救いの後は絶望
歩き始めてから10分程経っているが、出口が一向に見えない。というか、出口があるかすら危うく感じてくる。
「大丈夫か…いや大丈夫だよな、うん。」
震える声で自分にそう言い聞かせ、壁に触れてない手を自信を鼓舞するかのように強く握りしめる。落ち着いてきたはずの心拍数もまた徐々に上がり始め、肺に十分な空気が足りてないかのようだ。
「これ…ドッキリじゃないよな、やっぱ。」
先程は驚きのあまり現実逃避していたが、少し冷静になるとどう考えてもこの状況はドッキリじゃない。芸人ならまだしも、一般人にこんな過度なドッキリを仕掛ける番組が今時あるとは思えない。だが、それを自覚するとともに、恐怖心が溢れてきてしまい、俯く。
「…こ…だ」
拭いきれない不安感と恐怖心を抑えようと深呼吸をしていると、前方の方から小さな声らしき音が聞こえる。パッと前を向くと、小さいが道の先に揺らめく小さな光が見える。気がつく前に俺は走り出していた。
「おーーーい!!」
年甲斐もなく、俺は徐々に大きくなっていく光に向かって声を張り上げながら走り、大きく手を振る。近づくに連れ、鉄が鉄に擦れるような音と、銀色に光る何かが見えた。
「マイラ、ヘンリー、準備しろ!」
そう述べる若い男性らしき声に安心感を覚える一方、違和感を感じる。準備とはどういう意味だ?嫌な予感がした俺は、一旦立ち止まり声を張り上げて喋りかける。
「あのー、すみませーん!俺いつの間にかここにいたんですけど、出口が見当たらなくて、助けてくれませんか!?」
そういいながら少しずつ近づくと、メラメラと燃える松明を一つ掲げている人達の輪郭があらわになっていく。そこでまた違和感を感じる。彼らは松明を持っている人物を除き、武器のようなものを手に持ち、まるで何かを攻撃するかのように構えている。
「何者だ!」
「えっ?あっ、俺は和人と言います!家にいたはずなのに、いきなりこんなところで目が覚めて、何がどうなってるかわかんなくて、その、助けてください!」
彼らの持っている剣や大きなハンマーを目にした俺は勿論パニック状態に陥ってる。というより剣なんてどこで得たんだと疑問しか湧かない。
「ねえ、人だよね?」
「ああ、そうらしいな。でももしかしたら盗賊かもしらねーぞ。」
「でも全然盗賊には見えん。」
「そうやって油断を誘ってくるやつらもいるだろ。」
「先に殺る?」
「いや待て、捨てられた奴隷の可能性もある。」
会話を聞いてると物騒な内容だらけだ。途中から気が遠くなって、何言ってるか聞き取れなくなる。
「おい!」
「あっ、はい!」
「今から近づく、まず武器を全部地面に捨てろ。」
「えっ?武器?」
「それと変な動きを見せたら即座に殺すからな。」
惚けている俺を無視し、リーダーらしき青年が剣を俺に向けて構えながらそう言い、もう一人の大男と共にじりじりと近寄ってくる。何をしたらいいか分からず、取り敢えず両手を上に挙げる。
「ヘンリー、確認してくれ。」
「分かった。」
ヘンリーと呼ばれた大男は手に持っているハンマーを床に置き、腰に差してあるナイフを引き抜く。青年はその間俺から一切目を離さず、いつでも動けるように構えている。
「服を脱げ。」
「えっ?」
「貴様が武器を隠し持っているか確認する、だから服を脱げ、上も下も。」
「あの、シャツとズボン両方ともですか?」
「あぁ、両方とも脱げ。」
普通の状況なら絶対に断っていた。だが武器を向けられていると恥じらいもクソもない。俺は震える手で急いでシャツのボタンを外し、シャツとズボンを素早く脱いだ。ヘンリーはナイフを俺に向け続けながら床に置いたシャツとズボンを拾い上げ、ポケットの中身や服の裏側を確認する。
「大丈夫だ、何もない。」
彼がそう言うと、青年と共に彼は武器を鞘に収める。俺への警戒を完全に解いてはなさそうだが、武器が収められたことに安堵し、つい床へとヘタレ込んでしまう。
「悪かったな、服を着てくれていいぞ。」
青年は笑顔でそう言いながら、ヘンリーから俺の服を受け取り俺に渡してくれる。軽く汚れた服から土をはたき落とし、いそいそと服を着ていると青年が俺に話しかけてくる。
「あんた、盗賊じゃなさそうだけど奴隷でもねぇよな。一体どうしてダンジョンなんかにいるんだ?」
「えっ…ダンジョン、ですか?」
「あぁ、というか見る限り武器どころか何の装備もないじゃねーか、ほぼ自殺行為だぞ。」
「いや、その、ダンジョンってあのダンジョンですか?モンスターとかがいる、RPGでお馴染みの。」
「ゲームとRPG?ってのは知らねーけどそんなもんだな。と言うかその口ぶりじゃあんたまさか、ここがダンジョンって知らねぇのか?」
青年との会話を進めていくに連れ、一つ見落としていた可能性に気がついた。これは夢なのだ。ダンジョンとか、剣とかファンタジーのようなものが本当にあるわけがない。そう思うと少し体が楽になってきた、
「もしかして記憶喪失?」
「うむ、記憶喪失かどうかは分からんが、かなり混乱しているようだな。一旦保護して地上へ連れ帰るか?」
「そうだな、運が良いなあんたは。なんたって俺たち「赤き牙」に保護されるんだからな。」
そう言っている彼らを傍目に頬を抓る。普通に痛い。そこで俺は悟る。
「もうここ、日本じゃないよな…」