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ゾンビになったと追放された俺は人類を救えるかもしれないけど人類は救いようがない  作者: しゃぼてん
7章 逆襲のゾンビ王

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75 ゾンビの大群

 俺は階段があるステージ横に向かって走った。

 俺は焦って半分パニックになっていた。

 何が起こっているのかよくわからない。

 だけど、ゾンビ達は確実にステージの方に向かって進んでいる。

 

 (俺も一刻も早く結生の元へ行かないと!)という思いで頭の中が一杯になってくる。

 実際、俺は早く結生のところに行かないといけない。

 だけど、俺がそう強く願ったら、共感能力の高いゾンビ達が、さらに加速してしまうかもしれない。


 俺は「冷静になれ」と自分に言い聞かせながら、中林先生にたずねた。


「先生、状況を教えてください。どうなっているんですか?」


 中林先生は淡々と報告してくれた。


「付近のゾンビが全員公園内にむかって移動している。我々が連れてきた数以上のゾンビが公園内に雪崩れこんでいる。ゾンビの数は数百人に達するかもしれない」


 数百人。

 嘘から出たまこと。

 本当にゾンビの大群が攻めてくることになってしまった。

 それだけのゾンビがステージに上がったら、もう結生を助けられない。


 なのに中林先生は危機感のない、どちらかというと少し興奮した声で話を続けた。


「公園から離れた場所でも少し前からゾンビが一定方向に進んでいるようだ。感応現象であることは間違いないだろう。それも、記録にないほど大規模で強力な現象だ」


 俺は苛つきながら言った。


「ゾンビはどうやったら止められますか? 感応現象を起こしているのは俺じゃないです」


 中林先生は落ち着いた声で言った。


「付近に感染初期の者がいるはずだ。私としてはぜひこの現象をじっくりと観察したいが。感応現象をとめたいなら、その発生源をどうにかしろ」


 この感応現象を引き起こしている者。

 俺には心当たりがあった。

 何がなんでも結生をたすけようとする者は、俺だけじゃない。


 寧音だ。


 寧音は、パラダイスワンにいた蛇タトゥーゾンビの返り血を浴びていた。

 たぶん、寧音は感染している。

 そして、あいつは、強い決意で結生の元にたどり着こうとしている。

 自分がゾンビに影響を与えてしまうことを知りもせず。

 自分の愛と執念が結生を絶望的に危険な状況に追い込んでしまうことを想像もせず。


 無理だ。

 この感応現象は、止まらない。


 ゾンビ達の一部はすでにステージ周辺の芝生の広場に入っていた。

 じきに非感染者を見つけたゾンビ達は、精神感応と関係なく、ステージに寄っていくだろう。

 寧音を探していたら、もう間に合わない。


「先生、ただちに救出を開始します。俺はこのままステージに突入するので、できるだけ早くバスをよこしてください」


「承知した」


 続々と、林の至るところから芝生の広場へとゾンビが出てくる。

 そしてゾンビ達は芝生の広場を横断してステージへと近づいて行く。


 一部のゾンビ達は、なぜか歩きながら踊っていた。

 その先頭には見覚えのある制服のゾンビがいた。

 橋本ゾンビだ。

 ボロボロの制服姿の橋本ゾンビが他の同じくらいボロボロの制服の女子生徒ゾンビを引き連れて、ウーウー唸り、いや、たぶん歌いながら、踊り歩いている。


 どうやら、この隔離地区内に俺達の高校があったらしい。

 橋本の他にも、あの感染爆発の日以来久しぶりに見かける同級生たちの姿があった。

 その中には、おかしな形に曲がった手足で這って進んで行く生徒会書記だった宇野の姿もあった。


 芝生を歩くゾンビの中には血を流しているゾンビもいた。

 自衛兵に撃たれたのだろう。

 何人ものゾンビが腕や足から血を滴り落としていた。

 俺のせいで怪我をさせてしまったのだから、申し訳ない。

 だけど、今、あのゾンビ達が結生に近づけば、それだけで感染リスクがある。


 この状況で唯一救いなのは、ステージの方に戻ってくる自衛兵は一人もいないことだ。

 自衛兵達は皆、犬養を見捨てて逃げたようだ。


 一方、犬養と3人の自衛兵はまだステージ上にいた。


「団長! 数が多すぎます! 脱出しましょう!」


「木根を追いかける。行くぞ」


 そんな声が聞こえた。

 犬養と3人の自衛兵は、俺が上がろうとしているのとは反対側の階段に向かって動き出した。

 犬養は結生を置いたまま脱出する気だ。

 酷い奴だ。

 でも、犬養達には脱出してもらった方がいい。その方が安全に結生を救出できる。

 俺はそう判断し、あいつらを行かせることにした。


 ところが、俺とは反対側からステージに向かってゾンビを追い抜き疾走する者がいた。


「団長、誰か、走ってきます!」


 刀を持った女だ。

 寧音だ。

 犬養達が階段に到達する前に、寧音は階段を一気に駆けあがった。


「結生!」


 寧音の呼び声を聞き、結生は寧音の方に顔を向けた。


「お姉ちゃん?」

 

 ステージ上で、寧音が躍動し、そして、寧音にアサルトライフルを向けようとした自衛兵が、一瞬で袈裟懸けに斬られた。

 幸い、結生には見えていない。

 だけど、俺の目にははっきりと自衛兵の首筋からあがる血しぶきが見えた。


 そして、その斬られた自衛兵を盾にしながら、寧音は別の生徒に近づき、容赦なく腹部に刀を突き刺した。

 今、刺されたのは、たしか、同じ学年の……名前は思い出せないけど、あいつは、たしか生徒会に入っていた。

 寧音にとっては知り合いのはずだ。


 それでも寧音は容赦なく、一瞬の躊躇もなく刺していた。

 寧音にはとっくに人を殺すことに躊躇いがないのだろう。

 それが結生のためならば。


 狂気のように強い家族愛。

 それは俺の胸を打つ。

 だけどきっと、殺された生徒のことを同じように愛する者もいたはずだ。


 ステージ上に犬養の声が響いた。


「とまれ、高木」


 そう叫んだ犬養は、結生の頭に拳銃を突き付けていた。

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