から宝石の原石、十六箱を取り出し、宝石職人さんの前に置く。
宝石職人さんは、うさんくさそうに木箱を開けていく。全ての木箱を開けると宝石職人さんは目をむいた。
「おぇおぉお!?」
え、どういう反応!?
「あ、あんた……こんな量の宝石の原石をこんなボロっちい幌馬車と駄馬で持って来たのかい!? 」
「ええ。全部ありますでしょ?」
「おお。確かに! いやー助かったよ!」
宝石職人さんは僕の手を取り、ぶんぶんと振る。
「じゃあ、僕たちは冒険者ギルドに行きますので、受け取りのサインをください」
「ありがとうなぁ、にいちゃん。また頼むよ」
「ええ。ご贔屓にしてください」
サインを羊皮紙に受け取り、羊皮紙を懐にしまう。
あとは冒険者ギルドへ行き、羊皮紙と引き換えに報酬を受け取れば今回の配達依頼は終了だ。
「レーンさん。聞きました? 『おぇおぉお!?』って叫んでましたね。プククク……」
また、ナディアのツボに刺さったようだ。とても楽しそうに笑いながら、僕に言った。
「レーンさんと一緒にいると面白くて、あきません」
「それはよかった」
ガサガサと荷台から、アリアさんが顔を出す。
「荷物のお届けは済んだようね」
「はい。無事済みました。これから冒険者ギルドへ向かい、フョードルさんを引き渡します」
僕は言うとアリアさんは応える。
「もう怖くてしかたがありませんわ」
「そのわりには、グースカ寝ていましたね!」
「そ、そんなことはありませんわ!」
ナディアがアリアさんに言った。アリアさんはちょっと顔を赤くして、そっぽを向いた。
「まぁまぁ。あと少しですから我慢してください」
僕はアリアさんに言う。アリアさんは「ふん!」と荷台に引っ込んでしまった。
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