お荷物、追放!
「レーン。レーン・クランマー。俺のパーティお荷物はいらない。だから明日から、荷物持ちをしなくていいぜ」
「ははは。ブロル、そういう冗談はよしてくれ。荷物持ちだって立派なメンバーだ、って言ってくれたじゃないか」
幼馴染で勇者のブロルが口にしたブラックジョークを笑い、明日の探索準備をしゃがみながら続ける。
僕は剣士……だったが今はただの荷物持ち兼雑用だ。
パーティメンバー五人の荷物と食料を一人で持つので、しっかりしないと荷崩れを起こしてしまう。それに明日はSSランクのダンジョンだからね、念には念を入れないと。
SSダンジョンの情報収集や報酬の計算、パーティ全員の衣食の準備など、やらなければならないことがいっぱいある。
それでもブロルやパーティメンバーのためだと思えば、これくらいへっちゃらってもんさ。
「ブロルさんが話してるだろ、聞けよ無能!」
ドン! っと背中を蹴られ、僕は前のめりで転んだ。盾役のアドリアンが蹴ったようだ。
「アドリアン! 冗談でも仲間に暴力はやめてくれよ……はは」
痛む背中をさすりながら、アドリアンの機嫌が悪くならないようやんわりと注意する。
「冗談じゃねーよ、この無能。理解力ゼロかよ」
「え?」
僕はアドリアンから、ブロルに視線を向けた。
「もう一度言う。レーン、お前は俺のパーティを抜けろ」
「それは、クビってこと? 冗談でしょ? 本気で言っているの?」
ブロルは面倒くさそうにうなずいた。
「そ、そんな。今まで一緒にやってきたじゃないか!」
「……もう、お前のおもりをしたくねぇんだ。だからパーティを抜けろ」
「お願いだよブロル。チャンスを、チャンスをくれないか?」
僕は恥とか外聞とかを捨てて、ブロルの足に縋りついた。
それを見てアドリアンは鼻で笑う。
「邪魔なんだよ! 幼馴染ってだけで何か勘違いしてるんじゃねぇのか?」
ブロルは怒鳴り僕を蹴った。そして、汚いものを見るような目で僕を見下ろす。
諦めずに僕はブロルに訴えようとするが、二人の後ろにいた、黒魔導士のシャルロッタがツカツカと僕の前に来て、怒気を含んだ声で怒鳴った。
「うるさいわね! なんでただの荷物持ちごときが私たちのメンバーを名乗ってるのよ! ほんと迷惑なんだけど。ブロルがクビって言ったんだから諦めなさいよ」
「そんな、シャルロッタ……」
「勇者パーティのメンバー様の名前を気安く呼ばないでくれる? もう他人なんだから! キャハハ」
助けを求めるように、まだ一言も話していない、【剣聖】のスキル持ちであるエレーヌに視線を向けた。
僕とブロルとエレーヌは幼馴染だ。だから助け舟を出してくれると思ったんだ。
「……レーン。正直なところ、君は本当に足でまといなんだ。これからわたし達はさらに難易度の高いSSランクやSSSランクのダンジョンを攻略し、パーティをもっと大きくしたい……」
「それは僕も同じだよ! 高難易度のダンジョンを攻略するために、みんなの荷物持ちを――」
「レーン。みんなの願いを君は邪魔している……。無能スキルのお荷物がいるだけで、パーティの名声が落ちるんだ! レーン気づいてくれ!」
エレーヌは声を荒げた。
「そ、そんな……無能スキルって……」
ブロルとアドリアンが我慢できないとばかりに吹き出した。続いてシャルロッタも笑い出す。
「エレーナ、少しはやんわりと言ってやれよ」
「プッ! ヒヒヒ……わかったか無能スキルのレーンくん」
「キャハハ。エレーヌったらほんとのこと言って、ひどぉい」
涙が込み上げてきた。視界が歪む。
「あ、レーン。お前の装備品はすべてパーティのものだから、全部置いて行けよ~。じゃ~な」
ブロルはそう言い残し、さっさと部屋を出ていってしまった。
僕は呆然としながら、ドア越しに聞こえる「荷物の処理も済んだし飲み行くぞー」というブロルの楽し気な声とメンバーの団欒に、ついに涙を流した。
……僕の頑張りは……無駄だったのか?
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