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72 作戦段階1&2

 ちょうど、犬養がステージの前方に出たタイミングで、俺のわざとらしくて気に障る笑い声が公園の外から響いてきた。


≪フハハハハー。俺の名は木根文亮。ゾンビの王だ。今日はお前たちのために、ゾンビの大群を連れてきてやった。逃げるなら今のうちだぞ≫


 救出作戦第1段階の始まりだ。


 あの苛つかせる声は、もちろん、あらかじめ録音しておいたものだ。

 俺はもうちょっと格好いいボス敵をイメージして録音したんだけど。なんか、むしろ滑稽でウザい感じに聞こえる……。残念だ。


 この録音は乗り捨てられていた選挙カーのスピーカーから中林先生がペッポー君を操作して流している。

 最初は普通の拡声器をつかって近くのビルからペッポー君で再生する予定だった。

 だけど、たまたま公園から1ブロック離れたところに選挙カーが捨てられているのを見つけたから、利用させてもらった。

 それにしても選挙カーの音は公園内までガンガン響いてきて、うるさい。

 近所迷惑もいいところだ。

 今は誰も住んでいないからいいけど。


≪ゾンビを前に逃げないとか、お前らバカなのか? 感染したくなかったら早く避難しろよ。俺はゾンビの軍勢を操るゾンビの王だ。おまえらに勝ち目はない≫


 俺のバカにしたような声がガンガン響いてくる。

 もちろん、俺はゾンビの王なんかじゃない。どっちかっていうとゾンビの介護士だ。

 ゾンビの王になんて、なりたくないし。

 なのになんで自称・ゾンビの王なのかというと、俺を特別なボスゾンビ扱いして狩ろうとする犬養の作戦を逆手に取ることにしたのだ。

 俺が特別な恐ろしーいゾンビだと言うのなら、その恐ろしさで脅してやる。


 今頃、中林先生が公園の外に駐車した自動運転バスのドアを開け、ゾンビの群れを外に放ってくれたはずだ。

 公園からちょっと離れた、ゾンビ達が公園内の非感染者に気がつかない程度離れた場所に。

 だけど、辺りを警戒している自衛兵達はゾンビに気がつく。

 そして、俺が本当にゾンビの軍勢を連れてきたと思いこむ。


≪それに、万一おまえらが勝っても、感染したら終わりだろ? 俺のゾンビ軍団と戦って感染しないで済むと思っているのか? 無理だって。死にたくなかったら、早く逃げろよ。今なら許してやるからさ≫


 昨夜、自衛兵達の会話を盗み聞きしていた俺は知っている。

 自衛兵全員がやる気に満ちているわけではない。

 やる気を失っていてボス級ゾンビに遭遇したくない奴もいる。

 本音ではすぐに避難したい奴もいる。

 しかも、あいつらは逃げ出したって罰をうけるわけじゃない。

 逃げ出した時のリスクはせいぜい学校の人間関係だけ。

 だったら、ゾンビの軍勢とゾンビ王のハッタリで脅したり説得したりして、逃げ出しやすい状況にすれば、逃げ出す奴がでてくるはずだ。

 

 といっても、俺がゾンビ達を連れてきたのは、脅しのためではない。


 ステージ上で、犬養が叫んだ。


「ゾンビを掃討しろ。木根を探せ!」


 予定通り、自衛兵団はゾンビを発見したようだ。

 そして、犬養の指示を受けてゾンビを迎撃しに、ステージ前に集まっていた自衛兵達が公園の外へと広がっていく。

 元気に走っていく奴もいれば、重い足取りで行く者もいる。

 いずれにせよ、ステージ前の自衛兵達はいなくなった。


(よし。第一段階、成功)


 これが、俺の狙いだった。

 自衛兵達をステージ前から引き離すこと。

 結生をたすけるためには、とにかく結生の周辺にいる自衛兵の数を減らさないといけない。

 バスで連れてきたゾンビの本当の役割は、そのための囮だ。


 もちろん、実際にゾンビの軍勢に犬養を攻撃させることもできた。

 だけど、実際に戦闘になってしまっては、ゾンビ達に犠牲者が大勢出てしまう。

 どう上手く戦っても、ほぼ全員、殺されるだろう。

 それに、乱戦の中で結生が巻き込まれるかもしれない。

 結生にとっては、自衛兵もゾンビもどちらも脅威だ。

 ゾンビに襲われたり自衛兵に殺されたりする可能性があるのはもちろん、流れ弾やゾンビの出血がふりかかるだけで絶望的な状況になる。

 頭の中でシミュレートしてみたけど、どうやってもあっという間にGAME OVERだった。

 だから、俺は囮作戦の方を採用した。


 さて、自衛兵達は公園の外のゾンビ達を倒しに移動していった。

 このままだと自衛兵達がゾンビに攻撃して、ゾンビの虐殺が始まってしまう。

 だから、ここで次の手を打つ。

 俺は公園の外に向かう自衛兵達の動きを確認し、小声で中林先生に指示を出した。


「第二段階開始」


「開始する」

 

 救出作戦第2段階「走るゾンビ運転手」。


 自動運転バスの運転席に、俺に変装させたマネキン人形を乗せて走らせる作戦だ。

 マネキンは昨日俺が着ていたような服を着ていて顔に包帯をまいている。

 「走るゾンビ」というメインターゲットを発見した自衛兵達は、雑魚ゾンビを無視して「走るゾンビ」を追いかけるはず。

 この2つ目の囮で、なるべく早めにゾンビ達から自衛兵を引き離す。自衛兵達がゾンビを殺す前に。

 そして最終的には、なるべく多くの自衛兵を公園から離れたところに連れ去る計画だった。


 ちなみに服とマネキンはさっきデパートで入手した。デパートへは別のものを入手しに行ったんだけど。店内でマネキンを見てこの作戦を思いついたのだ。

 「走るゾンビ」マネキンは、本物の俺よりスタイルが良くて、昨日俺が着ていたのより高価な服をきている。だけど、バスの外から見たぐらいじゃわからないだろう。

 ついでに、囮のバスからも俺が事前に用意した録音を流す。


「感染したら終わりだぞ。感染したら家族にも友達にも、もう二度と会えないんだぞ? ゾンビになったら、一生俺の奴隷だぞ? いいのか~?」


 そんな感じのやる気をそぐセリフが延々と続く録音だ。

 移動中やデパートで目当ての品を物色中に録音していたから、俺の声もかなりやる気がない。

 あの声を聞き続けたら、自衛兵も士気がだだ下がって避難する……といいな、と期待して準備した。

 

 中林先生が淡々と状況を報告してくれた。


「走るゾンビバス運行中。敵に発見され、追跡を受けている」

 

 上手くいっているようだ。

 俺は結生を救出する隙をうかがうためにステージ付近の観察を続けた。


 残る問題は、ステージ上に残っている犬養をふくむ7人の自衛兵だ。

 あいつらにも「走るゾンビ」こと俺の偽物を追いかけさせたい。

 もちろん、囮は3つ目も用意してある。

 「走るゾンビ運転手バス」が囮だとバレた時、あるいは、俺か先生が必要だと判断した時に、3つ目の囮を動かす予定だ。


 ステージ上で自衛兵の一人が犬養に何かを報告していた。

 たぶん、「走るゾンビ運転手」を見つけたという報告を受けたんだろう。

 犬養が興奮した様子で、「そのバスを追いかけろ!」と叫んでいた。

 犬養は、まんまと騙されているようだ。

 ここまでは、作戦通り。

 順調にきている。


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