59 ようこそ、パラダイスへ
中林先生は相変わらず淡々と言った。
「すぐ傍にある出入口から入れ。ドアのカギは、今開ける」
俺が目の前にあるアミューズメント施設の裏口に近づくと、カギは中から開錠された。
俺はドアを開けて中に飛びこんだ。飛びこんだところで、俺は慌てて立ちどまった。
目の前に子供くらいのサイズの何かがいる。
子供のような声が聞こえた。
「ようこそ。パラダイスワンへ。わからないことがあったら、なんでもボクにきいてね」
俺の目の前には、子どもくらいのサイズのロボットがいて、笑顔で俺を迎え入れてくれている。
これがペッポー君と呼ばれる接客ロボットだ。
ペッポー君は二足歩行可能で、二本の腕を自由に動かすこともできる。
握手やじゃんけんはもちろん、ダンスやスポーツもちょっとならできるという。
顔はロボットらしいけど小学校低学年くらいの子どもの顔にも見える。
ロボットなのに表情豊かで、高齢者施設でも大人気の癒し系ロボットだ。
俺はペッポー君の笑顔につられて思わずにっこり話しかけちゃいたくなったけど、もちろん、そんな暇はない。
人型ロボットを素通りして、俺は建物の中に入った。
俺が今いるのは長い通路だ。ここには誰もいない。
俺は小声でスマホの向こうの中林先生にたずねた。
「先生、俺の友達はどこに?」
「ボウリングコーナーだ。同じフロアにある。……妙だな。構成員は数十人いるはずだが、そのフロアには外で見かけた6人以外誰もいない」
理由はわからないけど、敵が少ないのはラッキーだ。
「ボウリングコーナーへは、どう行けばいいですか?」
「そこからむかって右に進み、角を道なりに左折しろ」
俺はボウリングコーナーに行くため、無人の広い通路を走った。
なぜか後ろからペッポー君がついてくる気配がしていたけど、気にしていられない。
「……ふむ、地下か」
中林先生がつぶやく声が聞こえたので、俺はたずねた。
「地下に敵が?」
「いや、敵ではない。敵はボウリング場の6人だけだ」
パラダイスワンは営業停止してしばらくたっているはずだけど、廊下は今もきれいだった。
壁にはスプレーで大きくPaPaPARADISEという文字とラクガキが描かれているけど、床は滑って転びそうなほどツルツルだった。
不良連中が頑張ってお掃除しまくっている……とは思えない。
廊下の角に、丸や四角の床掃除用お掃除ロボットが停まっていた。たぶん、あのお掃除ロボットたちが自動で掃除を続けてきたんだろう。
廊下は綺麗だけど、次第に異臭が鼻をつくようになってきた。
激しい臭いに、俺は思わず走るスピードをゆるめた。
広いピカピカの廊下の突き当りには階段があり、左に曲がるとエレベーターやエスカレーターがあった。吐き気をもよおす臭いはその階段やエスカレーターに近づくにつれ強くなっていった。
(この臭い……)
死体の臭いだ。わかりたくない臭いだけど、わかってしまう。
それに、ここにはゾンビがいる気がする。見える範囲にはいないけど。
たぶん、別の階にゾンビが徘徊し死体が放置されている場所があるんだろう。
だけど、結生がいるのはこのフロアだ。今は関係ない。
角を曲がったらすぐにボウリングコーナーが見えた。
正面入り口から入ってすぐの場所だ。
パラダイスワンの入り口近くの壁には、スプレーでWelcome to PARADISEという文字と下品なラクガキが沢山書かれていた。
その上から、壁の白い部分に血痕がべったりと付着していた。
ボウリングコーナーの入り口には、また笑顔のペッポー君がいた。
「ボウリングコーナーへようこそ。わからないことがあったら、ボクにきいてね」
俺は挨拶をするペッポー君を無視して受付を駆け抜け、ボウリング場の中に入った。
少し進むとボウリングのボールが並ぶ棚があった。
その棚の向こう、ソファが並んでいる場所に、6人くらい男がいるのが見えた。
派手でギラギラした格好のヤンキー達だ。
年齢は十代後半から二十歳過ぎくらいだろう。
俺はこれまで関わったことがないタイプ。理性的な会話が成り立たなそうな奴らだ。
男達は何かを……たぶんソファに倒れている結生を囲んで立っている。
でも結生の姿は、ここからは見えない。柱やディスプレイが邪魔で見えない。
俺が入ってきたことに、男達は気がついていない。俺はいったん棚の影に隠れ、考えた。
俺は数学国語理科社会、どの教科のテストでもあいつらに勝てる自信があるけど、ケンカなら絶対に負ける。
だけど、問題ない。
俺がやるべきことは、あいつらを倒すことではなく、結生から引き離すこと。
そして結生を逃がすこと。
難易度は高そうだけど、敵が6人だけなら、どうにかなるかもしれない。
この建物内にゾンビがいるなら、ゾンビのいる場所に誘導すればいいのだ。
俺は小声でスマホにむかってささやいた。
「先生、この建物内のどこにゾンビがいますか?」
先生の返事は即座に返ってきた。すでに確認済みだったようだ。
「地下だ」
(よし。敵を挑発して俺に引きつけ、地下に誘導しよう)
俺は作戦を決めた。




