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ゾンビになったと追放された俺は人類を救えるかもしれないけど人類は救いようがない  作者: しゃぼてん
5章 ピア・プレッシャーの感染拡大防止効果

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49** 速川良太4

 相田英斗と草野一平のフェイスガードは真っ赤で、顔がよく見えないほどだった。

 フェイスガードの中にも血が入りこんでいるが、ゴーグルをしているから目は守られている。

 良太の懐中電灯の小さな光は3人の足元を照らしていた。

 破れた輸血パックの血だまりの中に、いくつかのメスと手術器具が落ちていた。

 良太は、震える声で黒田に言った。


「輸血パックはただの輸血用の血液だから、だから、血を浴びても、大丈夫だよな? な、順?」


「良太。黙ってろ」


 黒田がいらついたように良太に言った。黒田がこんな態度を良太にとるのは初めてだった。


「感染初期の感染者が輸血パックにゾンビの血液をいれた可能性はある。それに、輸血パックが感染源じゃなかったとしても、あのメスは感染源だ。最初に出てきたゾンビは切り刻まれていた。血のついたメスでケガをしたものは?」


 黒田の質問に、誰も答えない。

 無意識のうちに、良太の銃を握る腕に力が入っていた。


「メスでケガをしたものは?」


 黒田がもう一度繰り返した。草野一平が、一平らしくないか細い声を上げた。


「英斗がメスで耳をケガ……」


 英斗は激しい口調で一平にくってかかった。


「一平、おまえこそ、さっき注射器が刺さってただろ。あの注射こそ感染源だろ! おまえ、感染してんだろ! おまえが輸血パックを撃ったんだ! おまえが俺達を感染させようとしたんだろ!」


 一平は必死に言い返した。


「オレじゃない! 輸血パックなんて、オレは撃ってない! オレはまだ感染なんてしていない! 注射器なんて、あんなちょっとの針なんかで感染するもんか!」


「黙れ!」


 言い争う二人を黒田が一喝した。

 黒田の懐中電灯の光が、まずは英斗の耳を照らしだした。血で汚れていて、傷口があるかは良く見えない。


「血をぬぐえ」


 英斗はポケットから小さなタオルをとりだし、耳をふいた。

 血が無くなったところに、新しく溢れ出た血液が流れていった。


「切り傷がある」


 黒田は冷静な声で言い、それから、懐中電灯の光を一平にむけ、きつい口調で言った。


「一平、おまえは右腕が切り裂かれている。それに気がつかないのはなぜだ? 痛みを感じないんだろ?」


 草野一平は自分の腕を見た。

 一平の肘までたくし上げたワイシャツの下、前腕には、よく見るまでもなく、メスで切られた大きな切り傷があった。

 普通なら激しく痛みを感じるはずだ。痛みを感じないのはゾンビウイルスの影響かもしれない。

 一平は、すでに発症しているのかもしれない。

 黒田は宣告した。


「一平、理性が残っているなら、自分で始末をつけろ」


「いやだ! ちがう! なにかのまちがいだ! オレは、オレは、感染なんてしない! 感染なんて……」


 激しい銃声が響いた。

 一平の頭がふきとんだ。

 至近距離からアサルトライフルで一平を撃ったのは、横にいた相田英斗だった。


 英斗はアサルトライフルを血に濡れていない床に置き、木村隆に手をさしだした。

 動こうとしない隆から、英斗は拳銃をもぎ取り、震える手で自分の頭に拳銃をつきつけた。

 英斗の歯がガチガチと鳴っていた。


「相田英斗、いきます!」


 銃声が響いた。英斗の体が崩れ落ちていった。

 血だまりに二人の遺体が横たわっていた。

 サッカー部で、自衛兵団で、一緒にやってきた仲間たち。

 生意気で腹が立つこともあるけどかわいい後輩たち。

 パンデミックで突然以前の日常生活が失われた中で、良太が錯乱したり絶望したりせずに生きてこられたのは、サッカー部の仲間がいたからだった。


「そんな……そんな……」


 呆然としてつぶやき続ける良太の横で、黒田は冷静な声で言った。


「隆」


 木村隆がびくっと動いた。


「隆、おまえは2班で一番慎重な奴だったな。いつでも、一番に飛び込んでいくのは英斗だった。なのに、さっきはどうして、おまえが一番にこの扉の先を確認しようと言った? どうして、先頭に立って進んで行った? まるで、俺達を誘導するように?」


 言われてみれば、確かにそうだった。だけど、わざとのはずがない。

 偶然、不審な音を聞きつけて進んだ先にゾンビがいただけだ。走るゾンビを追いかけていたのだから、ゾンビがいる方に進むのは必然だ。

 だから、隆を責めなくても、と良太が思った時、黒田は命令した。


「隆、ズボンの裾を上げろ」 


 木村隆は震える手で左足のズボンの裾を上げた。黒田の懐中電灯はふくらはぎを照らしだしていた。

 そこには、歯型があった。

 黒田が詰問した。


「いつ噛まれた? なぜ、すぐに言わなかった?」


 木村隆の全身が震えていた。


「パトロール中に、寝ていたゾンビが……。すみません……すみません……。怖かったんです……。死ぬのが、怖かったんです」


 黒田が拳銃の引き金を引いた。2発、木村隆の頭に正確に銃弾を撃ちこんだ。

 3人目の死体が床に崩れ落ちた時。良太の目の前の世界は白くなり、何も見えなくなっていった。


 




「先輩。良太先輩。何ぼーっとしてんすか?」

 

 行儀悪く座った相田英斗が、良太に話しかけてきていた。

 ここはサッカー部の部室だ。

 ユニフォーム姿の部員達が座っていて、英斗の横には一平もいる。少し離れたところに隆も。


「しっかりしろよ。良太。ちゃんと作戦聞いていたか?」


 同じ学年の三上がそう言った。


(ああ、そうか。俺達は地区予選の試合のための作戦会議中だったんだっけ)


 良太は一人で納得した。なんだか不思議な感じがした。

 三上の家は遠くて、隔離地区の外にあったから、三上とはしばらく会っていなかった……。

 そう思ったところで、良太は部員全員がそろった部室の中を見まわした。

 ここは、たぶん、ゾンビパンデミックが起きる前の学校の部室の中だ。


 黒田が良太にもう一度作戦の説明をしてくれた。

 それを聞きながら、良太はほっと溜息をついた。

 悪い夢を見ていたようだ。ゾンビが徘徊するありえない世界の。

 あの悪夢は、やっぱり現実じゃなかった。まるで現実のように長く続いた日々だったけど。

 それとも、あれは悪い未来なのだろうか。そんな気もしてきた。


(きっと時間が過去に巻き戻ったんだ。ここからやりなおせば、きっと未来が変えられる……)

  

 良太はそう思った。

 そう思い、良太は再び英斗に目をやった。

 英斗は額から血を流していた。一平の顔は無くなっていた。

 ガラガラと幻の世界が崩れ去っていった。





 どこかから大きな叫び声が聞こえていた。


「あああああああーーーーー」


 その声は、良太の自分の口から出ているようだった。どうやっても止まりそうにない。

 目の前には、懐中電灯の光で照らされる、血だまりに倒れた3人の姿があった。


 良太は気がついた時には真っ暗な廊下を走り出していた。


「良太!」


 黒田の声が後ろから聞こえた気がした。

 良太は立ちどまらなかった。

 足は勝手に動き続けていた。


 走り続けてしばらくして、良太は立ちどまった。

 どこかから、ドアが開閉するような音が聞こえた。

 良太はゆっくりと歩きながらアサルトライフルを構えた。

 物音がする。何かが存在する気配がする。

 引き寄せられるように、良太は物音のする部屋に近づいていった。

 思考がマヒしたような状態で、良太はその部屋の扉の前に立った。

 良太はゆっくりと扉を開いた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっと噛まれたり傷つけられただけで即ゾンビ化するのに、よくこんな装備で安易にゾンビだらけの建物に入ろうとするなぁ。 でも注射器でぶすっと刺して一発感染即退場って、最強すぎる。
[良い点] 死の危険が有るのに空気を読む日本人。 その結果、被害者を出す辺り平和ボケしていたとしか思えない。 俺なら構わず避難するのにと思う反面、あー日本人高校生ならこう言う奴ら絶対いるわという納得感…
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