表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/88

78 襲撃

 バスは公園を出た。

 車内にいるのは、結生と俺とペッポー君1体だけだ。

 ペッポー君はきちんとシートベルトをしめて着席していて、何もしていない。座っているだけだ。

 ペッポー君が乗っている意味はよくわからない。


 何はともあれ、後は乗っているだけでバスが研究所まで連れて行ってくれるはず。

 「ふぅーっ」と息を吐きながら、俺はフルフェイスヘルメットを外した。

 汗びっしょりだったから、ヘルメットをはずすと爽やかな気分になった。


 俺が数秒の間、爽やかリラックス気分でいると、イヤホンから神取さんの声が聞こえてきた。


「木根君。気になることがあるの」


「気になること?」


「自動運転バスが、さっきから襲撃をうけていて。あの赤い腕章の子達の一人みたいだけど」


 俺の背筋に緊張が走った。

 前言撤回。俺達はまだ危険地帯にいる。


「自衛兵団がバスを襲っているってことですか?」


 自衛兵団が囮のバスを追いかけ攻撃するのは、当たり前といえば、当たり前だ。俺達がそう仕向けたのだから。

 でも、神取さんは言った。

 

「そうなんだけど。赤い腕章の生徒達はもうほとんど離脱していて、静かな状態だったの。囮に使ったバスを追いかけてくる者もいなくて。でも、さっきから、すでにバスが3台破壊されている。囮のバスだけじゃなくて、自動運転バスが無差別に襲われているみたい。今、その画像を送ります」


 俺はスマホを取り出し、神取さんが送ってきた画像を確認した。

 そこにはアサルトライフルでバスを撃つ高校生が映っていた。

 背が高く、成人男性並みの体格だけど、うちの高校の制服を着ている。

 2つ目の画像は、その男子生徒がバスの車内で粉砕された囮のマネキン人形の残骸をのぞき込んでいる画像だった。横顔が映っていた。


「黒田……?」


 たぶん黒田だ。

 そういえば、黒田には病院で起きたこと、速川達が死んだことで、逆恨みをされていたかもしれない。

 そのせいで他の自衛兵が避難した後も、黒田は俺を狙って動いているのか……?


 俺が考えていると、突然、銃声と何かが破裂する音が響き、体が浮かび上がったかと思うと、全身に激しい衝撃を受けた。


 ・

 ・

 ・


 俺はどこかに漂っていた。

 上には青空が広がっている。

 はるか下には草原が広がっている。

 俺はその間の空中を漂っていた。


 暑くもなく寒くもない。

 心地よい風、浮遊感、それが永遠に続くような気がした。

 とても幸せな気分だ。

 もうずっと感じたことのない幸福感。

 何も心配しなくていい。俺はこのまま漂っていればいい。

 そんな気がした。


 永遠に浮かんでいるような気分でいると、どこかから、微かな声が聞こえた。


「こっちだよ。こっち」


「誰? どこ?」


 俺がつぶやくと、また声が聞こえた。どこかで聞いたことのある声だった。


「ほら、こっちだよ。みんなここにいるんだから。早くおいでよ。ここに来ていないのは木根君だけだよ?」


「みんな? どこに……?」


 俺は、声の聞こえた下の方に行こうとした。

 だけど、その時、俺の幸福な浮遊感は終わった。

 激しい力で体を上の方に引っ張られる感覚がする。

 俺はどんどんと何かに吸いだされるように上昇していき、そして、突然、吐きだされるように叩き落とされた。


 ・ 

 ・

 ・


 俺は全身に、特に頭や肩や背骨に、どっしりとした重さと痛みを感じた。


「うぁっ。いってぇ」


 さっきまでの幸福な感覚との落差が激しくて、一気に地獄に叩き落されたような気分になった。

 すぐに結生の声が聞こえた。


「先輩! だいじょうぶですか?」


「結生?」


 俺は体を起こそうとして、頭をぶつけた。

 俺はなぜか運転席の座席の下にいた。しかもほとんどさかさまの変な状態で。

 俺はがんばって座席の上に這いあがった。

 バスの中は少し薄暗かった。いつのまにか外は曇りになっているようだ。


「よかった……。先輩が死んじゃったかと……」


 心配そうな結生の声に続いて、少し不機嫌そうな中林先生の声が聞こえた。


「大丈夫だと何度も言っただろう。医療用ペッポーである23号に搭載されていた計測機能でしっかり生存を確認しているのだ」


 俺の近くに23号らしきペッポー君がいて、中林先生の声は、そのペッポー君から聞こえていた。

 俺は立ちあがって車内の様子を確認した。


 フロントガラスには亀裂が入っている。

 車内には、ガラスが散乱している。

 バスの真ん中あたりにあったドアは破壊されている。

 車内に散乱しているガラスは、あのドアの残骸だ。

 ドアがあった空間には、今は工事中の看板が置かれていた。

 たぶん、ゾンビが入ってこないようにペッポー君が置いたんだろう。


 結生は一番後ろの席に座っていた。


「だって、確かめようとしてもペッポーさんが通してくれないから、わからないんです」


 結生は不満そうにそう言った。


「流血している感染者に触れてはいけない。何度言えばわかる」


 中林先生は珍しく良識的な主張をしていた。


「文亮。手足は動くか? 捻挫や骨折がありそうだが」


 中林先生にきかれて、俺は少し体を動かしてみた。

 力がうまく入らないけど、動かせることは動かせる。

 痛みは、ほとんどない。

 見た目と動き的に、足首は捻挫してそうだし、腕や脛も骨にひびが入っているかもしれないけど。

 たぶん、ゾンビウイルスのせいで痛みの感覚が普通より鈍くなっているんだろう。

 最初の頃は俺の症状は皮膚だけだと思っていたけど、なんやかんやと脳神経も色々と影響を受けていそうだ。


 俺はまだぼんやりしたままの頭で尋ねた。


「いったい何が?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ