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ゾンビになったと追放された俺は人類を救えるかもしれないけど人類は救いようがない  作者: しゃぼてん
4章 感染防止の自衛行動

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38 ホテルでゆっくり

 俺はレストランの厨房に入り、食べ物を色々と入手した。

 冷蔵庫も冷凍庫も動いていたので、おいしそうな食べ物をたくさん入手できた。特に最上階のレストランには良い物がたくさんあった。

 といっても料理はできないので、俺が入手したのはそのまま食べられる保存食とかだ。

 例えば、クラッカーにチーズ三種(カマンベール、パルミジャーノ、ブルーチーズ)、ロースハム、生ハム、オリーブ、ドライトマト、アンチョビ、それから、キャビアだ。俺は、キャビアを生まれて初めて食べた。

 デザートには、ジェラートの盛り合わせ。


 結生も「こんなに豪華なものを食べたのは初めてです」と喜んでいた。

 まだ今の無法地帯状態に慣れていない結生は「でも、お金はだいじょうぶですか?」と言っていたけど。

 もちろん、お金は払っていない。そもそも金額が不明だ。

 たしかに、俺は防犯カメラにバッチリ映っているから、パンデミック収束後に起訴されるかもしれないけど。今の俺は、そんな可能性の低い未来を気にする気にはなれない。

 俺は結生には「もし逮捕されたら、監禁されていました。食べ物は無理矢理食べさせられました。と言えばいいよ」と言っておいた。


 豪華なセルフ・ルームサービスを食べた後。

 結生がシャワーに入ると言ったので、俺は別の部屋に移動することにした。

 俺が部屋の外に出ると言うと、結生は不思議そうにたずねた。


「なんでですか?」


「この部屋のバスルーム、なぜかガラス張りなんだよ」


 結生は笑っていた。

 全体的にこのホテルは部屋の作りが海外ホテル風なんだけど。なんと、ベッドの方からガラス張りのバスルームの中が丸見えという驚きのデザインなのだ。

 ツインルームなのに、ガラス張りにするなよな。すごい不便だろ。

 たぶん、ダブルルームと同じ仕様なんだろうけど。

 

 結生が風呂に入っている間に、俺は隣の部屋でさっと3分くらいでシャワーを浴びた。着替えはないから、汗臭い服をまた着ないといけない。

 風呂から出ると、俺はシーツを切り裂いて包帯のようにして顔に巻き付けた。

 すっかりミイラ男みたいな見た目になってしまった。だけど、ゾンビだとバレるよりは、包帯だらけの怪我人のふりをした方がいい。俺がどんな見た目だろうと結生は気にしないし。


 それから俺はデスクの上にノートパソコンを広げ、デジタル双眼鏡で犬養を撮影した映像をパソコンで拡大して確認した。

 犬養が持つライフルは、どう見てもその辺にある猟銃ではない。国防軍か警察の特殊部隊に配備されているものだろう。ゲームで見たことがある。名前はおぼえていないけど、たしか、アメリカ製のライフルだ。

 犬養が制服の上、左腕に付けている赤い腕章には「自衛」という文字が書かれている。


 俺は今度は広瀬達の映像を確認した。

 広瀬の後ろにいる高校生達は犬養同様、律儀に制服を着ている。制服を着るのがあのグループのルールなんだろう。違う学校の制服を着ている奴もいるから、学校を超えた組織だ。


 俺は腕章を確認した。犬養の物とほぼ同じ赤い腕章。「衛兵」「兵団」という文字が見える。犬養の腕章とあわせると、「自衛兵団」。

 腕章は中国の紅衛兵みたいだし、名前は、ポーランド人を殺戮したナチスの自衛団みたいだ。虐殺の香りしかしない。本人達は気に入っているんだろうけど。

 

 男子高校生達の内二人は拳銃を持っていた。俺は拳銃の映像を拡大した。

 一つは角度が悪くて良く見えない。もう一つには、桜のマークらしきものがかろうじて見えた。あれはたしか、国防軍の拳銃に刻印されているものだ。たぶん、国防軍のSFP9とか、そんな感じの拳銃だ。

 もう一人はアサルトライフルを持っていた。これもゲームで見たことがある。たぶん、国防軍の20式小銃。

 

 俺はノートパソコンを片付けながら考えた。

 「自衛兵団」は学生が作った自警団みたいなものだろう。

 隔離地区内でゾンビ狩りを行う非公式集団。

 いかにも犬養がやりそうなことだ。

 はた迷惑な正義感に燃えて「俺達の手でこの町をゾンビから守ろう」とか言っちゃってるんだろう。


 だけど、なんで高校生の自警団が国防軍の武器を持っているんだ?

 そもそも、今はまだゾンビの「安楽死」は法律上認められていないから、国防軍は隔離地区内でゾンビに対する軍事作戦を行っていない。

 ……そういうことか。


 感染拡大を収束できない政府は感染者を殺したがっている。世論もそれに大賛成だ。

 でも、法案改正が終わっていない今は、警察や国防軍は大っぴらに隔離地区内のゾンビを殺害することができない。

 だけど、一般市民が自分の身を守るためにゾンビを殺したことにすれば、誰も責任を問われない。

 つまり、ゾンビ狩りをする学生自警団は、政府にとって都合の良い組織だ。それこそ、毛沢東にとっての紅衛兵やヒトラーにとっての自衛団のように。

 だから、犬養達はこっそり国防軍かその関係者から武器を提供してもらっているんだろう。

 そう考えると納得がいく。


 その後、俺はホテルの最上階に移動し、いくつかの部屋から双眼鏡で周囲を確認した。

 ここからは、ゲートの一つが確認できた。

 俺の目的地である研究所付近の様子も。


 俺は一通りやるべきことを終えると、結生のいる部屋に戻った。

 結生はテレビをつけていた。

 ベッドに座った風呂上りの結生はマスクを外していた。

 髪の毛はまだ濡れている。

 結生はずっとマスクをしていたから、顔を全部見るのは初めてだった。……正確には1年ちょっとぶりなんだろうけど、俺は以前会った時の結生の顔を覚えていない。


 きれいだった。

 あどけなく、かわいい顔に、濡れた髪が少しはりついている。

 俺の動悸が激しくなった。

 ゾンビの本能が俺の中で暴れだしそうな気配を感じて、俺は慌てて結生から視線をはずした。


 テレビで流れていたのは、夕方のニュースだった。

 トップニュースは、国会が急に休会になったというニュースだ。

 感染対策のためらしい。突然休会になったということは、何かが起こったんだろうけど。何が起こったのかは決して報道されない。

 ニュースを見ながら、俺はつぶやいた。


「国会って、リモート開催じゃなかったんだ」


 いまだに政治家達が国会議事堂に集まっていたとは。「密を避けよう! 外出は自粛しよう! テレワークにしよう!」って、えらい政治家達があんなに言っていたのに、わざわざ集まっていたんだな。


 トップニュースなのに国会休会のニュースはすぐに終わり、次の特集に移った。

 今日の特集は、「ゾンビウイルスは蚊から感染することがあるのか?」だった。


「蚊から感染……?」


 本当だとすると、恐ろしい。俺はいいけど、結生が心配だ。

 海外の研究によると、確率は低いけど感染する可能性があるらしい。そのために蚊の多い地域での感染者数が爆発的に増えているのではないかと、コメンテーター達が言っていた。

 テレビに出ている人達は、「確率はとても低く、交通事故にあう方が確率は高いですから、心配いりません。通常の感染対策を取れば問題ありません」と言っているけど。

 誰もテレビの専門家なんて信用しない。

 たぶん、今頃、殺虫剤とか蚊取り対策グッズが爆買いされているだろう。

 それに、今まさに、テレビでは蚊を寄せ付けないグッズのCMが流れている。……スポンサーかよ。


 CMが終わった後、テレビではいつものように感染者数が増加傾向にあるという話題になった。

 国防軍が大規模安楽死会場の準備を進めているという映像が流れた後、司会者がコメンテーター達に話を振り、コメンテーター達は口々にコメントした。


「なんとしてでも感染者数を減らさないと。そのためには、大規模安楽死センターを活用し、早く安楽死措置を進めないといけません。1日10万人規模を目標に安楽死措置を進めるべきです」


「私もそう思います。感染者の安楽死こそが感染収束のための切り札なんです。元の生活に戻すためには、安楽死を積極的に進めるしかありません」


「ゾンビの人権がどうとか、そういうことを言っている時じゃないと思うんですよ。そうこうしている内に、ますます犠牲者が増えていきますからね。もう法案成立を待っている必要はないんじゃないかと……」


 その辺りで結生は、テレビを切った。

 なんとなく気まずい沈黙が部屋の中に漂った。

 それはそうと、俺は急に不安になって、部屋の中に蚊がいないかを確認した。

 そろそろ蚊の多くなる季節だから。


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